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貂
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てん
ふりがな文庫
“
貂
(
てん
)” の例文
そして、すらりとした
華奢
(
きゃしゃ
)
な体を、揺り
椅子
(
いす
)
に横たえて、足へは
踵
(
かかと
)
の高い
木沓
(
きぐつ
)
をうがち、首から下を、深々とした黒
貂
(
てん
)
の
外套
(
がいとう
)
が覆うていた。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
一寸法師は、王様の白
貂
(
てん
)
の寝衣の肩へ飛び乗った。そして、真黒な穴へ、何か囁くのを聞いているうちに、王様の顔は、だんだん晴々として来た。
地は饒なり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
元気のいゝ子路は紫の
貂
(
てん
)
の裘を飜して、一行の先頭に進んだ。考深い眼つきをした顔淵、篤実らしい風采の曾参が、麻の履を穿いて其の後に続いた。
谷崎潤一郎氏の作品
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
木曾街道で有名な、ももんじ
店
(
だな
)
である。隣から隣へつづいて半丁ばかりの両側は、みな、大熊、熊の
胆
(
い
)
、
貂
(
てん
)
の皮、などという看板をかけた店ばかり。
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
博物学者によると
貂
(
てん
)
と家猫の交合によっていろいろな
間
(
あい
)
の
子
(
こ
)
ができているそうだから。わたしが猫を飼うのだったら正にこういう猫を飼うべきだろう。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
▼ もっと見る
年長
(
ねんちやう
)
の婦人は、
貂
(
てん
)
の皮で
縁
(
ふち
)
をとつた高價な
天鵞絨
(
びろうど
)
のショールに包まれ、フランス風な捲毛の附け前髮をつけてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
そう云ってそれを置いて行ったが、衣筥の中から出たものは、立派な
貂
(
てん
)
の
裘
(
かわごろも
)
で、昔の人の
薫
(
た
)
きしめた香の匂が、今もなつかしくかおっているのであった。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ある時も栖鳳氏は荒野に
貂
(
てん
)
を配合した絵を
描
(
か
)
きあげた。そして出来上ると、
例
(
いつも
)
のやうに豆千代を振かへつてみた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
洋装の女は、
年齢
(
とし
)
のころ、二十二、三であろうか。断髪をして、ドレスの上には、贅沢な
貂
(
てん
)
の毛皮のコートを着ていた。すこぶる歯切れのいい東京弁だった。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「それも外套によりけりでしてな。もし襟に
貂
(
てん
)
の毛皮でもつけ、頭巾を絹裏にでもして
御覧
(
ごろう
)
じろ、すぐにもう、二百ルーブルにはなってしまいますからなあ。」
外套
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
おそらくは
貂
(
てん
)
であろうと判断されたが、それほどの大きい貂は
滅多
(
めった
)
にあるものではないというので、所詮は
得体
(
えたい
)
のわからない一種の怪獣と見なされてしまった。
半七捕物帳:43 柳原堤の女
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
古寺に老いたる
貂
(
てん
)
が住んで人を驚かせし例は、先年の『新潟東北日報』の雑報にても読んだことがある。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
と、ひどく礼を言った後で、きれいな着物一
襲
(
かさね
)
に
貂
(
てん
)
の
帽
(
ぼうし
)
と履物を添えてくれ、孔生が手足を洗い髪に櫛を入れて着更えをするのを待って、酒を出して
饌
(
めし
)
をすすめた。
嬌娜
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
貂
(
てん
)
の皮でふちを取った広い
袖
(
そで
)
からは、光りも透き通るほどのあけぼのの女神の指のような、まったく理想的に透明な、限りなく優しい貴族風の手を出していました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
黒
貂
(
てん
)
の
露西亜
(
ロシア
