からだ)” の例文
誰じゃととがめてみた時に、その応答がなくて、何か急に自分のからだの上へ押しかかるものがあるように思ったから、急いでしとねを飛び起きて
遠く離れてはいたが、手拭を冠った母のからだを延べつ縮めつするさまも、子息のシャツ一枚に成って後ろ向に働いているさまも、よく見えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女は、居るというしるしに、うなずいて見せて、自分のからだわきの箱を置いてある方へそらし、ウォルコフが通る道をあけた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
私は急ぎの用をかかえているからだだから、こうして安閑あんかんとしてはいられない。なんとこの小僧に頼んで、一匹の馬でってもらおうじゃございませんか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるときはガスのが、青白あおじろがるところへせられて、からだにそのほのおびていることもありました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
学問でもさせたらさぞ立派なものになるだろう……けれども行先の遠いからだだ、その強い感情をやがて、世の下層に沈んで野獣のようにすさんで行く同輩のために注いでくれ給え
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
公主は白い腕をべ、さきの尖ったくつをはいて、軽く燕の飛ぶように空を蹴って、雲の上までからだを飛ばしていたが、間もなくやめて侍女達にたすけられて下におりた。侍女達は口ぐちに言った。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『綾子さんもおからだがお定まりになってようございましたね』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
からだひまな時には耕す、果樹でも何でも植える、用のある時だけ東京へ出て来る、それだけでも貴方には好かろうと思うんです
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何、妹に免じて、逢うだけだって、うるさいな!……そんなことに免じなけりゃならないような何だ? 妹だ。……きょうだいは一つからだだと? 御免をこうむる。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハッと思うまに、密着くっついていた二人のからだが枯野の中に横へ飛び退いて、離るることまさに三間です。
さかんな歓呼の中に、復た御輿は担がれて行った。一種の調律は見物のからだに流れ伝わった。私は戻りがけに子供まで同じ足拍子で歩いているのを見た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
中にも船で漂うのは、あわれにかなしく、浅ましい……からだの丈夫で売盛うれさかるものにはない、弱い女が流される。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅吉は怖る怖る、その折本を下へ持ちおろして、最初から一枚一枚見てゆくうちに、浮世絵の情味が、自分のからだの中に溶け込んで、しばらく、われを忘れてしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんなことを言つて夜中に私が泣きますと、お婆さんは臥床ねどこからからだを起して、傷み腫れた私の足を叩いて呉れました。
そんなものが敷いて寄越よこした蒲団に乗るとな、けがれるぜ。からだが汚れらあ。しちりけっぱいだ、退け!
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芹沢の屍骸しがいの上には、夜眼よめにも白くお梅のからだが共に冷たくなって折り重なっている。
お種は、満洲から来た実の便りに、漸く彼も信用のあるからだに成って、東京に留守居するお倉へ月々の生活費を送るまでに漕付こぎつけたことを話し出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みよしに立って釣らしった兄哥あにやからだのまわりへさ、銀の鰹が降ったっけ、やあ、姉さん。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のからだにこすりつくことを好んでいなかったか——あらゆる動物が彼を慕うて来る、毒蛇でさえも、狼でさえも——いわんや動物のうちの最も順良なる牛が、こうして、なついて来るのは
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不図ふと、その線路のそばで、饅頭笠まんぢゆうがさを冠つて居る例の番人に逢つた。私はからだすくめずに其番小屋の側を通れなかつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もうこのからだで泣くのにも堪えられない、思切らせておくれ、と仕方をしたんだろう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、退いた、退いた」と、源は肩と肩との擦合すれあう中へ割込んで、やっとのことでたまりへ参りますと、馬はうれしそうにいなないて、大な首を源のからだへ擦付けました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて私のからだは何の事はないうずまいて来る人間の浪の中に巻込まれてしまいました。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この友人が多忙いそがしいからだわずかひまを見つけて隅田川の近くへ休みに来る時には、よく岸本のところへ使をよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
侍女六 いいえ、若様、私たち御殿の女は、からだは綿よりも柔かです。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正太や豊世のところから来る手紙には、父のことにいて一言も書いてなくて、家の方は案じるなとか、くれぐれもからだを大切にして病を養ってくれよとか——唯
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私がね、小さい時、万はもう大きなからだをして、良い処の息子の癖に、万金丹売のね、能書のうがきを絵びらに刷ったのが貰いたいって、革鞄かばんを持って、お供をして、嬉しがって、威張って歩行あるいただものを。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏のはたけの野菜も勢よく延びて、馬鈴薯じゃがいもの花なぞが盛んに白く咲く頃には、ようやく三吉も暇のあるからだに成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(あれ、あれ、お祝の口紅を。からだがきれいになって。)
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔父さんに心配を掛けた自分のからだも、今ではようやく回復して、何事なんにも知らない人が一寸ちょっと見たぐらいでは分らないまでに成ったから安心してくれと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
揃って世の中から畜生よばわりをされるからだで。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七度目の懐妊したからだでいるお雪に取っては、このにわかにやって来た暑気がことに堪え難かった。蒸されるような身体の熱で、三吉も眠ろうとして眠られなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しまいには自分のからだまでその中へ巻込まれて行くような、可恐おそろしい焦々いらいらした震え声と力とを出して形容した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの昨夜ゆうべいやな夢、——どうして私はこんな不幸ふしあわせからだに生れて来たんでしょう。若しかすると、私は近い内に死ぬかも……もう御目にかかれないかも……知れません
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬丁の吹き鳴らす喇叭らっぱの音が起る。薄いござを掛けた馬のからだはビッショリとぬれて、あらく乱れたたてがみからはしずくしたたる。ザクザクと音のする雪の路を、馬車の輪がすべり始める。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は長い船旅で、日に焼け、熱に蒸され、汐風しおかぜに吹かれて来たばかりでなく、ようやくのことであの東京浅草の小楼から起して来たからだをこうした外国の生活の試みの下に置いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捨吉は何とも言って見ようのないような心持で、すがりつく弘のからだを堅く抱締めた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
栗蟲のからだから、銀さん達は強い糸の材料を取つて、魚を釣る道具に造りました。その原料を酢に浸して、小屋の前で細長い糸に引延して乾すところを、私はよく立つて見て居りました。
「済んだら早く帰って来いよ。小父さんも多忙いそがしいからだに成って来たからな——」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旦那さんと一緒に復た旅館の方へ移つてからのお節は、今度は自分等二人の本当の旅仕度やら買物やらで、急にいそがしいからだに成つた。そのうちでも妹の顔を見に叔父さんのうちへ立寄つて
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「父さん、お舟——」と長ちやんは叔父さんのそばへ行つてからだ擦附すりつけた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それに田辺の姉さんは横浜の店の方から激しく働いたからだを休めに帰って来ていたし、お婆さんの側には国許くにもとから呼び迎えられた田辺の親戚の娘も来て掛っていたし、留守宅とは言っても可成かなり賑かで
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
死は次第にお房のからだに上るように見えた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)