迂回うかい)” の例文
更にその途上わざわざ迂回うかいして後藤や小村やマレウイチと会見した事実から推しても二葉亭の抱負や目的をほぼ想像する事が出来る。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私が大きく左かじを取って避けようとすると、同時に向うの機も薄暗い左の横腹を見せつつ大きく迂回うかいして私の真正面に向って来た。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「これが解せないのですよ。」緩く迂回うかいしながら伸びている階段の中途の壁に、け放しになっている壁燈かべあかりを見て、ルキーンが云った。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
情のために道を迂回うかいし、あるいは疾走し、緩歩し、立停りゅうていするは、職務に尽くすべき責任に対して、渠がいさぎよしとせざりしところなり。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが午後七時頃のことだ。遠い所でもないので、彼はいつもの様に、散歩旁々かたがた、吾妻橋を迂回うかいして、向島むこうじまの土手を歩いて行った。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
甲斐はそうみこして、虚空蔵(山)の南麓へ向かい、山つきを迂回うかいして、砦山の西から白石川へぬける狭間はざま道で、待つことにした。
また交通の点から見ても思い掛けぬ淵や切崖に臨んで迂回うかいせねばならぬ場合に比べると、砂浜の方が見通しが届いて多くは近路である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「将軍。たいへんです。なにか、えたいの知れない大人数が、を鳴らして、街道の遠くを迂回うかいし、こっちへ向って来る様子です」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うれしや犬吠崎が見えだしたとばかり、右舷うげんに大きく迂回うかいしようものなら、たちまち暗礁に乗り上げて、大渦の中へ巻き込まれてしまうというのだ。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
三百三十年の間、太平洋に向うヨーロッパの全商業は、感心すべき気永きながさであるいは喜望峯を、あるいはケープホーンを迂回うかいして行われてきた。
トレールを迂回うかいせずに、尾根を伝っていきなり天狗岩の上へ出て、やぶの急斜面を池のほうへ滑降しさえすれば、どうにか追いつける自信があった。
生命の流れは「運命」の高低によって、あるいは泡立ちもしようし、あるいは迂回うかいもしよう。また、時としては、真暗な洞穴ほらあなをくぐる水ともなろう。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
よく捨吉は岡つづきの地勢に沿うて古い寺や墓地の沢山にある三光町さんこうちょう寄の谷間たにあい迂回うかいすることもあり、あるいは高輪たかなわの通りを真直まっすぐ聖坂ひじりざかへと取って
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
北部や南部やを迂回うかいすることなしに、西海岸の台中から東海岸の花蓮港かれんこうへと出るためには、どうしても中央山脈のけわしい山坂みちを越えなければならない。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
堀割ほりわりづたいに曳舟通ひきふねどおりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきの分らないほど迂回うかいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなりの横手をめぐって土手へと通じている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手や視線のやり場がなくて窮屈な感じに堪え難くなった時、死床のすそ迂回うかいして向う側にすわったおかみさんの手が、顔をおおった白い布をはぎとった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
掘割づたいに曳舟通ひきふねどおりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先の分らないほど迂回うかいした小径こみちが三囲稲荷の横手をめぐって土手へと通じている。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そしてなるべく南の方へと迂回うかいして、阪神電車の線路の北一二丁程のところまでは、大して水に漬からずに来ることに成功したが、小学校へ達するのには
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
真直まっすぐなること鉄道線路のごときかと思えば、東よりすすみてまた東にかえるような迂回うかいの路もあり、林にかくれ、谷にかくれ、野に現われ、また林にかくれ
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
イバンスの脳裏のうりには、なにかひらめくものがあった、凶漢きょうかん三人は路を迂回うかいして、ニュージーランド川のほとりから、左門洞を攻撃こうげきしているのではあるまいか?
