詮索せんさく)” の例文
ふだんから話し好きのおじさんも、この問題については堅く口を結んでいるので、わたしも押し返して詮索せんさくする手がかりが無かった。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三二六さあ張っちょくれッ、胴は五の目だ、半目だぞッ、——というかいわないか、それまでは詳しく詮索せんさくする必要がないにしても
手が足りないので、深く詮索せんさくもせず、四五人、臨時に雇い入れたのであるが、そのときに、敵の廻し者がまぎれこんだにちがいない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
多くの場合無益の詮索せんさくのごとく考えられている歴史の学問は、かくのごとき場合に吾々を正しきに導くただ一つの頼みの綱である。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あつしもそれは氣がつきましたが、詮索せんさくする迄もなく、表看板の下で、囃子の三味線を彈いてゐたんだから、疑ひやうはありません」
また美術史家たちの詮索せんさくによる、彼の絵画史研究などもすすめられて来てはいるが、私のこの書は、もとより小説宮本武蔵である。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、そのような奇怪の、ほの白い人の顔の出没に接しても、ただ単に、屈辱を感じただけで、それ以上の深い詮索せんさくをしなかった。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
炭問屋の主人は、そこまで詮索せんさくしてみようという気はありませんから、いつしか自分の案内知った房州話になってしまいました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
事件は、いちいち面倒な詮索せんさくや調査をするまでもなく至極簡単明瞭であった。殺人行為の発生すべき直接の誘因はどこにもない。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
あらぬ噂やかげ口が飛ぶのもそのためで、それをいちいちとりあげたり詮索せんさくしたりすると、却って事が大きくなるばかりである。
『陳述するから、お書きとりください』——そう、これだ! そこで陳述すると、僕が読み、興味を持ち、捜し……かつ詮索せんさくしたのは……
段々詮索せんさくしてみると、達雄さんが家を捨てて出るという時に、途中である銀行から金を引出して、それで芸者を身受けして連れて行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれどもこの兜には前立まえだてがないのです。つかが残っているので、前立は何んであるかと詮索せんさくをして見ると、これは独鈷とっこであるということです。
すべひとたるものつね物事ものごとこゝろとゞめ、あたらしきことおこることあらば、何故なにゆゑありてかゝこと出來できしやと、よく其本そのもと詮索せんさくせざるべからず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
前後のない一念の念仏で、念仏みずからの念仏とでもいいましょうか。とやかく人間の智慧ちえで、その意味を詮索せんさくする余地もない念仏であります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼女の医師の側の差し出がましい熱心な詮索せんさくや、一家の埋葬地が遠い野ざらしの場所にあることなどを、考えたからであった。
あんまり不思議だから、全体何の御用事が御有りなのですかと、詮索せんさくがましからぬ程度に聞いて見ると、実はさいが病気でと云う返事である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「——けれどもほんとうの当日には詮索せんさくがきびしいからかりに今夜ひそかな御祝祭おいわいをするんです——よかったら来てごらんなさいませんか。」
「医者のことをそんなに詮索せんさくするのは、君は心身いずれかに病気があるのではないかな」と、教授は笑いながら言った。
小野 (いよいよ不気味そうに石ノ上の眼差まなざし詮索せんさくして)石ノ上!……どう云うことなんだね、一体、君の云うその「あんなあな」とか云うのは?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
人間の廃朽品である乞食に就ても同様で、一たんこれと目ざした乞食に向けては執拗に詮索せんさく追躡ついじょうして行く性分である。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
めんどうなむずかしい学問的な詮索せんさくは別として、この「呪」という字は、梵語の曼怛羅マントラという字を翻訳したものです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
と宮は謙遜けんそんしておいでになったが、においの繊細なよさ悪さをぎ分けて、微瑕びかも許さないふうに詮索せんさくされ、等級をおつけになろうとするのであった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
誤まつた焦点せうてんのなかに、心をかきみだされる事もない。すべてが、のびのびとふるまへるのは、お互ひの心の詮索せんさくが不必要なせゐだらうかとも思へた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
こんな平凡な景色の記憶がこんなに鮮明に残っているには、何かわけがあったに相違ないが、そのわけはもう詮索せんさくする手づるがなくなってしまっている。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どういう手違いがこんな突発的な不幸事をき起したのか、ほぞを噛むような呪わしさを覚える、しかし目下は、そんな詮索せんさくをしているときでも無かった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「一ツ詮索せんさくをして帰ろう、と居坐ったがね、……気にしなさんな。別にお前の身体からだを裏返しにして、綺麗に洗いだてをしようと云うんじゃねえ。可いから、」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外に三千子の死骸をはこぶ様な人がありませんもの。しかし、そんなことを今更詮索せんさくして見たって始まらないわ。小林さん、あたしどうすればいいんでしょうね
