風上かざかみ)” の例文
その頃の学生は無暗むやみと気が荒かった。何しろ日露戦争の始まる前の年だ。西洋音楽などやる奴は風上かざかみにも置けないと思っていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
水は半ば凍り、泥濘でいねいはぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみまわった匈奴の一隊が火を放った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼のすがたが森の奥に隠れた時に、英公は風上かざかみから火をかけた。父は我が子の将来をあやぶんで焼き殺そうとしたのである。
痛烈に叫びざま、黒住団七のあとに追い近づいたかと思われましたが、およそ団七こそは武人の風上かざかみにもおけぬ奴でした。
二三にするような奴は俳優の風上かざかみには置けない、いわんや市川の宗家ともあるべき者に……丸山、こいつは偽物だ、われわれは一杯食わされたのだ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だから探偵と云う奴はスリ、泥棒、強盗の一族でとうてい人の風上かざかみに置けるものではない。そんな奴の云う事を聞くと癖になる。決して負けるな
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、當時たうじかぜあらかつたが、眞南まみなみからいたので、いさゝがつてのやうではあるけれども、町内ちやうない風上かざかみだ。さしあたり、おそはるゝおそれはない。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
当然、荒木村重だの、その一類などの、男どもの卑怯ひきょうを罵った。武将の風上かざかみにもおけない者だとしざまに噂した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼奴等きゃつらは皆、揃いも揃った人畜生にんちくしょうばかりですな。一人として、武士の風上かざかみにも置けるような奴は居りません。」
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、波の荒い季節中、この島あての郵便物を、ブリキ缶にかんづめにして、島の風上かざかみから、海に投げこんでおいて、汽船はそのまま通りすぎて行く。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
過ち火を出しても手鎖てぐさり五十日、地主、家主、月番行事、五人組から、風上かざかみ二丁、風脇かざわき二丁の月行事まで、三十日乃至ないし二十日の押込めという峻烈しゅんれつぶりでした。
文学者の風上かざかみに置けぬ奴と宣言を発し、忿怒ふんぬ、憎悪、三ヶ年、憎さも憎し、然し、ふと、苦悩のたびに奴を思う。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
俗にいう武士の風上かざかみにも置かれぬとはすなわちわが一身いっしんの事なり、後世子孫これを再演するなかれとの意を示して、断然だんぜん政府の寵遇ちょうぐうを辞し、官爵かんしゃく利禄りろくなげう
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
車夫は葉子を助けようにも梶棒かじぼうを離れれば車をけし飛ばされるので、提灯ちょうちんしり風上かざかみのほうにしゃに向けて目八に上げながら何か大声に後ろから声をかけていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女もこの寂しさと荒さを極めた自然の威力に打たれたか、風上かざかみに顏を向けて、べそ掻くやうな表情をしてゐたが、ひつくやうになほも列車の前方を見まもつてゐる。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
さだめし山口やまぐち百年ひやくねん不作ふさくだとでもひやうして、つまたるもの風上かざかみへもかれぬをんなはれましてしやう。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども彼の総身の努力は、そのからだに一杯の汗となってにじみ出たように、伝馬の頭をようやく風上かざかみに向けることができた。が、ともすればそれは横に吹き流されそうであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
風上かざかみへ逃げてください。皆さん、××町の方を廻って××町へ出て下さい」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、それを吸わないようにするには、なるべく風上かざかみの方にいるがいいと云う理窟でしょう。すると乗合自動車だって、電車ほど人がこんでいないにしても、感冒伝染の危険が絶無ではない訳ですな。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あやしさにかほる風上かざかみながむれば
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
番町方面の煙りはまだ消えなかったが、そのあいだに相当の距離があるのと、こっちが風上かざかみに位しているのとで、誰もさほどの危険を感じていなかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地震ぢしんも、やみらしいので、風上かざかみとはひながら、模樣もやううかと、中六なかろく廣通ひろどほりのいちちか十字街じふじがいると、一度いちどやゝ安心あんしんをしただけに、くちけず、一驚いつきやうきつした。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ああ龍太郎、かれはついに、伊那丸の前途ぜんとに見きりをつけ、しゅをすて、友をすて去ったであろうか。——とすれば、龍太郎もまた、武士ぶし風上かざかみにおけない人物といわねばならぬ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分から触れば落ちそうなよわみを見せて男を誘いながら、後になって、やれ貞操を蹂躙じゅうりんされましたの、もてあそばれましたのと、人の同情にすがろうとする女は、女の風上かざかみにもおけない——
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
機嫌きげんをとるために負けてさしあげるのは主君をあざむくへつらい武士です。風上かざかみにおけん。しかし、内藤君、君心あれば臣心あり。すべて君臣主従しゅじゅう貴賤きせん上下しょうかの別をわすれるものは乱臣らんしんぞく子ですぞ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「滝川くずれは、鼻つまみの晩糞ばんふんじゃ。風上かざかみにもおけぬわい」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風上かざかみにもおけん」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「武士の風上かざかみにもおけぬやつ
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお、じゃ風上かざかみだ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)