一枝ひとえだ)” の例文
このなかを、れてんだあを銀杏いてふ一枝ひとえだが、ざぶり/\とあめそゝいで、波状はじやうちうかたちは、流言りうげんおにつきものがしたやうに
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みち、山に入って、萩、女郎花おみなえし地楡われもこう桔梗ききょう苅萱かるかや、今を盛りの満山まんざんの秋を踏み分けてのぼる。車夫くるまやが折ってくれた色濃い桔梗の一枝ひとえだを鶴子はにぎっておぶられて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おお、ひどい」どこかの奥仕えらしい中年の女が、立ちすくんで、もすそを押えた。落花を捲いてゆくつむじ風が、女の胸にかかえている一枝ひとえだ牡丹ぼたんの葉をむしるように強く吹いた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがやかしいなつのことでありました。少年しょうねんが、そとあそんでいますと、はなかざられた、ひつぎをのせた自動車じどうしゃが、往来おうらいはしってゆきました。そして、みちうえへ、一枝ひとえだしろはなとしてったのです。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は一枝ひとえだをお葉に渡した。お葉も黙って受取うけとった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
沙に寝て青き柳を枕とす李夫人の手にありし一枝ひとえだ
「おもん。一枝ひとえだ、婆あの位牌いはいさあげてろ。」
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
なにならんと小走こばしりしてすゝりつ一枝ひとえだ手折たをりて一りんしうりんれかざしてるも機嫌取きげんとりなりたがひこゝろぞしらず畔道あぜみちづたひ行返ゆきかへりてあそともなくくらとりかへゆふべのそら雲水くもみづそう一人ひとりたゝく月下げつかもん何方いづこ浦山うらやましのうへやと見送みをくればかへるかさのはづれ兩女ふたりひとしくヲヽとさけびぬ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一枝ひとえだかつられ、一輪いちりんはなめ。なんぞみだりにつまあだして、われをしてくるにところなく、するにすべなからしむる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はたけに出てあか実付みつき野茨のばら一枝ひとえだって廊下の釣花瓶つりはないけけ、蕾付つぼみつき白菜はくさい一株ひとかぶって、旅順りょじゅんの記念にもらった砲弾ほうだん信管しんかんのカラを内筒ないとうにした竹の花立はなたてし、食堂の六畳にかざる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
または新鮮な一枝ひとえだの木の葉で
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
あの、その上を、ただ一条ひとすじ、霞のような御裳おすそでも、たわわに揺れる一枝ひとえだの桂をたよりになさるあぶなさ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地では珍しいから、引越す時一枝ひとえだ折って来てさし芽にしたのが、次第にたけたかく生立おいたちはしたが、葉ばかり茂って、つぼみを持たない。ちょうど十年目に、一昨年の卯月うづきの末にはじめて咲いた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼうとなどった白紙しらかみで、木戸の肩に、「貸本」と、かなで染めた、それがほのかに読まれる——紙が樹のくまを分けた月の影なら、字もただ花とつぼみを持った、桃の一枝ひとえだであろうも知れないのである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)