謀叛むほん)” の例文
政宗謀叛むほんとは初めより覚悟してこそ若松を出たれ、と云った主人が、政宗に招かれてにじり上りから其茶室へ這入はいろうというのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
尾張名古屋へまた、江戸ッ児のお角さんが何の用あって——何の謀叛むほんのために乗りこんで、おきゃあせの相場を狂わそうとするのか。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「無学な上に年を取っているから、若いものに馬鹿にされたり、また、自分が一生懸命になっている女にまでも謀叛むほんされたりするのだ」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ここに草のいおりを結んで、謀叛むほん人と呼ばれた父の菩提ぼだいとむらいながら、往き来の旅人たびびとに甘酒を施していた。比丘尼塚のぬしはこの尼であると。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
忽ち明智謀叛むほんと分り、敵近し、とも聞えたので、その騒ぎは言語に絶したものだったが、それでもまたたく間に全員戦闘の部署ぶしょにつき
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐ろしく神経をとがらせ、程度次第では、絵図面を引いて公儀の許しを受けなければ、謀叛むほん同様に見做みなされる場合もあったのです。
謀叛むほんだ!」と叫びながらだれも皆逃げ出してしまった。逃走者を引きとめようとしたが駄目だめだった、と祖父は話してきかした。
英文学に異彩をはなつと称せらるるかの有名なるミルトンの『失楽園パラダイスロスト』の主人公は、神を相手に謀叛むほんはたひるがえした悪魔の雄将サタンである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
兵士らがアレクサンデルに反抗し、水夫らがクリストフ・コロンブスに反抗する、などは皆暴動であり、不真実なる謀叛むほんである。
何でも政治向のことで上方では騒動があって、謀叛むほんくわだてた一味の中には、殺人ひとごろしまでしながら網をくぐって、西国へ逃げた者があるそうだ。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「へいへいへい、何旦那ちょいとその、洒落しゃれに遣りましたばかりなんで、へい、大した天下を望むような謀叛むほんを起したではござりやせん。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高倉宮が法輪院で休まれている頃、京の街は宮の謀叛むほんの噂でもちきっていた。戦乱はもはや免れまい、あわてて逃げ仕度にかかる者さえいた。
康頼 わしらが飛ぶ鳥も落とす清盛きよもり謀叛むほんして、島流しになってる身であることを、知らない者はありません。とても船にのせてはくれません。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
すなわち文面は北条氏と長尾義景とのあいだに交わされた密書で、義景の謀叛むほんを北条氏がたすける意味のものである。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、謀叛むほんを企てるには、貪嗔癡どんしんちの三毒を具えねばならぬ。聖者は五欲を放たれても、三毒の害は受けられぬのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ今度は佐久間盛政の注進で、長浜の勝豊謀叛むほんすとの報であるが、勝家、盛政が勝豊と不和なのを知っているので、讒言ざんげんだろうと思って取合わない。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
殊に先年月形城の謀叛むほん以来牡鹿山の老臣共は猜疑さいぎの念が深くなって、容易に願いを聴き届けようともしなかった。
謀叛むほんだな。よし。引き上げろ。」さう大臣はみんなに云つた。そこで大臣一行は、くるつと馬を立て直し、黄いろなちりをあげながら、一目散に戻つて行く。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
第一僕たちのような頸骨けいこつの固い謀叛むほん人に対して、大家先生たちが裏書きどころか、俺たちと先生がたとなんのかかわりあらんやだ。……ところで俺はいった。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし、このとき、謀叛むほんの証左を無くするため人知れず軍用金をある信用すべき商人の一人の手中に隠した。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
謀叛むほんという言葉がある。また、官軍、賊軍という言葉もある。外国には、それとぴったり合うような感じの言葉が、あまり使用せられていないように思われる。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だいそれた謀叛むほんをたくらんだといふのも一つはたしかに、その霞の誘惑だつたとわたしはいま思ひます。
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何でも是は大名旗下はたもとうち謀叛むほんれ有る者、お家をくつがえさんとする者が、毒酒を試しに来たに相違ないと云うので、女房に其の武家の顔を知ってるかと尋ねると
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前は、国のために働くのが嫌いなのか? そんな奴は謀叛むほん人だぞ。」そして、もう三ツぶん殴った。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