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
迂回うかいしてゆけば格別、さし渡しにすれば私の家から一町あまりに過ぎない。風上であるの、風向きが違うのと、今まで多寡たかをくくっていたのは油断であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分は秋草をふみにじることをしないでその植込みの外を迂回うかいして縁側に達しようとしたのである。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
イエス御一行はツロからさらに進んでシドンを過ぎ、たぶんヘルモン山の北を迂回うかいして東方デカポリス地方に出で、再びなつかしきガリラヤの海に来たり給いました。
鷹匠町というのは、これからうぐいすだにへ出て、松平讃岐守まつだいらさぬきのかみさまのお下屋敷を迂回うかいして裏手へまわったそのへん一円の、御家人などの多く住んでいる一区劃であった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と云って、問題が其所に触れなければ、忠告も助言も全く無益である。代助は仕方なしに迂回うかいした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三層五層の楼閣は突兀とっこつとして空をしのぎ、その下層はかへつて崖低く水に臨む処にあり。上層と下層と相通ずるには石階を取つて迂回うかいすべく、昇降機に依りて上下すべし。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は修道院を迂回うかいすると松林を抜けて、まっすぐに庵室へたどりついた。庵室へはこの刻限になると誰も入れないことになっていたが、彼にはすぐに扉をあけてくれた。
この河岸の作事場から、丁度見おろすような位置に、川が最後の大きな迂回うかいをつくって湖面のようにひろがった。水は一ぱいにみなぎって、朝の大きな太陽を漫々と溶した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
左側は、駅から迂回うかいして来た鉄路のある山腹の切断面、それから高架線、それらが万寿のかかってる方へ並行していた。積まれた石炭の上には雪がすっかり塗り上げをしていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
高台の電車軌道の大きく迂回うかいしているところから左へ行くと、金門公園きんもんこうえんがある。
謎の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
牛丸少年の考えでは、思い切って西の方へ迂回うかいし、タヌキ山から山姫山やまひめやまの方へでて、それを越えて千本松峠せんぼんまつとうげへでるのがいいと思った。しかしそこまでゆくには、今日いっぱいではだめだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
したがってわざわざ羽生街道を迂回うかいしたことも、久喜の茶店からご苦労さまにさるまわしのあとをつけてきたことも、今となってはとんだお笑いぐさとしか考えられなくなったものでしたから
掛け茶屋の主人某なるもの、一両日前の夜、二ツ目辺りよりの帰途、いまだようやく九時半ごろなりければ、かの幽霊の出ずる時刻にはよほど早し、表門へ迂回うかいするも面倒なれば近道をとらんと
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
私は、わざとのように「愛」という言葉を迂回うかいして生きてきた自分を思った。私にとり、「愛」はどうにもならぬ連繋れんけいの意識であり、その負担であり、身動きのつかぬ「関係」の別名でしかなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
さけんだのは、その焚火を囲んでいた大勢の者ではなくて、武蔵の位置をずっと離れて、そこへ駈け足で迂回うかいして行った二人の男だった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
更に迂回うかいして柴折戸しおりどのあるかたき、言葉より先に笑懸けて、「暖き飯一ぜん与えたまえ、」とおおいなる鼻を庭前にわさきへ差出しぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その道の合するところを宇野と呼び、そこで道は広い往還になって、一里あまり迂回うかいしながら城下町の北口へはいる。彼はこの道をよく歩いた。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これもやはり民居の上で、今ならば裏の山路を越えれば近いが、逢いたさに迂回うかいをするとでもいうべき情合いであろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは誰のことであろう。私は諸戸の余りにも迂回うかい的な物の云い方に、イライラしないではいられなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
喜望峰を迂回うかいして、モオリシアス、セイロン、シンガポオルを経、それからシナの海を進んで来たものと言われるが、遠くアナポリスから極東への船旅に上る前に
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで一行は迂回うかいをしなければならぬかとためらっていると、それをどこかの大名の行列かとまちがえて、喧嘩をしていたとびの者たちが急にさあっとみちを開いたので
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あの方向がインタアルである。盆地を横切って行けば近いがそれは危険だから、やはり密林の道を迂回うかいするほかはない。彼は首を振りながら顔をしかめて痰を飛ばした。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
あるいはみぞへ湯を抜く漆喰しっくいの穴より風呂場を迂回うかいして勝手へ不意に飛び出すかも知れない。そうしたら釜のふたの上に陣取って眼の下に来た時上から飛び下りて一攫ひとつかみにする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、大きく迂回うかいする正面の淵に向って、まっしぐらに押し流されだした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
兵舎のわきから斜に大通りをはいってゆくと、じきにV停車場ステーションへ出た。下宿へ帰るにはやや迂回うかいであったが、停車場ステーションの構内をぬけて電車道へ出るところに、伊太利イタリー人の経営している安い喫茶店がある。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ひた走りに町を迂回うかいして左内阪さないざかを昇り神社の裏門から境内けいだい進入すすみいって様子を窺うと、社殿の正面なる石段の降口に沿い、眼下に市ヶ谷見附一帯の濠を見下す崖上がけうえのベンチに男と女の寄添う姿を見た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わざと羽生街道を迂回うかいしてみる気になったのでした。
迂回うかいして、焔の中から逃れてきたのじゃ。ところが、後になって後悔いたした。なぜ、その時、そちをも一緒に連れてこなかったかと……
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
助けてもらうという弱さを見せたくなかったのだ、康子の笑顔で清三はすぐそれを看てとった、——道は何度も、迂回うかいして来る川を横切っていた
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)