駒込こまごめ)” の例文
吉祥寺は今駒込こまごめにある寺で、当時まだ水道橋の北のたもと、東側にあつたのである。この往来ゆききの間に、綱宗は吉原へ通ひはじめた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
駒込こまごめまで行かなければならない自分の用を打っちゃって置いて、泥だらけの忠三郎を介抱して、ともかくも本郷の通りまで連れて行って
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本郷ほんごう駒込こまごめ吉祥寺きちじょうじ八百屋やおやのお七はお小姓の吉三きちざに惚れて……。」と節をつけて歌いながら、カラクリの絵板えいたにつけた綱を引張っていたが
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『ぢやCさん、駒込こまごめまででも送りませうか』とかう町子は従姉に云ひながら身軽にひらりと皆の後から電車にとびのつた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
今は昔の家来で駒込こまごめのすみにごくごく小さな植木屋をしているその者にかかッて、自身はこう毎日貸し車を引いているというのでございますよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし、十時の夜勤をすまして駒込こまごめの自宅へ徒歩で帰ろうとしている、浅野護謨会社事務員今村謹太郎ははたで思う程あわれな存在ではなかった。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
葬儀は遺言だそうで営まなかったが、緑雨の一番古い友達の野崎左文のざきさぶんと一番新らしい親友の馬場孤蝶との肝煎きもいりで、駒込こまごめ菩提所ぼだいしょで告別式を行った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
とりあへずお母さんとHさんは駿河台するがだい従姉いとこの家へ、のこる家族は駒込こまごめだかの親類の家に転がりこむことになりました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あの江戸駒込こまごめの別邸で永蟄居えいちっきょを免ぜられたことも知らずじまいにこの世を去った御隠居が生前に京都からの勅使を迎えることもできなかったかわりに
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
健三けんぞうが遠い所から帰って来て駒込こまごめの奥に世帯しょたいを持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種のさびさえ感じた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その人は、元農商務省の役人をしていた人で、畜産事業をやっていたが、目下は役をやめ家畜飼養をやっている、本郷ほんごう駒込こまごめ千駄木せんだぎ林町の植木うえき氏という人であった。
何ぞ手許使てもとづかい勝手許かってもとを働く者がなければなりませんから、方々へ周旋を頼んで置きますと、渡邊織江の家来船上忠助ふながみちゅうすけという者の妹おきくというて、もと駒込こまごめ片町かたまちに居り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ありがとう、今晩は駒込こまごめの友人のところへ泊めてもらいます」と、落ちついた寂しい声が答えた。
明暦めいれき三年、かれの三十歳頃、ようやく具体化されて駒込こまごめの下屋敷に修史館しゅうしかんをひらき、当時の名ある学者を史寮しりょうに網羅して、いよいよ実際的な研究と編纂に従事しだした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通りでは店屋みせやはどこも締まっていた。横町のカフエや酒場からの電燈の光がれているきりだった。スピイドをかけた自動車が、流星のように駒込こまごめの方へと通りすぎた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
駒込こまごめでも岩崎の持地もちじがまだ住宅地に切売されぬ前には、盛んに雉子が遊んでいた」という。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ここのご主人がいまのこの家をおつくりになる前に奥さまと駒込こまごめのアパートにちょっとの間住んでいらして、その折、笹島先生は独身で同じアパートに住んでいたので、それで
饗応夫人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
町家まちやでは、前の年の寒のうちに寒水でつくった餅を喰べてこの日を祝い、江戸富士詣りといって、駒込こまごめ真光寺しんこうじの地内に勧請かんじょうした富士権現に詣り、麦藁むぎわらでつくった唐団扇とううちわや氷餅
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかしとにかく一度ゴルフ場へお伴をして見学だけさせてもらおうということになって、今年の六月末のある水曜日の午前に二人で駒込こまごめから円タクを拾って赤羽あかばねのリンクへ出かけた。
ゴルフ随行記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やがて着流きなが懷手ふところでにて、つめたさうな縁側えんがは立顯たちあらはれ、莞爾につことしていはく、何處どこへ。あゝ北八きたはち野郎やらうとそこいらまで。まあ、おはひり。いづれ、とつてわかれ、大乘寺だいじようじさかのぼり、駒込こまごめづ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
全然の責任を負つて呉れて僕とおせいの一族との中に這入はひつてくれてる中村氏を駒込こまごめに夜遅く訪ねたのだが、奥さんだけにお目にかゝり、それとなく事情の切迫してゐることを訴へ
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
駒込こまごめまで引返して植辰の本家を叩き起して訊くと、近所の言う通り、庄司家から頼まれて気の触れた若い武家を巣鴨の寮に預かったが、若い丈夫な男が二人付いていても持て余して
三日目かの朝、駒込こまごめ肴町さかなまちの坂上へ出て見ると、道路は不安な顔付をした人で一杯である。その間を警視庁の騎馬巡査が一人、人々を左右に散らしながら、遠くの坂下からけ上って来た。
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