)
帽を耳深に冠った、花恥かしいカルロ・ナイン殿下であったが、急いで歩かれたせいか真赤に上気しておられるのが、又なく美しく、あどけなく見えた。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
一軒の倒れかかった
貂
(
てん
)
とり小屋があったので、そこへ泊った。その晩徹夜してイラクサの枯茎の皮をむいた。皮をむきながらいろいろ語りあった。一人の娘は恋ざんげをした。
えぞおばけ列伝
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
彼は伝票を見て、帳簿のページをめくる、「バンサン・アレ、——と、黒
貂
(
てん
)
のケープ、七、次にミンクのケープ五、五、と、それから銀狐のケープ一ダズン、三、一ダズンと三」
超過勤務
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
こうしておくと兎の大敵
貂
(
てん
)
等に足跡を伝われても安全だということだ。夕方から気温が下り雲が動き出して天候快復の兆が見えてきた。明日の準備をして早くから床へもぐり込む。
単独行
(新字新仮名)
/
加藤文太郎
(著)
黒
貂
(
てん
)
のように黒い眉と、
睫
(
まつげ
)
の長い灰色がかった空色の美しい眼とは、どんなに雑踏した人なかを散歩している気のないぼんやりした男でも、その顔を見ては、思わず立ち止まって
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
そこで工夫をして、
他所
(
よそ
)
から頂戴して
貯
(
たくわ
)
えている
豹
(
ひょう
)
の皮を釣って置く。と
枇杷
(
びわ
)
の宿にいすくまって、裏屋根へ来るのさえ、おっかなびっくり、(坊主びっくり
貂
(
てん
)
の皮)だから面白い。
二、三羽――十二、三羽
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大きさ
鼬
(
いたち
)
ほどもあり、足の指には
水掻
(
みずか
)
きがあったともいうのは、一部は浜の者が打ち殺しもしたからかと思うが、後には
貂
(
てん
)
のごとき
獣
(
けもの
)
が現われて、追々にこれを退治し尽したというのは
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
貂
(
てん
)
のやうな女の光つた眼が、酒の酔ひで、昔のエールを発散しはじめてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
婦人は素敵な美人であつたけれど、それよりも私等仲間の注目を
惹
(
ひ
)
いたのは、西欧の王さまたちが即位のとき身に飾る黒
貂
(
てん
)
の毛皮に、白金の糸を織り込んだやうな銀狐の皮であつたのである。
たぬき汁
(新字旧仮名)
/
佐藤垢石
(著)
なるほど、
話
(
はなし
)
に
聞
(
き
)
いたとおり、
夜中
(
よなか
)
になると、
何
(
なん
)
十
人
(
にん
)
となく
青
(
あお
)
い
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
た
赤鬼
(
あかおに
)
や、
赤
(
あか
)
い
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
た
黒鬼
(
くろおに
)
が、
貂
(
てん
)
の目のようにきらきら
光
(
ひか
)
る
明
(
あ
)
かりをつけて、がやがやいいながら
出
(
で
)
てきました。
瘤とり
(新字新仮名)
/
楠山正雄
(著)
高価な毛皮で縁どった
天鵞絨
(
びろうど
)
の服や、レエスの着物や、刺繍のある衣服や、
駝鳥
(
だちょう
)
の羽根で飾った帽子——
貂
(
てん
)
の皮の
外套
(
がいとう
)
、それから小さな手袋、
手巾
(
ハンケチ
)
、絹の靴下——帳場の
後方
(
うしろ
)
に坐っていた婦人達は
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
火口壁の聳えたところに、折り目がいくつか出来ている、そうして近頃の新火口らしい円い輪形から、
貂
(
てん
)
の毛のような、褐色な
房
(
ふ
)
っさりとした烟が、太く立ち上って、頂上から少し上の空を這って
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
八年前の十一月初めて奈良に来た
夕
(
ゆうべ
)
、三景楼の二階から
紺青
(
こんじょう
)
にけぶる春日山に隣りして、
貂
(
てん
)
の皮もて包んだ様な暖かい色の
円満
(
ふっくら
)
とした嫩草山の美しい姿を見た時、余の心は
如何様
(
どんな
)
に
躍
(
おど
)
ったであろう。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
貂
(
てん
)
ならむ我が冷えわぶる
後夜
(
ごや
)
