胎内たいない)” の例文
数千年来、数億の人々がかためてくれた、坦々たんたんたるたいらかな道である。吾人ごじんが母の胎内たいないにおいてすでに幾分か聞いて来た道である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「私、母の胎内たいないを出て、師僧に仕えてこの方、戒律を破ったことはありませぬ、それなのに、何故、お顔を拝ませて頂けないのでしょう」
「自分のいのちは惜しみませんが、胎内たいないのお子を産みおとすまで、どうかお情けに、生きることをゆるして下さい」と、慟哭どうこくして訴えた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つておでよとあまへるこゑへびくふ雉子きゞすおそろしくなりぬ、さりとも胎内たいないつきおなことして、はゝ乳房ちぶさにすがりしころ手打てうち/\あわゝの可愛かわいげに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かねちから權威けんゐもつて、見事みごともの祕藏ひざうすべし、ふたゝこれ阿母おふくろ胎内たいないもどすことこそかなはずとも、などかすべのなからんや、いで立處たちどころしるしせう。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小石姫は当時丁度臨月りんげつでございましたで、秋の夜露と消えました身の胎内たいないから男の子が丸々と生れ出ました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのうたの一ツにハア〽うさぎ/\児兎こうさぎハアヽ〽わが耳はなぜながいハアヽ〽母の胎内たいないにいた時にさゝ
現に私も月足らずの兒を生んだと評判をされる口惜くやしさに、いろ/\の醫者にも學者にも訊き、子供が母親の胎内たいないに宿るのは、丸十月(太陰暦たいいんれき)足らずと知りました。
生れた時のことはむろんおぼえはなかったが、何でも母親の胎内たいないに八月しかいなかったらしい。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
耶蘇教はつよく、仏教は陰気いんきくさく、神道に湿しめりが無い。かの大なる母教祖ははきょうそ胎内たいないから生れ出た、陽気で簡明切実せつじつな平和の天理教が、つちの人なる農家に多くの信徒をつは尤である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
砲塔のうしろの入口から胎内たいないへおりるといきなり夜になってしまった。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
最も奇な事はその子が生れたからといって、決して洗いもしなければきもしない。母の胎内たいないから出て来た儘で少し汚れ物をほかへ取って置くだけの話。もっとも産婆というような者もありません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
嘗てここに人間を愛してみたいと思つたうろ胎内たいない
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かゝる怨家ゑんか胎内たいないより薄運はくうんの二情人じゃうじん
胎内たいないくぐり
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなは、仏体の胎内たいないにでもかたどってあるのか、口はせまく、行くほどに広くなり、四壁には、諸仏、菩薩ぼさつ、十二神将などの像が、りつけられてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうたの一ツにハア〽うさぎ/\児兎こうさぎハアヽ〽わが耳はなぜながいハアヽ〽母の胎内たいないにいた時にさゝ
宜敷御廻おまはり下さるべし是のみ心懸こゝろがかり故縁者えんじや同樣の貴殿きでんなれば此事頼み置なりまた妻子さいしのこともよろしくお世話下せわくだされよと遺言ゆゐごんなし夫よりせがれ吉三郎に向ひ利兵衞殿むすめお菊は其方そなた胎内たいないより云號いひなづけせしに付利兵衞殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いにしえの名僧は、大蔵だいぞうへ入って万巻まんがんを読み、そこを出るたびに、少しずつ心の眼をひらいたという。おぬしもこの暗黒の一室を、母の胎内たいないと思い、生れ出る支度をしておくがよい。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あげ私し事は上州より毎年まいねん江戸へ太物商賣ふとものしやうばいまゐ井筒屋茂兵衞ゐづつやもへゑせがれきち三郎と申者にて候是なる利兵衞は私しおや茂兵衞もへゑ兄弟きやうだい同樣どうやうまじはり其上利兵衞の娘菊事私し胎内たいないよりの云號いひなづけなり然るに私し十二歳のとき父茂兵衞病氣に付枕元まくらもとへ利兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
数寄屋橋の原で、奉行所衆の割竹の下に、むしろをならべて、共に百叩きに会ったあげく、西と東に放たれたあの時は——もう彼女の肉体に、今の子どもは胎内たいないにあったわけである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっき一同が甲府こうふからしてきた時に、あせをしぼって一列にけた野呂川のろがわ右岸うがんで、その胎内たいない間道かんどうをくぐり、その絶頂ぜっちょうのとりでへでようとこころみた小太郎山こたろうざんそのものの姿すがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胎内たいないにいた時、母が十分に食物をっていなかったせいか、五年漬の梅干みたいな顔をして生れ落ちたこの子は、七歳になっても、まだその不足が取り返せないとみえ、他の子より小粒で
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りるとまたうねうねと道々がある、まるで富士ふじ胎内たいないくぐりというかたちだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形を母の胎内たいないたく
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)