視詰みつ)” の例文
その恋しさに身をらしながら、自分の運命を他人にゆだねて、時計の針を視詰みつめているということは、考えて見てもたまらないことです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
併し、貞子はどうしたのか立っては行かないので、私は仕方なく又立って行ってその扉をあけた。そして私はすぐに峻の靴先を視詰みつめていた。
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
左の手を出して……おふくろ二歳ふたつ三歳みッつの子供を愛するようにお菊の肩の処へ手をかけて、お菊の顔を視詰みつめて居りますから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、最後に現れたお志保の顔が、彼の目をじーっと視詰みつめてにっこり笑った。それを見ると、庸介もおもわず同じようににっこりとした。そして
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
れて此処こゝとほりかゝると、いまわし御身おみまをしたやうに、ぬまみづふかいぞ、とけたものがある。四手場よつでば片膝かたひざで、やみみづ視詰みつめて老人らうじんぞや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嗚呼、いまは、はや嘆かむにもよしなし、向日葵の花の誇りはあしたの露に滅び、夜鳥の瞳に映えししろがねの月光、また海のあなたに沈みて、闇に踊る青衣の悪魔は地に伏してわが方を視詰みつむのみなり
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
此人の近作を読んで非常に敬服して教えを乞いに来たようにいうと、先生畳をじっ視詰みつめて、あれは咄嗟とっさの作で、書懸かきかけると親類に不幸が有ったものだから、とかいうような申訳めいた事を言って
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三人は無言で、それぞれの間を隔てている水の面を視詰みつめていると、水面が又少し高まって、天井との間の空間が三四尺ぐらいに縮まった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
睨みつけるような眼で私達学生席の方を視詰みつめながらも、その口元には絶えず微笑を含んでいるのであったが、併しそれは何処となく凄味のある微笑で
と云われて、忠平は祖五郎とお竹の顔を視詰みつめて居りました。忠平は思い込んだ容子ようす
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じつ視詰みつめて、茫乎ぼんやりすると、ならべた寐床ねどこの、家内かないまくら両傍りやうわきへ、する/\とくさへて、みじかいのがる/\びると、おほひかゝつて、かやともすゝきともあしともわからず……なか掻巻かいまきがスーとえる
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なに、いです明日あした買って来るから」、と矢張やっぱり壁を視詰みつめた儘で。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
初子はあきれた顔をして、穴の明くほど庄造を視詰みつめていたが、何と思ったか黙って二階へ上って行って、直ぐ段梯子だんばしごの中段まで戻って来ると
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんなとき、青の耳は、かすかながらに動き出すのだった。その暗い眼は、空間のどこかにただ向けられているのではなく、何かを視詰みつめ出しているようだった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
視詰みつめて、夫人は
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が一心に視詰みつめていると、彼女の肌に燃える光りはいよいよ明るさを増して来る、時には私のまゆきそうに迫って来る。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女は朝刊から眼を離して部屋の隅を視詰みつめていた。そして、彼女は二三カ月以前に、電車の中で、自働扉に指を噛まれたと言って血を流していた男のことを思い出していた。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
どうした訳か今しがたまで機嫌きげんかった女房が、しゃくをしようともしないで、両手をふところに入れてしまって、真正面からぐっと此方を視詰みつめている。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雄吾は、佐平爺の顔を視詰みつめていた眼を、静かに伏せた。同時に顔色が真っ蒼になった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
どうした訳か今しがたまで機嫌の好かつた女房が、酌をしようともしないで、両手をふところに入れてしまつて、真正面からぐつと此方こちら視詰みつめてゐる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は言いながら女給の手の指を視詰みつめた。蒼々あおあおしく痩せた細い魅力の無い指だった。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