にして鼠ひた追ふ音駈けめぐる
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
彼女は、
貂
(
てん
)
で高い襟のついた
剣術着
(
フェンシング・ケミセット
)
のような黄色い
短衣
(
ジャケット
)
の上に、
天鵞絨
(
びろうど
)
の
袖無外套
(
クローク
)
を羽織っていて、右手に盲目のオリオンとオリヴァレス伯
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
貂
(
てん
)
は戸口の前の沼池からしのび出て岸の蛙をつかまえる。ハマスゲはあちこち飛びかわす食米鳥の重みでたわむ。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
あるところは、右にも
滝
(
たき
)
、左にも滝、そして、渓流の
瀞
(
とろ
)
に
朽
(
く
)
ちたおれている
腐木
(
ふぼく
)
の上を、
貂
(
てん
)
や、むささびや、りすなどが、
山葡萄
(
やまぶどう
)
をあらそっているのを
昼
(
ひる
)
でも見る。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
古寺や古屋に妖怪
沙汰
(
ざた
)
あるは、
貂
(
てん
)
や
鼬
(
いたち
)
の古びたるものが住み、夜中恐ろしき響きを伝え、あるいは暗き所に光りたる目を見せたりするのを見聞し、これに神経が加わり想像が手伝い
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
途中、日が暮れたので
貂
(
てん
)
とり小屋に泊った。真夜中に弟は何かの声で目がさめた。
えぞおばけ列伝
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
少年はふくろを解いて、見ごとな
毛裘
(
けごろも
)
をとり出した。それは
貂
(
てん
)
の皮で作られたもので、金や珠の頸かざりが
燦然
(
さんぜん
)
として輝いているのを見れば、捨て売りにしても価い万金という
代物
(
しろもの
)
である。
中国怪奇小説集:16 子不語(清)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
壁うらに食はるる鼠声啼けり飽くなき
貂
(
てん
)
もはたや寒かる
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
名妓と
貂
(
てん
)
3・9
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そこにはまた、蛙や亀の清らかな種族があり、
貽貝
(
いがい
)
も少々ある。ジャコウネズミや
貂
(
てん
)
は池のほとりに跡をのこし、時には旅の泥亀もおとずれることがある。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
「どうもおあいにく様で。それにいくら木曾の山中でも黒毛の
貂
(
てん
)
などはめったに捕れません」
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その、乳を流した鏡のような世界の中では、あの二つの複雑な色彩、秘密っぽい黒
貂
(
てん
)
の
外套
(
がいとう
)
も、燃えるような緑髪も、きらびやかな
太夫着
(
だゆうぎ
)
の朱と黄金を、ただただ静かな哀傷としてながめられた。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
冬夜さり鼠の
業
(
ごふ
)
も果てけらし
貂
(
てん
)
の
眼
(
まなこ
)
も
食
(
じき
)
に和むか
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
朝きげんのいい
栗鼠
(
りす
)
、はしゃぎ者のむささび、雨ぎらいの
貂
(
てん
)
、などが
尻
(
し
)
ッ
尾
(
ぽ
)
を
振
(
ふ
)
りながら
餌
(
えさ
)
をあさりに出だした。そこらに
山葡萄
(
やまぶどう
)
は
腐
(
くさ
)
るほどなっている。
栗
(
くり
)
の
実
(
み
)
はいたるところに
割
(
わ
)
れている。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「てのひらだよ、黒い
貂
(
てん
)
の」
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“貂(テン)”の解説
テン(貂、黄鼬、Martes melampus)は、哺乳綱ネコ目(食肉目)イヌ亜目 イタチ科テン属に分類される食肉類。エゾクロテン(蝦夷黒貂、Martes zibellina brachyura)は同属異種。
(出典:Wikipedia)
貂
漢検1級
部首:⾘
12画
“貂”を含む語句
貂皮
黒貂
貂蝉
三貂角
冬貂
続貂
続貂狗尾
続貂論
貂裘
黄貂魚
黒貂皮