閃光せんこう)” の例文
閃光せんこうのように微笑がもれ音楽のように言葉がほとばしり出る美妙な口、ラファエロが聖母マリアに与えたろうと思われるような頭と
盲目的な閃光せんこうが、やたらに、前の空を斬った。ぎりぎりと、歯ぎしりを鳴らして、足と喉の束縛を、ふりほどこうとしてもがくのだった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
復員者はそこここに戻って来て、崩壊した駅は雑沓してにぎわった。その妻子を閃光せんこうさらわれた男は晴着を飾る新妻にいづまを伴って歩いていた。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
小さな爆発が起こるたびに、その赤い焔を稲妻のような閃光せんこうが貫き、まぶしいほどきらきら光る火の粉が、渦を巻いて噴きあがった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きながら私は、今日はいつもの仔猫がいないことや、その前足がどうやらその猫のものらしいことを、閃光せんこうのように了解した。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私が、にわかに判断しかねていると、その水中塔の頭が、とつぜん、ぴかりと光った。それはうつくしい青緑色せいりょくしょく閃光せんこうだった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なるほどアルミニウムだかマグネシウムだかの閃光せんこうは光度において大きく、ストロンチウムだかリチウムだかの炎の色は美しいかもしれないが
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……便所の窓からのぞくと、ときどき、自動車のライトに照し出され、女の姿が閃光せんこうを浴びて浮き上るのが眺められた。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
この火山かざん噴出時ふんしゆつじける閃光せんこうとほ百海里ひやくかいりらすので、そこでストロムボリが地中海ちちゆうかい燈臺とうだいばれる所以ゆえんである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
彼は閃光せんこう的にそれを描き出すことができ、それにすっかり光被された。しかしそれも、長い期待と暗黒とをもってして初めて得られるのであった。
全てこれらの狼狽は極めて直線的な突風を描いて交錯する為に、部屋の中には何本もの飛ぶ矢に似た真空が閃光せんこうを散らして騒いでいる習慣であった。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
教室の創設当時の雑用に追われている中にも、時々先生のこの言葉が閃光せんこうのように脳裏に影をさして自分を救ってくれたこともかぞえられない位である。
指導者としての寺田先生 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それにそこらぢゆう一面まるで花火をばらきでもしたやうな閃光せんこうで埋まつてゐるやうな気がしただけださうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ちらりと一瞬、閃光せんこうのようにうした男の一生の姿が浮かんだ。私ははっとみぞおちを強くかれた思いがし、椅子の上にくずおれた。冷汗が出ていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
すっかり支度したくのできた博士が、駄々ッ児の子供をでも見るような、頬笑ほほえみをたたえて手術台に寄って行くと、メスの冷たい閃光せんこうでも感じたらしい葉子は
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしうすい煙と閃光せんこうをぬって、アッシェンバッハには、あの美しい少年がむこうの前のほうで、首をふりむけ、かれをさがし、かれを認めたのが見えた。
たちまち、動揺どよめく人波の点々が、倒れ、跳ね、おどり、渦巻くそれらの頭上で無数の白い閃光せんこうが明滅した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
白絹のように白い月の光には、恋に狂うの群が舞踊していた。池の面にはかすかな閃光せんこうが浮び、ぴたぴたとを立てて、上下うえしたに浮き沈みした。だが今でも分らないんだ。
ところを賊のやつ、一間ほどうしろとびにすっとんで、三尺の閃光せんこう、瞬間正眼に直したと見るや
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
普通、娘が母親に抱く懐しさ、休安と、正反対の生活燃焼の、異様な閃光せんこうが二人の間にあった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さらにこの夜空のところどころにときどき大地の底から発せられるような奇矯ききょうな質を帯びた閃光せんこうがひらめいて、ことのかえ手のように幽毅ゆうきに、世の果ての審判しんぱんのように深刻に
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その無気味な煙りの中には、ときどき稲妻いなづまのようなものが光っていた。その閃光せんこう熔岩ようがんと熔岩とがぶつかって発するものだということを、去年の夏、彼は人から聞いていた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
故に第一回戦においては、彼らはなるべく穏かなる語を以てヨブを責め、彼らに責めらるるヨブはかえって真理の閃光せんこうを発しつつ、徐々じょじょとして光明の域に向って進むのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ランプの回転が止って閃光せんこうが不動光になり、間もなくガス管の故障で灯も消える……一方粉砕された旋回機に巻きついていたロープは切れて、回転動力の重錘おもりというか分銅というか
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ナウチ族の踊り子の一隊、黄絹のももひきに包まれた彼女らの脚、二つの鼻孔をつないでいる金属の輪、螺環コイルの髪、貝殻かいがらの耳飾り、閃光せんこうする秋波ながしめ、頭上に買い物を載せてくる女たち
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
