つぐみ)” の例文
十月になると山鳥だのつぐみだのがうんとこさ獲れるんだよ、そのまた美味うまいったら、……三度三度、あたしゃ幾日食べても飽きないね。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
他の一方には、饒舌じょうぜつすずめのどを鳴らす山鳩やまばとや美声のつぐみが群がってる古木のある、古い修道院の庭の、日の照り渡った静寂さがたたえていた。
鳥の中でも、かささぎとか、樫鳥かけすとか、くろつぐみとか、鶫とか、腕に覚えのある猟師なら相手にしない鳥がある。私は腕に覚えがある。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
チチコフは再び眼をあげて、またしても太い腿と恐ろしく長い口髭を持ったカナリスや、ボベリーナや、籠の中のつぐみを眺めた。
その晩、かえってくると師匠はからすみだの、海鼠腸このわただの、つぐみの焼いたのだの、贅沢なものばかりいい塗りの膳の上へ並べて晩酌をはじめた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
串差くしざしにしてあぶる小鳥のにおいは広い囲炉裏ばたにみちあふれたが、その中には半蔵が土産みやげの一つの加子母峠かしもとうげつぐみもまじっていると知られた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一つ二つつぐみが鳴きはじめ、やがて堡楼の彼方から、美しい歌心の湧き出ずにはいられない、あけぼのがせり上ってくるのであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのかはり、秋、つぐみのとれる時分に是非いらしつて下さい。その時分には、よく東京のお方がお見えになります、といふ。
炉辺 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
生きとし生けるひよや百舌、つぐみのたぐひ、木々の枯葉に驚く声も、けけつちやう、ちやうちやう、きいりきいりと親まる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昨夜ゆうべつぐみじゃないけれど、どうも縁あって池の前に越して来て、鯉と隣附き合いになってみると、目の前から引き上げられて、まないたで輪切りはひどい。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たらいの中でシャツを洗ったり、つぐみのように口笛を吹きながらくつをみがいた。ベルリオーズの言葉でみずから慰めた。
はしばみの高い頂の枝にもはや田の上に下りて来ぬ春のつぐみが枝がくれに、幾声も高く油囀あぶらさえずりの最中であった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
雀が耳ざわりな音でしか鳴らないのに、つぐみの類が甘美な、心をそそるような声で鳴くこともわかった。
そして彼がそれを見てゐるうちに、窓につみ上げてある青葉の枝に止つてゐた一羽のつぐみが唄ひ始めた。
けれども小さいもの、鳥でいえば、つぐみとかうずらとかすずめとか、魚でなら、いわしとかあじとかいいますものは、りたて、または締めたてでなくては美味うまくありません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「みゝずという奴は、眼も耳も無い癖に、さとい奴でね、お嬢さん。土から首を出しかけているときにねえ、つぐみの鳴き声が聞えると、ちゅっと、こう首を縮こますのですよ」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いばらや木の枝が、こう、ご婦人の寝乱れ髪って工合に繁っていて、そのなかにはつぐみもいれば虎もいる。そいつをやぶのそとからぶっ放す……檻のなかの獣を撃つより楽なもんです。
おれは木の頂上につぐみの群れがいっぱいに止まっているのを見ていると——一本の木ではない、たくさんの木に止まっているのだ——そうして、みな声を張りあげて歌っているのだ。
美濃から信濃にかけては秋に入ると、つぐみの売買が盛んであるが、好いオトリの何年かを飼い馴らしたものは、ただの仲間の麹漬こうじづけになる鶫の、何千羽を集めたよりも高い価を持っている。
一所にくぬぎの林があった。新芽を吹いたばかりであった。そこでつぐみが啼いていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先ず大別すれば三通りの焼き方がありまして、雀、田鴫たしぎつぐみ椋鳥むくどり雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ、カケス、山鴫やましぎ、山鳩、鴨、小鴨、がん、牛、羊なぞはあまり焼き過ぎない方が良いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
青いつぐみが食卓にのぼりだすと、聖餐式のやうに澄んだ夜ごとが、ひらける…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
わずかに其処に常住するからす——これもこの大きな松の梢の茂みの中に見る時おもひの外の美しい姿となるものである、ことに雨にいゝ——季節によつて往来する山雀やまがら四十雀しじゆうから松雀まつめひよどり、椋鳥、つぐみ
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
若しそれ、風絶えて空曇りたる寒き日の暮れ近く、つぐみの餌をあさりながら空庭に散り積った落葉をがさりがさりと踏み歩む音の寂しさに至っては、恐らくは古池の水に蛙の飛び入る響にも劣るまい。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