雪子も最初はその無躾ぶしつけな視線を不愉快に感じるのみであったが、やがて、男が何か訳があって自分を視詰みつめているのではないか、と思うようになった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女は洗面器の中の、すっぽんを視詰みつめながら、首を出すのを待った。すっぽんの生血なまちを取るのには、その首を出すのを待っていて、鋭利な刃物でそれを切るのだと教えられていたからであった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私はしばらくあっけに取られて、彼女の顔を穴の開くほど視詰みつめながら、「ははあ、此奴、為替の来たのが分ったんだな、それで捜りを入れているんだな」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平六の出鱈目な踊りは、ひどく受けてしまった。一同は平六から眼を離さなかった。その中で万だけは、仮装の福禄寿の方を視詰みつめ続けていた。すると福禄寿は、またも銀の杯を袖の中に持ち込んだ。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その谷あいの秋色は素晴すばらしい眺めであったけれども、足もとばかり視詰みつめていた私は、おりおり眼の前を飛び立つ四十雀しじゅうからの羽音に驚かされたくらいのことで
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西谷はそして、机に向って本を読み続ける代りに、娘と何か話をしているようなことが多くなった。時には、私の仕事場へ来て、何時までも何時までも私の手先を視詰みつめているようなことがあった。
お秋とお花とがびっくりしたように黙って泣き顔を視詰みつめているので、少しきまりが悪くなって応接間からテラスへ逃げて来て、まだしくしくとしゃくり上げながら
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美津子は寝床の上へ起き上がってっと父親の顔を視詰みつめた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
じーっと光子さんの顔視詰みつめてますと、夫もやっぱり同じ恐怖に襲われたらしゅう、白い粉薬手エの上に載せたまま、私の手エにある薬の色と見比べるみたいにして
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は黙って、ただ、女の白い顔を視詰みつめていた。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そのあと暫く、幸子は再び火を視詰みつめながらひとり考え込んでいた。なるほど、カタリナが結婚したと云うことは、妙子がわざわざそれを知らせに立ち寄るだけの価値はある。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何もも分っているらしいのが不思議であったが、ふと、眼の前をきらりと落ちたものがあるので、あやしみながら振り仰ぐと、母が涙を一杯ためてあらぬ方角を視詰みつめていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人は珍しくも面と向って互の眼の中を視詰みつめながら話しているのであるが、そのぎごちなさを隠そうとして殊更つけつけと物を云いながら細巻の金口きんくちを輪に吹いている妻の様子を
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
暫くベッドへ仰向けにてじっと天井を視詰みつめていたが、そうしていても、一方の窓からは富士の頂が、他の一方の窓からは湖水を囲繞いにょうする山々の起伏が、彼女の視野に這入って来た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ときどきリリーの眼を視詰みつめながら、悧巧りこうだと云っても小さい獣に過ぎないものが、どうしてこんな意味ありげな眼をしているのか、何かほんとうに悲しいことを考えているのだろうかと
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
したったのであろうが佐助は春鶯囀を弾きつつどこへ魂をせたであろう触覚の世界を媒介ばいかいとして観念の春琴を視詰みつめることに慣らされた彼は聴覚によってその欠陥けっかんたしたのであろうか。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
石崖から屋根にいたる間をいつ迄も視詰みつめていたことであろうが、やがて、ふと気が付いたのは、石崖の一番下の、土に接しているあたりに、或る一箇所だけこけがれている部分があった。
夫はうその薬飲んで寝た真似まねしてるのん違うやろかと、そない思たら、飲んだ風して放ってしまおとしますねんけど、光子さんいうたらそんな胡麻化ごまかしささんようにじッと手もと視詰みつめてて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
病人は矢張背中を此方に向けて壁の一点を視詰みつめたまま、そう云っていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その関係は私自身の影にいても同じであった。じっとたたずんで自分の影を長く長く視詰みつめていると、影の方でも地べたに臥転ねころんでじっと私を見上げている。私の外に動くものはこの影ばかりである。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なあそやないか?」と夫は涙で光ってるべた視詰みつめながら
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見るともなく視詰みつめて何か考えているような眼つきである。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)