質素じみ)” の例文
晩方少し手隙てすきになってから、新吉は質素じみな晴れ着を着て、古い鳥打帽を被り、店をお作と小僧とにあずけて、和泉屋へ行くと言ってうちを出た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
質素じみな浴衣に昼夜帯を……もっともお太鼓に結んで、紅鼻緒に白足袋であったが、冬のなぞは寝衣ねまきに着換えて、浅黄の扱帯しごきという事がある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
質素じみな縞の着物に、黒繻子の帯、何か役の都合で、必要もあるかと用意してある自前の衣裳——町家のかみさんにでも扮するときしか、用のないものだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
というのは、この神様が、他の神様よりは広大な構えを持っておりながら、表がかりが、いかにも質素じみなのが、多少お角さんの気を腐らせたのかも知れない。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奥様はそと御歓楽おたのしみをなさりたいにも、小諸は倹約しまつ質素じみな処で、お茶の先生は上田へ引越し、謡曲うたいの師匠はあめ菓子を売て歩き、見るものも聞くものもすくないのですから
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
光源氏ひかるげんじ、すばらしい名で、青春を盛り上げてできたような人が思われる。自然奔放な好色生活が想像される。しかし実際はそれよりずっと質素じみな心持ちの青年であった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
此處こヽ一つに美人びじん價値ねうちさだまるといふ天然てんねん衣襟えもんつき、襦袢じゆばんえりむらさきなるとき顏色いろことさらしろくみえ、わざ質素じみなるくろちりめんに赤糸あかいとのこぼれうめなどひん一層いつそう二層にそうもよし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なかに唯一人質素じみなフロツクコートを着て、苦り切つた顔をしてゐる男があつた。皇太子はそれを見ると、後をふりかへつた。後には父君のジヨオジ陛下が立つてゐられた。
それに父の代から私の家はこういう質素じみな暮しをしていたものだから、昔の習慣をそう急に改めるのもと思っていたからさ。ちょっとマジャルドーにも相談しにくかったものだからね
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
倹約な巴里パリイの女が外見は派手でありながら粗末なしつの物をたくみに仕立てるのとちがつて、倫敦ロンドンの女は表面質素じみな様で実は金目かなめかゝつた物を身に着けて居る。だ惜しい事に趣味が意気でない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
母親はゝおやは五十ばかり、黒地くろぢのコートに目立めだたない襟卷えりまきして、質素じみ服姿みなりだけれど、ゆつたりとしてしか氣輕きがるさうな風采とりなり
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御親類の御女中方は、いずれも質素じみな御方ばかりですから、就中わけても奥様御一人が目立ちました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夏の初めにお銀と一緒に、通りへ出て買って来た質素じみな柄の一枚しかないネルの単衣ひとえの、肩のあたりがもう日焼けのしたのが、体に厚ぼったく感ぜられて見すぼらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雀のやうに質素じみ扮装みなりをして、そしてまた雀のやうにお喋舌しやべりをよくするものだとばかし思つてゐるむきが多いやうだが、女流教育家といつた所で満更まんざらそんな人ばかしで無いのは
伯父おぢさまよろんでくだされ、つとめにくゝも御座ござんせぬ、此巾着このきんちやく半襟はんゑりもみないたゞものゑり質素じみなれば伯母おばさまけてくだされ、巾着きんちやくすこなりへて三すけがお辨當べんたうふくろ丁度てうどいやら
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
祝言なぞもごく質素じみにほんの内輪だけでやることにいたしました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
粋で、品のい、しっとりしたしまお召に、黒繻子くろじゅすの丸帯した御新造ごしんぞ風の円髷まるまげは、見違えるように質素じみだけれども、みどりの黒髪たぐいなき、柳橋の小芳こよしであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神様といふものは随分費用のかゝるものだが、その中で新教プロテスタントの神様は質素じみで倹約で加之おまけ涙脆なみだもろいので婦人をんなには愛されるほうだが、余りに同情おもひやりがあり過ぎるので、時々困らせられる。
伯父さま喜んで下され、勤めにくくも御座んせぬ、この巾着きんちやくも半襟もみな頂き物、襟は質素じみなれば伯母さま懸けて下され、巾着は少しなりを換へて三之助がお弁当の袋に丁度いやら
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そっと輿入こしいれをして、そっと儀式を済ますはずであった。あながち金が惜しいばかりではない。一体が、目に立つように晴れ晴れしいことや、はなやかなことが、質素じみな新吉の性にわなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人に与うる私の全体の印象が沈欝であって——質素じみくすんで言葉が流暢りゅうちょうでなく……つまり一口に言って瀟洒シックとか典雅とか俊敏スマートとか、あるいは軽快とか洒脱ユーモラスといったようなパッとした社交的の洗錬さを
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
洋行中ずつと被古きふるしたらしい、古い麦稈むぎわら帽でひよつくり神戸に帰つて来た島村氏は、以前と同じやうな質素じみ身装みなりだつたが、精神生活においては、もう往時むかしの抱月氏ではなかつた。
むかし笠置かさぎ解脱げだつ上人が、栂尾とがのを明恵みやうゑ上人を訪ねた事があつた。その折明恵は質素じみ緇衣しえの下に、婦人をんなの着さうな、の勝つた派手な下着をてゐるので、解脱はそれが気になつて溜らなかつた。