つんぼ)” の例文
「突き当りが、俳諧はいかいの宗匠で其月堂鶯谷きげつどうおうこくの裏口、俳諧はからっ下手だそうですが、金があるのと、つんぼなのでその仲間では有名ですよ」
何事にか夢中になって、それでおのれの背後に人の来り彳むことを忘れたのではありません。本来、この少年はつんぼで、そうしておしです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
じじから笛を受け取るととうとう耳までつんぼになって、どっちが西やら東やら、自分がどこに居るのやら、全く解からなくなってしまった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ところが和尚おしょう泰然として平気だと云うから、よく聞き合わせて見るとからつんぼなんだね。それじゃ泰然たる訳さ。大概そんなものさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
耳も殆んどつんぼであつた。が、同じ酒ずきの私にはいい相手であつた。毎日酒の飮める樣になつた老爺の喜びはまた格別であつた。
それに、これは余談であるが、鶴見は十年ばかり前からつんぼになっている。単に耳が遠いというだけではない。殆ど全く聞えないのである。
ヘルマンはこの女はつんぼだと思って、その耳の方へからだをかがめて、もう一度繰り返して言ったが、老夫人はやはり黙っていた。
「大方女中がまた使いにでも行っていたんだろう。主人の隠居はつんぼだから、中々御免くらいじゃ通じやしない。——君は学校の帰りか。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
の葉とばかり浮き沈む中で、つんぼ同然の可心が、何慰めのことばも聞き得ないで、かえって人の気を安めようと、一人、うおのように口を開けて
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(この野郎、拙者を呑んでかかっているな。面白い、おしにもなれ、つんぼにも化けろ、おれも南町奉行所に彼ありといわれた東儀三郎兵衛だぞ)
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっちをつんぼと思って、大きな声で喋舌るのが普通である。そうでなければ、馬鹿か低能かとでも思っているような表情を、顔に浮べている。
そうして聞く方でも一々表情で相槌を打ち言葉の内容通りの顔をするから、女と女の話はつんぼが見ていても筋だけは分るそうだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
前面には、七階建てのびくともしないつんぼのような家があって、その窓によりかかってる死人のほかには住む人もないかのように見えていた。
シカゴの或るお婆さんは、「私はつんぼ加之おまけおしです。気の毒だとお思ひなら、貴女あなたの書物を一冊送つて呉れ」と申込んで来た。
というのは、こんな獰猛どうもうな動物を眠りに誘うためには、他のものならつんぼになってしまうほどの騒音が必要だったからです。
若僧も告げなければ自分も名乗らなかったのであるのに、ことに全くのつんぼになっているらしいのに、どうして知っていたろうと思ったからである。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つんぼになったように平気で、女はそれから一時間程の間、矢張り二本の指を引金に掛けて引きながら射撃の稽古けいこをした。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「もう一度言うが、僕はつんぼでもないし、道の真中で立ったまま眠りもしないからね。鳴ったと言ったら鳴ったんだよ」
森「何を云うのだ、つんぼだな…そうじゃアねえ、おめえさんは左官の亥太郎さんの親父おとっさんかと聞くのだ、此方こなたは本所の旦那で浪島文治郎と云うお方だ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人ともほとんど口をきかない、誇張していえばつんぼおしのようなぐあいで、ちょっとした手まねや身ぶりや、簡単なめくばせなどで充分に用を弁じた。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
訊かれたこちらの隠居もまたつんぼなので、真面目くさって、「さようであります」と返事していたという話など、七十九の祖母は自分よりもっと年上で
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「おとつゝあつんぼだからきけえねんだ、おとつゝあろうつとてえに呶鳴どなつてろ、そんでなけれみゝ引張ひツぱつてやれ」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
馬車は輪鉄わがねの音をやかましくあたりに響かせながら近附いて来た。いつもの、つんぼじいさんが馭者台ぎょしゃだいにのっていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
玄関の左側には女主人と娘が暮らしていたが、娘といっても、もうお婆さんで、しかも二人ともつんぼらしかった。
「ありません。豆乳屋のつんぼは帰ってしまいました。昼間はあったんですがね、わたしは二杯食べました。仕方がない。お湯を一杯貰って来て上げましょうか」
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼はひどいつんぼなので、早合点はやがてんの人は彼を唖者おしだと思い込み、それより落付いた人も彼を薄鈍物うすのろだといった。