駒込こまごめ六義園りくぎえん
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「うむ。今学校から来たのだ。モデルが病気だと云って出て来ないから、駒込こまごめの友達の処へでもこうと思って出掛けた処だ」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この年秋長谷川昆渓が駒込こまごめ吉祥寺門前より家を下谷長者町に移した。枕山は旧友の近隣に来り住したのを喜んで、七律一首を賦して贈った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
既に本人に帰りたい意志があるのを拒絶するのは、健三から見ると無情な挙動ふるまいであった。彼は一も二もなく承知した。細君はまた子供を連れて駒込こまごめへ帰って来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、その後、駒込こまごめ辺の一寺院に、似ているというもおろか、実にそっくりな女性が、時折、貴賓があると、客室へ茶を運んだりして、楚々そそたるすがたを見せていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その家というのは、一軒は本郷ほんごう駒込こまごめです。薬種の取引関係から平尾家へ出入りをしていた藤井という医師があったが、その人の兄の藤井諸照という人の持ち家……これが一つ。
電車の中でいゝ工合に眠つて駒込こまごめで降りる時にもよく眠つてゐましたが俥の上で涼しいのでか眼をさまして、家まで来て蚊帳かやの中で一しきり遊んで今やつとまた眠つたところです。
ある女の裁判 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
最後の隠れ家は駒込こまごめの伝中辺だと聞いたが、丁度旅行していたし、十何年間もまるで音信不通であったし、それ以前とても親友というほどの関係でなかったから葬儀に行かなかったが
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それは松島と目と鼻の間の駒込こまごめに、古くから大きな店を構えている石屋で、二月か三月に一度くらい、船で観音参詣さんけいに来て、そのたびに人目につかぬ裏道にある鰻屋うなぎやなどで彼女を呼び
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
谷中やなかから駒込こまごめまでぶらぶら歩いて帰る道すがら、八百屋の店先の果物や野菜などの美しい色が今日はいつもよりは特別に眼についた。骨董屋の店先にある陶器の光沢にもつい心を引かれて足をとめた。
ある日の経験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
江戸駒込こまごめの別邸で波瀾はらんの多い生涯しょうがいを終わった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
九月十五日に鷲津毅堂は長谷川昆渓を駒込こまごめ吉祥寺門前の幽居に訪い偶然寺門静軒てらかどせいけんの来るに会った。静軒が『江戸繁昌記はんじょうき』の著者たることは言うをたない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
翌四年の一周忌を九月十日に親戚しんせきがした。後に取巻の人々は十月十日を期して、小倉是阿弥の家に集まって仏事を営み、それから駒込こまごめ願行寺がんぎょうじの香以が墓にもうでた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
駒込こまごめのある寺の一間ひとまを借りて勉強するのだといっていました。私が帰って来たのは九月上旬でしたが、彼ははたして大観音おおがんのんそばの汚い寺の中にこもっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
深山は古い笹村の一閑張いっかんばりの机などを持って、別の家へ入って行った。そこへ、この家を周旋した笹村の友達のT氏も、駒込こまごめの方の下宿から荷物を持ち込んで、共同生活をすることになった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのかたは上野東叡山とうえいざん派の坊様で、六十位の老僧、駒込こまごめ世尊院せそんいんの住職で、また芝の神明しんめいさまの別当を兼ねておられ、なかなか地位もある方であったが、この方が毎度師匠のもとへ物を頼みに見えられます。
駒込こまごめ三の三四九
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「実はね。」とお豊は同じ言葉を繰返して、「駒込こまごめのお寺が市区改正で取払いになるんだとさ。 ...
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうせ訊いたって仕方がないという気が次第に強くなったのとで、それなり駒込こまごめへ帰った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
成斎には二子三女があって、長男生輒せいしょうは早世し、次男信之のぶゆきが家を継いだ。通称は俊治しゅんじである。俊治の子は鎰之助いつのすけ、鎰之助の養嗣子は、今本郷区駒込こまごめ動坂町どうざかちょうにいる昌吉しょうきちさんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
じつはね。」とおとよは同じ言葉を繰返くりかへして、「駒込こまごめのお寺が市区改正しくかいせい取払とりはらひになるんだとさ。 ...
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芝日蔭町しばひかげちょうさばをあげるお稲荷様があるかと思えば駒込こまごめには炮烙ほうろくをあげる炮烙地蔵というのがある。頭痛を祈ってそれがなおれば御礼として炮烙をお地蔵様の頭の上に載せるのである。
牧山は枕山の父にして鷲津松隠の兄なる大沼竹渓の援助をち、その頃駒込こまごめに私塾を開いていた寺門静軒が他処に移るに際し、その後を受けついで始めて『老子』の講義をなしたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時分進はまだ駒込こまごめ千駄木町せんだぎちょうにあった老父あきらの家にいて、文学好きの青年らと同人雑誌を刊行していたのであるが、鶴子が離別されると間もなく父の家を去って鎌倉に新家庭をつくった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)