砂利しける十楽院上陵の阪道の杉の木立につぐみむれとぶ
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
例えば瑠璃、きびたき、黒つぐみなどと。
つぐみ鳴く葡萄園に導きたい。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そらひじり、あかづらつぐみ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
今もつぐみが来て啼くか
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ごく薄く条のようになり、布を引くように、——しかし天も地もすっかり明けはなれて、森の中ではしきりにつぐみが鳴きはじめた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのかはり、秋、つぐみのとれる時分に是非いらしつて下さい。その時分には、よく東京のお方がお見えになります、といふ。
炉辺 (新字旧仮名) / 堀辰雄(著)
さらについたのは、このあたりで佳品かひんと聞く、つぐみを、何と、かしら猪口ちょくに、またをふっくり、胸を開いて、五羽、ほとんど丸焼にしてかんばしくつけてあった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぐみは、林の中に帰ることを急いでいた。くろ鶫は、例ののどを押しつけたような叫び声をしきりにあげていた。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
もちや網で捕れるつぐみひはの類はおびたゞしい數でした。雀などは小鳥の部にも數へられないほどです。子供ですら馬の尻尾の毛で雀のわなを造ることを知つて居ました。
すり切れた服とほこりだらけのくつのままで構わない、と言い出した。それでも彼はつぐみのように口笛を吹いて管絃楽の各楽器を真似まねながら、自分で服を着替え靴をみがいた。
そしてこの性を抜いた豪華の空骸なきがらに向け、左右から両側になって取り付いている二階建の小さい長屋は、そのくすんだねばねばした感じから、つぐみわたの塩辛のようにも思う。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ボベリーナのそばの、すぐ窓際には、鳥籠が一つ懸っていて、黒っぽい地に白い斑点のあるつぐみが一羽その中からのぞいていたが、それがまた、ソバケーヴィッチによく似ていた。
つぐみや鳩の類が沢山とれた。ただ、烏と小さな目白の類とを、父は決して撃たなかった。
楠の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうして彼の獲物袋には、ひわつぐみかりなどがはち切れるほどに詰まっていた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人がかりで大騒ぎをして三十郎に足洗すすぎをつかわせると、手を取らんばかりにして囲炉裏のそばへ連れて行き、それ飯をかしげ、風呂を沸かせ、柿の葉鮨でもつくらんか、糀漬のつぐみをいださんか
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鳥などは食に飢えているために、ことに簡単な方法で捕えられた。二、三日も降り続いた後の朝に、一尺か二尺四方の黒い土の肌を出しておくと、何の餌もおとりもなくてそれだけでひよどりつぐみが下りてくる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日もつぐみ
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「今夜はお酒を召上りません? お美味いしそうなつぐみが買ってあるのですけど、……なんだか沈んでいらしって淋しいわ」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
トントントントンとまないたを打つのが、ひっそりと聞えてこだまする……と御馳走ごちそうつぐみをたたくな、とさもしい話だが、四高(金沢)にしばらく居たことがあって
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぐみの群れが、牧場まきばからかえりに、かしわ木立こだちの中で、ぱっとはじけるように散ると、彼は、眼を慣らすために、それを狙ってみる。銃身が水気すいきで曇ると、袖でこする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
つぐみのとれる季節で、半蔵は途中の加子母というところでたくさんに鶫を買い、六三郎と共にそれを旅の中食に焼いてもらって食ったが、余りの小鳥まで荷物になって
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
町の周囲は皆、牧場と丘陵だった。花咲いた灌木かんぼくの中には、つぐみのうれしげな鳴き声が、快活な明朗なフルートの小合奏をしていた。クリストフの不機嫌ふきげんは間もなく消えた。
肉皿アントレにはつぐみを差し上げようと思っているのですが、実はその鶫なるものはまだ糸杉シープレスてっぺんの巣の中で眠っているのです、なにしろね、鶫なんてやつは目覚めざといからこうやって、子守歌でも聴かせて
赤いつぐみが飛んで行った
今日もつぐみ
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)