それはそのお婆さんがつんぼで人に手真似をしてもらわないと話が通じず、しかも自分は鼻のつぶれた声で物を言うのでいっそう人に軽蔑的な印象を与えるからで
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
おしつんぼめしいなどは不幸には相違ありません。言うあたわざるもの、聞くあたわざる者、見るあたわざる者も、なお思うことはできます。思うて感ずることはできます。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それでもし生まれつき盲目でその上につんぼな人間があったら、その人の世界はただ触覚、嗅覚きゅうかく、味覚ならびに自分の筋肉の運動に連関して生ずる感覚のみの世界であって
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
べートゥヴェンはつんぼになっても、作曲したわ。バヴロヴィッツは盲目めくらで作曲家になったわ、わたしもなるわ……ひとりで勉強して山の中で作曲家になってみせるわ……。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
法華經云、諸法實相しよほふじつさう天台云てんだいにいはく聲爲佛事等云々せいゐぶつじとううんぬん。日蓮又かくの如く推したてまつる。たとへばいかづちおとみゝしい(つんぼ)の爲に聞くことなく、日月の光り目くらのためにことなし。
おしとかつんぼとか盲目めくらとかいう不具者あるいは子供位を除くのほかは大抵商売人というてもよい位。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
このそば屋のことは、前に浅草界隈かいわいの名代な店のはなしをした折はなしました通り、主人がつんぼであるから「聾そば」ともいってなかなか名の売れた店で並みの二八そばやではない。
そのつんぼの都会とおしの時代とにおいてさえ、時折は聞き取れるようになることがあった。
もうかる話なら聴くだけでも結構という流儀。その代り損卦そんけの相談には忽ちつんぼになって、トンチンカンの挨拶あいさつで誤魔化すという。これもしかし当時の商人気質あきゅうどかたぎを代表した人物であった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
着けたりといえどもさる友市ともいち生れた時は同じ乳呑児ちのみごなり太閤たいこうたると大盗たいとうたるとつんぼが聞かばおんかわるまじきも変るはちりの世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経あほだらぎょうもまたこれを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「わいらの手込みになるもんかね。わいらはこんなふうにあたしのお母もここで手込みにしくさつたのだらう、そしてその娘のあたしにもその手で對つて來ようとしやがる。川つんぼめ。」
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
こんな人間ばかりのゐる村で一生を暮すとすりやつんぼになりたいと勝は思ふがな。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わめき声や高笑ひやおしやべりで、鍛冶屋の耳はつんぼになつてしまひさうだつた。
クレヴィンはその子が盲目におしつんぼにうまれるようにと祈りながら弾いた。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
肥後の天草の犬飼さんがつんぼということも、やはりこの趣向の系統に属する。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
果ては人と人とが物を受け取ったり、物をったりしているのに、己はそれを余所よそに見て、おしつんぼのような心でいたのだ。己はついぞ可哀かわいらしい唇から誠の生命せいめいの酒をませてもらった事はない。
家の中は老人の師匠の外はこれも老人でつんぼの飯炊き爺がいるだけだった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
盲目でつんぼおしである彼女は、どんなにこの世の幸福から封じられねばならなかったでしょう。しかも忍耐努力して大概の書物は凸凹字に触れて読むことができるようになり聖書なども読みました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
嬢さまがたは庭に出て追羽子に余念なく、小僧どのはまだお使ひより帰らず、お針は二階にてしかもつんぼなれば子細なし、若旦那はと見ればお居間の炬燵に今ぞ夢の真最中まつただなか、拝みまする神さま仏さま
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
高声機にかかったジャズの騒音もいたるところ耳をつんぼにした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
のぶは少し声を張りあげ、(ばあさまのつんぼなる故か)
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
肥滿女ふとつちよ囘々フイフイ教徒きようと紅頭巾あかづきん、唖か、つんぼか、にべもなく
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ああ、世のつんぼの老博士、無言教の寡婦さん
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
あの音に出合ったら、お前達はつんぼになる。