源助は一寸眞面目な顏をしたが、また直ぐ笑ひを含んで、『呍、し/\、此老爺さんが引受けたら間違ツこはねえが、何だな、お定さんも謀叛むほんの一味に加つたな?』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
尊氏の謀叛むほんによって、吉野へ落ちられた後は、薨去まで約五十年、全く流離困乏の御生活であった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
責任さえないと云う事が分っておれば謀叛むほんの連判状へでも名を書き入れますと云う顔付をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕を謀叛むほんでも起こしかねない人間だと思っていますがね、そこはあの人の思い違いですよ。僕はふところに相当の金さえあれば、とうにこんなところにいはしないんです。
王兄シャマシュ・シュム・ウキンの謀叛むほんがバビロンの落城でようやくしずまったばかりのこととて、何かまた、不逞ふていの徒の陰謀いんぼうではないかと探ってみたが、それらしい様子もない。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
血は、まだあつかつた。謀叛むほんする奴隷のやうな氣持ちが、私を尚も力強くき締めてゐた。
謀叛むほんきこえありて鎌倉かまくら討手うつて佐々木三郎兵衛入道西念としば/\たゝかひてつひ落城らくじやうせり。
ことに懸念したのは豊臣とよとみの残党で、それを口火に徳川へ恨みを持っている豊家ゆかりの大名たちが、いちどきに謀叛むほんを起こしはしないだろうかという不安から奥州は仙台せんだい伊達だて一家
妙な人間と交際まじわろうものならご家名をけがすばかりでなくて謀叛むほん人の汚名さえ着ましょうと。……そこへ行くとここに控えておられる山県紋也先生などは、よいお友達でございますよ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口をきかれる以上に、彼の悪人でないこと、謀叛むほんなどを企てている者でないことが、彼の沈黙のうちによく現われていた。その威厳ある静かな態度を見て、ピラトが不思議に思った。
謀叛むほんのこころなどはないにしても、二代三代のうちに自然に金が溜まって、それを軍資にまわすことができるとなれば、ナニ、徳川も昔はじぶんと同格……という考えを起こして、ふと
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
尊氏謀叛むほんの前に——即ち、功成り、名遂げて、病死してしまっていたなら、正成の一生としては、仕合せであったであろうが、果して、千早挙兵の志が、今日の如く伝わったであろうか。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ちょうど華盛頓ワシントンが兵を挙げたのもこれと同様で、謀叛むほんではない。人間には独立すべき自然の権利がある。一つのライトがある。独立の宣言書を見ると、韻を踏んで書いてある。よほど文章家である。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「目の寄るところへ玉だ。一つ謀叛むほんをしてやろうじゃないか?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「キサマは謀叛むほんを起したな。これ、こん畜生………」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
日曜に謀叛むほん起り
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
必定ひつじょう——怨みをふくんで、謀叛むほんするにちがいない。備えをなさぬうち、菩提山をとり囲んで、彼奴きゃつの城を召し上げてしまえ)
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう謀叛むほんを考えている一方、神尾主膳もまた、さあ、これからどこへかひとつ、出かけて行ってやりたいものだが、さて、どこへ行こう。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おんなじと思ふ男があれば、間違ひです——馬鹿か意久地いくぢなしのことでせう。自分以外のものの爲めに謀叛むほんされたのです。女は謀叛人です。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
殺すほどでないのは確かで、殘る二味も、私には大方見當は付きます。これでも謀叛むほんや惡企みと關り合ひになるでせうか
かれはよしなき仏門に入ったことを悔まなかったであろうか。しかも世をせばめられた謀叛むほん人の娘は、これよりほかに行くべき道は無かったのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かの頼朝は、平治の乱における左馬頭義朝さまのかみよしとも謀叛むほんに依り、誅伐せらるべきのところを、入道相国しょうこくの大慈悲をもって助け置き下されたものであります。
前に言ったごとく、謀叛むほんは時として政府の権力のうちにある。ポリニャックはひとりの暴動家であり、カミーユ・デムーランはひとりの統御者である。
「すは、山男が謀叛むほんするわ。」と異口同音にののしり騒いで、やにはに四方八方からからめとらうと競ひ立つた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等の勢いが猖獗しょうけつを極めるに従って、先年謀叛むほんを企てたことのある月形城の横輪豊前守は、既に彼等と気脈を通じて動き出そうとする様子が顕然としているし
彼は今一段自分の狡猾さを増して、自分から明らかに堂々と以後一家で負う可き一切の煩雑さを、秋三に尽く背負わして了ったならば、その鮮かな謀叛むほんの手腕が
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)