魚屋さかなや)” の例文
君江は軒先のきさき魚屋さかなやの看板を出した家の前まで来て、「ここで待っていらっしゃい。」と言いすて、魚屋の軒下から路地ろじ這入はいった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道をくような風をして如才じょさいなく話しかけて、となりの家ではどこの魚屋さかなやから魚を買っているかということを半七は聞き出した。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まる取巻とりまいたなかから、ひょっこりくびだけべて、如何いかにもはばかった物腰ものごしの、ひざしたまでさげたのは、五十がらみのぼて魚屋さかなやだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
男は洋服を着た魚屋さかなやさんとでもいった風体ふうていであり、女はその近所の八百屋やおやのおかみさんとでも思われる人がらであった。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ぼくは、かなしくなりました。そうして、二人ふたり魚屋さかなやまえにくると、ちょうど、赤犬あかいぬとよその子供こどもあそんでいました。
僕の通るみち (新字新仮名) / 小川未明(著)
身体を動かすような仕事を幾代は出来るだけ彼女にさせなくなった。その上いろんな細かい世話までやいた。魚屋さかなやが来ると自分で立って行くことさえあった。
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その眞下ましたに、魚屋さかなやみせがあつて、親方おやかた威勢ゐせいのいゝ向顱卷むかうはちまきで、黄肌鮪きはだにさしみ庖丁ばうちやうひらめかしてたのはえらい。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日々ひび得意先を回る魚屋さかなや八百屋やおや豆腐屋とうふやの人々の中に裏門を通用する際、かく粗末そまつなる木戸きどをくぐらすは我々を侮辱ぶじょくするなりといきどおる民主主義の人もあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
世間を見ればここに坊主と云うものが一つある、何でもない魚屋さかなやの息子が大僧正になったと云うような者が幾人いくらもある話、それゆえに父が私を坊主にするといったのは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「この邊に魚屋さかなやは無いでせう」
魚屋さかなやが人家の前に盤台はんだいをおろして魚をこしらえている処へ、鳶が突然にサッと舞いくだって来て、その盤台の魚や魚のはらわたなぞを引っ掴んで
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると、魚屋さかなやは、まえとおなじところにあって、だいはかわいて、もうそのうえには、くじらにくあたりませんでした。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こんな事をば、出入の按摩あんま久斎きゅうさいだの、魚屋さかなやきちだの、鳶の清五郎だのが、台所へ来てはかわがわる話をして行ったが、然し、私にはほとん何等なんらの感想をも与えない。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
鰻はすぐに、近所の魚屋さかなやの手で割かれた。それを保子と女中とで、避暑地から覚えてきた通りにして焼いた。金網の上でじりじり焼かれる匂いが、座敷の方まで漂ってきた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いまも中六番町まへまち魚屋さかなやつてかへつた、家内かないはなしだが、其家そこ女房かみさんおんぶをしてる、誕生たんじやうましたばかりの嬰兒あかんぼに「みいちやん、おまつりは、——おまつりは。」とくと、小指こゆびさきほどな
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
詰まらない男に引っかかって、金が欲しさに女囮つつもたせもやった。湯屋の板の間もかせいだ。そのうちにお俊はこの近所の魚屋さかなやからふとお蝶の噂を聞き込んだ。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、ぼくは、ひとりのときは、まわりみちをして、肉屋にくや魚屋さかなやまえとおらないようにしました。
僕の通るみち (新字新仮名) / 小川未明(著)
だれつてたの、——魚屋さかなやさん?……え、ばうや。」
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半七はかれを引っ立てて再び魚虎の店へ引っ返すと、魚屋さかなやの亭主や女房も半七が唯の人でないことをさとったらしく、奥へ案内して丁寧に茶などを出した。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少年しょうねんは、しばらくかんがんで、りかねていましたが、ねんのため、魚屋さかなやまえとおってみました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
飼葉屋の直七の紹介によると、麹町の平河天神前に笹川という魚屋さかなやがある。魚屋といっても、仕出し屋を兼ねている相当の店で、若い男はその伜の鶴吉というのである。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みんなまち魚屋さかなやってしまって、そのかね家族かぞくのものをやしなわなければならなかったのです。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
この探索をはじめる時に、わたくしはきっとこの事件には魚屋さかなやが係り合っていると睨みました。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魚屋さかなやさんかしらん。しかし、あんなはらっぱをとおるはずがないだろう。また、ねこがさらってきたなら、べてしまうし。そのえびは、どっか、きずがついていたかい。」と、勇吉ゆうきちが、ききました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
出入りの魚屋さかなやへ聞き合せにやったが、思うようなのがない。なにぶんにも物が物ですから、その大小が不揃いであると甚だ恰好が悪い。あとできっと旦那さまに叱られる。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すこしくると、魚屋さかなやがありました。みせさきのだいうえに、おおきながおいてありました。そのにくいろは、おどろくばかり毒々どくどくしく、赤黒あかぐろくて、かつて、さかなでは、こんなのをたことがありません。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お福と申しまして、若いおかみさんと同い年でございます。お福の宿は根岸の魚八という魚屋さかなやで、おやじは代々の八兵衛、おふくろはお政、ほかに佐吉という弟がございます」
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魚屋さかなやまえに、いつも、あかい、つよそうないぬがいることです。
僕の通るみち (新字新仮名) / 小川未明(著)
宿は本所相生町あいおいちょうの徳蔵という魚屋さかなやで、ふだんから至極実体じっていな人間でございます。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魚八は根岸繁昌の時代からここに住んでいる魚屋さかなやで、一時は相当に店を張っていたが、土地がさびれると共に店もさびれた。それでも代々の土地を動かずに、小さいながらも商売をつづけていた。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「と云って、おどかしただけで、実はさんざんのていで引き揚げて来たんですよ。浅蜊あさりッ貝を小一升と、木葉こっぱのようなかれいを三枚、それでずぶ濡れになっちゃあ魚屋さかなやも商売になりませんや。ははははは」
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)