人里ひとざと)” の例文
旅人なら、夕陽ゆうひの光がまだ、雲間くもまにあるいまのうちに早くどこか、人里ひとざとまでたどりいておしまいなさい——と願わずにいられない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
場処ばしょもどの辺ということが土地の人にはよくわかっている。矢野※という荘園のうちで、人里ひとざとより一里ばかり離れたところだとある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まえにもいったとおり、ヘクザ館は人里ひとざとはなれた山岳地帯にあるのだから、こうなっては、辞去じきょすることもできないのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食物しよくもつはおもによるくさ果實かじつうを、かになどをとり、ときには人里ひとざとて、家畜かちくをかすめとつていくこともあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ぼうさんはそのうち人里ひとざとに出て、ほっと一息ひといきつきました。そしてはなやかにさしのぼった朝日あさひかって手をわせました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
人里ひとざととおはなれたやまなかへ、いよいよおひめさまはうつることになりました。そして、おとものものもついてゆきました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
男たちは、とうから人里ひとざとかせぎにりて少時しばらく帰らぬ。内には女房と小娘が残つて居るが、皆向うのにぎやかな蔵屋の方へ手伝ひに行く。……商売敵しょうばいがたきも何も無い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
東の辰さんの家では、なりは小さいが気前の好い男振りの好い岩公が音頭とりで、「人里ひとざとはなれた三軒屋でも、ソレ、住めば都の風がゥくゥ、ドッコイ」歌声うたごえにぎやかにばったばた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
梅の花の香りの流れているところは、きっと、それは人里ひとざとです。梅の樹のないところには、その土地に住みなれたお爺さんもいなければ、人のいないところには梅の花も咲かないのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
... だれいてるものがなかつたので一そう復習ふくしふをするに都合つがふでした)『——さア、大分だいぶ人里ひとざととほはなれた——緯度ゐど經度けいどへんまでてるでせう?』(あいちやんは緯度ゐどなにか、經度けいどなにか、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
人里ひとざと遠く傳はれば
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
……さて、あたれば、北国ほくこく山中さんちゆうながら、人里ひとざと背戸せど垣根かきねに、かみかせたもゝさくらが、何処どこともそらうつらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出逢であってみた以上は連れて還らねばすまぬと、いて手を取って山を下り、ようやく人里ひとざとに近くなったと思うころに、いきなり後から怖ろしい背の高い男が飛んできて
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しろは、さびしいところにありました。にぎやかなまちるには、かなりへだたっていましたから、おおい、人里ひとざとからとおざかったおしろなかはいっそうさびしかったのであります。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
淡路島あわじしまの中央部、人里ひとざとはなれた山岳地帯のおくに、ヘクザ館という建物がある。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いいえめしは持つてます、うせ、人里ひとざとのないを承知だつたから、竹包たけづつみにして兵糧ひょうろうは持参ですが、おさいにするものがないんです、何かちっと分けてもらひたいと思ふんだがね。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
城趾しろあとあたりは、人里ひとざととほいから、にはとりこゑからすこゑより、五位鷺ごゐさぎいろけやう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うまるやうではかく人里ひとざとえんがあると、これがためにいさんで、えゝやつといまもみ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて、人里ひとざとはなれました山懷やまふところで、仙人せんにん立直たちなほつてまをしました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)