あかざ)” の例文
髪も髯も真っ白なのに、面は桃花のごとく、飛雲鶴翔ひうんかくしょうの衣をまとい、手にはあかざの杖をもって、飄々ひょうひょうと歩むところおのずから微風が流れる。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の内にもすっかり明けはなれましたから、親切な白翁堂はあかざの杖をついて、伴藏と一緒にポク/\出懸けて、萩原の内へまいり
若し少しでも変つてゐるとすれば、それは一面にスレヱトの屋根や煉瓦の壁の落ち重なつた中にあかざの伸びてゐるだけだつた。
ピアノ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
島方の三人は、重湯おもゆをとるやらかゆをつくるやら、その間にあかざの葉の摺餌すりえをこしらえ、藤九郎の卵を吸わせ、一日中、病人の介抱に忙殺された。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
和尚をしやうが、わたしまへこしかゞめて、いたあかざ頤杖あごづゑにして、しろひげおよがせおよがせ、くちかないで、身體中からだぢうをじろ/\と覗込のぞきこむではござんせんか。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春さきになると、まず壺すみれが日南ひなたに咲いた。それからクローバー、車前草おおばこあかざなどがほしいままに繁った。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは他の草花から離れて、偶然この雑草の抜いてない場所に生えたので、よく茂ったあかざや、名も知らぬ丈の高い南方の雑草が、ぎっしりと周りを取り囲んでいた。
魚や肉などは余りに買わないで多くは浅蜊あさりはまぐりまたは鰯売り位を呼込んで副菜にし、あるいは門前の空地に生い茂っているあかざの葉を茹でて浸し物にする事もあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
と云って、あかざの杖をついて伴蔵といっしょに新三郎のうちへ往った。そして、いぶかる新三郎に人相を見に来たと云って、ふところから天眼鏡を取り出して其の顔を見ていたが
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主従は有難きことに思い、御像をその駒形堂の所へ安置し奉ると、十人の草刈りの小童こわらわが、あかざの葉をもって花見堂のような仮りのお堂をしつらえ、その御像を飾りました。
見付村役人に屆けなどする中一人の旅僧たびそうねずみころもあさ袈裟けさを身にまと水晶すゐしやう珠數ずず片手かたてもちあかざつゑを突て通りかゝりけるが此捨子を見てつゑを止めやがて立寄りつゝ彼小兒せうにそでひろこしなる矢立を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本橋区茅場町かやばちょう一番地、喜可久。其角きかくの三日月の文台、あかざの軸を見る。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雪のように白い長髪を肩へ深々と垂れ下げた、なつめのようなあかい顔の、獣の皮と木の葉とで不細工に綴った着物を着た、仙人のような老人で、いつもあかざの杖をついて、静かに歩いて来るのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
陽に清貧をたのしんで陰に不平を蓄うるかの似而非えせ文人が「独楽唫」という題目の下にはたして饅頭、焼豆腐の味を思い出だすべきか。彼らは酒の池、肉の林と歌わずんば必ずや麦の飯、あかざあつものと歌わん。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
吾庭の梅雨つゆの雨間の花どころあかざしげりて青がへる啼く
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あかざの杖を曳きながら幡随院へやって来ると、良石和尚は浅葱木綿あさぎもめんの衣をちゃくし、寂寞じゃくまくとして坐布団の上に坐っている所へ勇齋たり
おきな——それは別人ならぬ果心居士かしんこじだ。龍太郎の顔を見ると、ふいと、かたわらのあかざつえをにぎりとって、立ちあがるが早いか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……なさけなさに歩行あるなやみますと、時々とき/″\背後うしろからあかざつゑで、こしくのでございますもの。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
華魁おいらん鴨をうつわ、雪のしたから浜菜やあかざをほってくる、ロッペンの卵をあつめる。
海豹島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
岩菊、浜菜、もるちの花叢はなむらあかざ茅萱ちがや
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
佐野が宿なたふるふべきあかざかな 徴羽郎
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鎌とげばあかざ悲しむけしきかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
たかい冠をいただいて、手にあかざの杖をついています。眉白く、皮膚は桃花のごとく、容貌なんとなく常人とも思われません」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うら田圃たんぼを、やますそから、あかざつゑいて、畝路あぜみちづたひに、わたし心細こゝろぼそそらくもります、離座敷はなれざしきへ、のそ/\とはひつてました、ひげしろい、あかがほの、たかい、茶色ちやいろ被布ひふ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と聞くより勇齋も驚いて、あかざの杖をき、ポク/\と出掛けて参り
蓼やあかざを明るくする。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
張角はしかし稀世きせいの秀才と、郷土でいわれていた。その張角が、あるとき、山中へ薬をとりに入って、道で異相の道士どうしに出会った。道士は手にあかざの杖をもち
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痩躯そうく鶴の如き左典の身は、ヒラリと剣尖けんせんをかわして、その途端にあかざの杖がブーンと新九郎の横面に飛んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの旅籠はたごで、二人は入城の身支度をこしらえた。呉用は白地に黒いふちとりの道服どうふくに、道者頭巾どうじゃずきんをかぶり、普化ふけまがいの銅鈴どうれいを片手に持ち、片手にはあかざの杖をついて出る——。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よいかな竹童、さすがは果心居士かしんこじが、あかざつえで、ピシピシしこんだ秘蔵弟子ひぞうでしだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰か耳もとで呼ぶ声に、ふと気がついた新九郎、まだ気が張り詰めているので、思わずムックリ眸を上げて見ると、眼の前にいるのは自斎ではなくて、麻の道服をまとい手にあかざの杖を持った一人の老翁。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)