思いもよらない悲しい思想かんがえがあだかも閃光せんこうのように岸本の頭脳あたま内部なかを通過ぎた。彼は我と我身を殺すことによって、犯した罪を謝し、後事を節子の両親にでもたくそうかと考えるように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、全身の神経が麻酔ますいしかけたところへ、ぱッと、マグネシュウムのつよい閃光せんこうと爆音が、彼女をなぐりつけたように驚かした。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの時、兄は事務室のテーブルにいたが、庭さきに閃光せんこうが走ると間もなく、一間あまり跳ね飛ばされ、家屋の下敷になって暫く藻掻もがいた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
暗い座敷の中は、ときに眼のくらむような閃光せんこうではじけ、あらゆる物をひき裂くかのように、雷鳴が頭上でとどろき狂った。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時、研究所の屋上からは、ものすごい閃光せんこうとともに、緑色の流星りゅうせいのようなものが、まっすぐに中天高くとびあがった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
閃光せんこうはすぐに去って、夜はまた落ちてきた。そして彼はどこにいたのであるか、みずからもはやそれを知らなかった。
そうしてマグネシウムの閃光せんこうをひらめかし酸化マグネシウムを含んだ煙を玄関の土間に残して引き上げて行った。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もとより彼女がそういう感情をもつのは、同じ戯曲の同じ場所ででも二度とはほとんど起こることのない、きわめてまれな間歇かんけつ的な閃光せんこうによってであった。
それははるかなる土地の文明の余光であって、年寄りたちがお説教できいてくる仏教の因果話と地獄極楽の絵とで培われた子供たちの頭には、幻惑的な閃光せんこうをもたらすものであった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
つかの間の閃光せんこうが私の生命を輝かす。そのたび私はあっあっと思った。それは、しかし、無限の生命に眩惑げんわくされるためではなかった。私は深い絶望をまのあたりに見なければならなかったのである。
筧の話 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼はこの大問題を提出したままに放置して、十四節後半よりただちにまた前節の欲求に帰ってしまった。あたかも天よりの閃光せんこうのごとくこの問題は突如として彼に起りまた突如として彼を去った。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と、いいのこして、そこを立とうとすると、なんだろう? 周囲しゅういやみ——樹木じゅもくささ燈籠とうろうのかげに、チカチカとうごく数多あまた閃光せんこう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飢餓の火はじりじりとくすんで、人間の白い牙はさっと現れた。一瞬にして、人間の顔は変貌する。人間は一瞬の閃光せんこうで変貌する。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
うしろからはだしでけて来たらしい、覆面をした男の躯と、頭上へ襲いかかる刀の閃光せんこうとが、振り返る高雄の眼いっぱいにかぶさったのである。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
銀とクリスタルガラスとの閃光せんこうのアルペジオは確かにそういう管弦楽の一部員の役目をつとめるものであろう。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
閃光せんこう睫毛まつげの間にちらついた。あらゆる考えは消えてしまった。ある敬虔な行ないをしてるようにも思われ、ある冒涜ぼうとくなことを犯してるようにも思われた。
砲弾は、この研究所の前方に落ち、それから、彼等の頭上をとび越えて、うしろの山上に落ちて、ものすごい音響おんきょう閃光せんこうとそして吹き倒すような爆風ばくふうとをもたらした。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その楽曲の結構は、主要の筋道は、彫刻的の明確さで影から浮き出してるまばゆいばかりの楽句を、ところどころにちりばめたおおいを通して、おのずから見えていた。それは一つの閃光せんこうにすぎなかった。
それらが幹太郎の頭の中で閃光せんこうのように明滅し、忿いかりとも絶望とも、悲しみともつかない、激しい感情のために、口をきくことさえできなかった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、初めて、怒声を叩き返したのは、剽悍ひょうかんなる原士のひとり、無謀! 血気な太刀に風をくらわせて、閃光せんこうとともに弦之丞の身辺へ躍りかかって行った。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先ず一方へ閃光せんこうのように迸り出る火焔も見え、外被が両分して飛び分れるところも明らかに見る事が出来る。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また、ときおりどこからさしこんでくるのか、目もくらむほどの閃光せんこうが頭上で光ることがあった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
タキツスの雷電とパスカルの閃光せんこうとを交じえた談話をし、自ら歴史を作り自らそれを書き、イリヤッドのような報告をつづり、ニュートンの数理とマホメットの比喩ひゆとを結合し
轟音ごうおんもろとも船は転覆する。巨濤きょとうが人間をさら閃光せんこうやみ截切たちきる。あたり一めん人間の叫喚……。叫ぶように波をき分け、わめくように波に押されながら、恐しい渦のなかに彼はいる。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ぱっと明るく火花が散り、(その閃光せんこうで)それまで見えなかったものが、まざまざと見えたように感じられた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)