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あわぬ詮索せんさくに日を消すより極楽はまぶたの合うた一時とその能とするところは呑むなり酔うなりねぶるなり自堕落は馴れるに早くいつまでも血気さかんとわれから信用を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
分けても詮索せんさくし縛り首に処すということは、彼といえども知っている筈だ。それだのに無断で他国するとは
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そいで噂ひろがって行って、いろいろな方法で詮索せんさくするもん出来て来て、分ったとこでは、初めごろ綿貫は自分に欠陥あるいうこと隠して遊んでましてんけど
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
コゼットは別に何にも詮索せんさくしようともせず、その人形と老人との間にあってただもう無性にうれしかった。
俺が案じていたような詮索せんさくもしなかった。綾子への詮索に対して金原が俺には無言を通した、そのかわりのように黙って何も言わないで、俺の手紙を受け取った。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
およそ詩人を解するには、その努めて現わそうとしたところを極めるがよろしく、努めて忘れようとして隠そうとしたところを詮索せんさくしたとて、何が得られるものでもない
おまけにありがたいことには成績は秘密ということになっている。そんな隠した場所にどういう字が書いてあるかまで苦心して詮索せんさくすることは全くつまらぬ話である。
またこのみ仏に接するとき作者を詮索せんさくする心など起らぬ。ただ私にとっては歴史の真情と思われる右のような思いを、救世観音は暗黙の裡に示唆してくれたのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
叔父と伯母とのあいだに、お庄を片着けるような家の詮索せんさくが始まった。伯母はその男との関係があまりもつれて来ないうちに早くお庄の体を始末をしなければならぬことを主張した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で其の準備じゆんびからしてすこぶ大仰おほげうで、モデルの詮索せんさくにも何のくらい苦心くしんしたか知れぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と今度は子供の数の詮索せんさくになる。点数を問題にしていた頃から一足飛びだ。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私はこのような概念の詮索せんさくから始めるのは、面倒なので、通俗小説と純文学とを一つにしたもの、このものこそ今後の文学だと云ったのであるが、誤解を招いた責任は、私も持たねばならぬ。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ざ自分が筆を執る段となると仮名遣いから手爾於波テニヲハ、漢字の正訛せいか、熟語の撰択、若い文人が好い加減に創作した出鱈目でたらめの造語の詮索せんさくから句読くとうの末までを一々精究して際限なく気にしていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
勇猛ゆうみょう精進潔斎怠らず、南無帰命頂礼なむきみょうちょうらいと真心をこら肝胆かんたんを砕きて三拝一鑿いっさく九拝一刀、刻みいだせし木像あり難や三十二そう円満の当体とうたい即仏そくぶつ御利益ごりやくうたがいなしとなまぐさ和尚様おしょうさま語られしが、さりとは浅い詮索せんさく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして疲れきった彼の頭脳は、それらの和音がどういう成分でできてるかを、またどういう意味を告げてるかを、機械的に詮索せんさくしつづけていた。しかしどうしても捜し出すことができなかった。
したがって、これは好奇心に富んだ、まじめな詮索せんさく家を満足させるに十分であると思う。バーグレーヴ夫人は現在生きている人で、死んだヴィール夫人の亡霊が彼女のところに現われたのであった。
その中には誘拐いうかいや、迷子や、記憶きおく喪失さうしつや、借金逃れもあつたでせうが、昔の人はそんな詮索せんさくをする氣もないほど鷹揚だつたのでせう。
それから、附近を詮索せんさくして水道の工事があり、やがて開墾にとりかかって、草木を焼き、或いはり、開くあとから種をきはじめました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは理に合わないので、なおも詮索せんさくしてみた揚句、どうも蜂須賀家の者に意図を知られて、姿をくらましたらしく思われた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつかの約束を覚えているか」とやがて帯刀が口をきった、「織部どのと西沢との事は始末がついた、なにも詮索せんさくはしないと約束した筈だ」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それなる夢癆妖女がいずれの場合に属して、かかるのろうべき犯行をあえてしたか、その詮索せんさくが重大となってまいりました。
僕は、店子の身元についてこれまで、あまり深い詮索せんさくをしなかった。失礼なことだと思っている。敷金のことについて彼はこんなことを言った。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)