駈込かけこ)” の例文
大きな雨になったので、坂をあがりつめた処にあった家の簷下のきした駈込かけこんでみると、その戸口に半紙はんしってあるのが見えた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これはとばかりに、若者は真蒼まっさおになって主家しゅか駈込かけこんで来たが、この時すでに娘は、哀れにも息を引取ひきとっていたとの事である。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
ひとらないぎやうをします——ひる寢床ねどこから當番たうばんをんな一人ひとり小脇こわきかゝへたまゝ、廣室ひろま駈込かけこんでたのですが、みんない! と呼立よびたてます。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ドルの報酬を得てホテルに駈込かけこんだ時には、食卓にむかった誰れもかれも、嬉し泣に、潸々さめざめとしないものはなかったという。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それも関心きがかりではあるが、なお一方には気を失っているお杉が有る。市郎は倉皇あたふたとして内へ駈込かけこんだ。塚田巡査も続いて入った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんなことがあるものかね。大きな声じゃいえないが、ゆうべは何か変ったことでもあったと見えて、夢中で駈込かけこんでくると、そのままあたしにとこ
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今ならば巡査が居るとか人の家に駈込かけこむとか云うこともあるが、如何どうして/\騒々しい時だから不意に人の家に入られるものでない、かえって戸をたっ仕舞しまっ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これは居ちや面倒だと思つたから、家中大騒を遣つてゐるすきを見て、そつと飛出した事は飛出したけれど、別に往所ゆきどころも無いから、丹子の阿母おつかさんの処へ駈込かけこんだの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その時、艶麗えんれい、竜女のごとき、おばさんの姿を幻にたために、大笹の可心寺へ駈込かけこんで出家した。これが二代の堂守です。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その乱暴者の一人が長州の屋敷に駈込かけこんだとか何とかう話を聞て、私はその時始めて心付いた、成るほど長州藩も矢張やはり攘夷の仲間に這入はいって居るのかとう思たことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大学生は七兵衛に誘われつつ、威勢よく奥へ駈込かけこんだ。彼は吉岡家の長男忠一である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くこといま幾干いくばくならず、予に先むじて駈込かけこみたる犬は奥深く進みて見えずなりしが、哬呀あなや何事なにごとおこりしぞ、乳虎にうこ一声いつせい高く吠えて藪中さうちうにはか物騒ものさわがし
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
で、二台、月に提灯かんばんあかり黄色に、広場ひろっぱの端へ駈込かけこむと……石高路いしたかみちをがたがたしながら、板塀の小路、土塀の辻、径路ちかみちを縫うと見えて、寂しい処幾曲り。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家名いえなも何も構わず、いまそこも閉めようとする一軒の旅籠屋へ駈込かけこみましたのですから、場所は町の目貫めぬきむきへは遠いけれど、鎮守の方へは近かったのです。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家名いへななにかまはず、いま其家そこめようとする一けん旅籠屋はたごや駈込かけこみましたのですから、場所ばしよまち目貫めぬきむきへはとほいけれど、鎭守ちんじゆはうへはちかかつたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つま皓體かうたい氣懸きがかりさに、大盡だいじんましぐらにおく駈込かけこむと、やつさつあかつて、扱帶しごきいてところ物狂ものくるはしくつてかへせば、畫師ゑし何處どこへやら。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今朝東京なる本郷病院へ、呼吸いき絶々たえだえ駈込かけこみて、玄関に着くとそのまま、打倒れて絶息したる男あり。年は二十二三にして、扮装みなりからず、容貌かおかたちいたくやつれたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その晩、かねて口を利いた浜町の骨董屋こっとうやの内へ駈込かけこんで、(あい。)と返事をしたんだって。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨宿りに駈込かけこんだ知合の男が一人と、内中うちじゅう、この店に居すくまった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨宿あめやどりに駈込かけこんだ知合しりあひをとこ一人ひとりと、内中うちぢうみせすくまつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
駈込かけこんで、一呼吸ひといきいた頃から、降籠ふりこめられた出前でさきの雨の心細さに、親類か、友達か、浅草辺に番傘一本、と思うと共に、ついそこに、目の前に、路地の出窓から、果敢はかない顔を出して格子にすがって
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)