よそほ)” の例文
旧字:
ぱうは、大巌おほいはおびたゞしくかさなつて、陰惨冥々いんさんめい/\たる樹立こだちしげみは、露呈あらはに、いし天井てんじやううねよそほふ——こゝの椅子いすは、横倒よこたふれの朽木くちきであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丁度祭日まつりびであつたその夕方に、綺麗によそほはれた街の幼い男女なんによは並木の間々あひだ/\で鬼ごつこや何やと幾団いくだんにもなつて遊んで居ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
湯加減をぬすんで名刀の名を馳せし刀鍛治左文字の故事を学ぶの最後の智慧を以て、或日は薄暮、或日は暁暗、亦時として通りすがりの様をよそほつて、新八
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼は女の貴族的によそほへるに反して、黒紬くろつむぎの紋付の羽織に藍千筋あゐせんすぢ秩父銘撰ちちぶめいせんの袷着て、白縮緬しろちりめん兵児帯へこおびあたらしからず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ついては明日、れの場を用ゐ、馬上帯弓たいきゅうよそほひにて、久々の御あいさつ申さむとこそ存ずれ。お覚悟いかに。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥様がわざ/\磊落らいらくらしくよそほつて、剽軽へうきんなことを言つて、男のやうな声を出して笑ふのも、其為だらう。紅涙なんだくお志保の顔を流れるのも、其為だらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もし万一信じられぬ場合は、少くとも信じてゐるらしい顔つきをよそほはねばならぬものである。けれども野蛮やばんなる菊池寛は信じもしなければ信じる真似まねもしない。
己は腹の立つのを我慢して、成るべく冷静な態度をよそほつてこの気の変になつたドイツ人に道理を説いて聞かせた。その要点はかうである。お前の思案は好くあるまい。
が何事も知らぬものゝ如くよそほつて、好加減いゝかげんはなしてゐた。するとあによめ一寸ちよつと自分の方を振りいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三度みたび⦅汝、詩人たるべし!⦆と呼び、三度みたび我がぬかを月桂樹もてよそほうて、空の方へと連れ去つた。
蘭軒の歿後に、榛軒は抽斎、玄亭、椿庭の詩箋、枳園の便面べんめん、玄道の短冊を一幅によそほひ成したことがある。此幅は近年に至るまで徳さんの所にあつたが、今其所在を知らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのせつに、おくさんのまぶたに一ぱいにじんでゐたなみだにひよいとがつくと、今まで何氕なにげなさをよそほつてゐた青木さんの心はおもはずよろめいた。青木さんはあわててイスからち上つた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
たえ子はそのばんも女中のお春と二人きりのさびしい食卓に向つて、腹立しさと侮辱と悲哀とにみたされた弱い心をひて平気らしくよそほひながらはしを執つてゐたが、続いて来る苛々いら/\しい長い一夜を考へると
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なみ珠玉しゆぎよくちりばめ、白銀しろがねくも浮彫うきぼりよそほひ、緑金りよくきん象嵌ぞうがん好木奇樹かうぼくきじゆ姿すがたらして、粧壁彩巌しやうへきさいがんきざんだのが、一である。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みな、からよそほひぞしたる。花かづらの色より始めて——天人の降り遊ぶらむもかくやとぞおぼゆる”
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貫一は息も絶々ながらしかと鞄を掻抱かきいだき、右の逆手さかてに小刀を隠し持ちて、この上にも狼藉ろうぜきに及ばばんやう有りと、油断を計りてわざと為す無きていよそほひ、直呻ひたうめきにぞ呻きゐたる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この団欒まどゐの中に彼の如く色白く、身奇麗に、しかも美々びびしくよそほひたるはあらざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あらためてしるしせう、……前刻さきにまをした、鮫膚さめはだ縮毛ちゞれけの、みにくきたない、木像もくざうを、仔細しさいありげによそほふた、心根こゝろねのほどの苦々にが/\しさに、へしつて捻切ねぢきつた、をんな片腕かたうでいまかへすわ、受取うけとれ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)