“罠(わな)” の例文
佐吉親分は、投げ罠(わな)を死骸の首に掛けさせて見るやうな、隨分イヤな事をさせた上、いきなり私を縛ると言ひ出すぢやありませんか。
ピストルでも罠(わな)でも捕(と)ることの出来ないものです。眼に見えないその怪物に誘い出されて、みんなあの河へ吸い込まれてしまうのです。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「わたくしは国もとよりの上申書によって言上つかまつりまするので」内膳は巧みに頼胤のかける罠(わな)から身をはずしながらいった
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねてより設けられた罠(わな)に掛ったので、前にもいう通り船賃は請負であるから、もしも航路の日数が多くなれば、食料の点で損をする。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「ばかなことを言うな、いま連れ出せば罠(わな)の中へ首を突っ込むようなものだ、七日辛抱(しんぼう)しろ、そうすれば、やすやすと抜けられる」
すなわち罠(わな)を設けてイエスを陥れようとする悪意から出た問いでありました。問題となった離婚についてのモーセの律法の本文は
そしてすでに、あすあさってには、孟州に入ろうかという十字(じ)坡(は)の嶺道(みねみち)で、ついその酒の誘惑から、危ない罠(わな)にかかッてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして私は驚愕(きょうがく)、つまり拷問の罠(わな)に落ちこんで苦しむことが、この牢獄のいろいろな奇怪な死刑の重要な部分となっていることを知った。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
「われわれを罠(わな)に掛けようなどとは駄目(だめ)なことです。こんな薄っぺらなドアなどは、わたしの足で一度蹴ればすぐにこわれます」
それらの宿命的な人々のために、グレーヴの広場のある地点に、一つの宿命的な場所が、人をひきつける一つの中心が、一つの罠(わな)がある。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
それなら女性とはどういうものだと思っているのかと、シルヴァン・コーンは狡猾(こうかつ)に尋ねた。クリストフは罠(わな)を張られているのを感じた。
リリーの安否を確かめたいと願う一方、見す見す彼奴の罠(わな)に篏(は)まってたまるものかと云う反感が、それと同じくらい強かったのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後(のち)の面倒を慮(おも)って迂濶(うかつ)に手は出さんが、罠(わな)のと知りつつ、油鼠(あぶらねずみ)の側(そば)を去られん老狐(ふるぎつね)の如くに、遅疑しながらも、尚おお勢の身辺を廻って
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
脅(おど)かして名刺を見せましたけど、刑事とも何とも書いて無いんですの。偽刑事が人を罠(わな)に陥(おとしい)れようと云う悪企(わるだく)みなんですわ……
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
華族は、その圧迫を切り抜けようとして踠(あが)く。が、踠(あが)いたため、かえって成金の作っておいた罠(わな)に陥って、法律上の罪人になるという筋だった。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生きてもいるけれどもこれはみじめなやり方だ——誰でも兎を罠(わな)にかけ子羊を屠殺する者が思い知ることができるとおり。
「そう見せかけたのよ。でなくっちゃあ、けだものは罠(わな)にかからないからね。おれがこのうちの主(あるじ)だよ。おれのほかには猫(ねこ)の子一匹いないのさ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はむしろ自ら進んで(とわたしには見える)その罠(わな)に身をまかせた。長篇の第一作『假面の告白』を書いたのである。
熊城も検事も悲壮に緊張していて、罠(わな)の奥にうずくまっているかもしれない、異形(いぎょう)な超人の姿を想像しては息を窒(つ)めた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お村の清元を聴かせたいから、もう少しと云うので、又お村を引上げられ、又二晩置いて行くと、もう向うの様子が違って、企(たくみ)の罠(わな)に掛りました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その好む処には、君子も迷ふものと聞く、他(かれ)が好むものをもて、釣り出(いだ)して罠(わな)に落さんには、さのみ難きことにあらず
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
すぐに罪の罠(わな)にかかるは、そのために罰せられるはとくると、私はまったく神様の聡明そのものを疑うものであります。神様、私は疑惑家であります。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
もうここまで逃げて来れば、罠(わな)にかかる心配はありません。おまけに青あおした芝生には、幸いお嬢さんや坊ちゃんもボオル投げをして遊んでいます。
白 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この不幸をきっかけにして、土部三斎や、横山、浜川と言ったような、奸佞(かんねい)暴慾な武士たちは、だんだんに、雪之丞の計略の罠(わな)に陥ちてゆくであろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
たのしみにしていたその相手が、むざむざ卑怯な罠(わな)にかかって、焼け死んだと知った左膳の落胆、その悲しみ……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「さてそこだ、不思議なことがある」罠(わな)にでも落とそうとするのであろうか、兵馬はネチネチといって来たが
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小さなときから、大へん仲好(なかよ)しで、遊ぶにも魚をとるにも、また罠(わな)をかけに行くにも、いつも一しよでした。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
打つ掃木(ほうき)、それから掃木を焼く火、火を消す水、水を飲んで咽喉の渇くのを止める牝牛、牝牛をさす蠅、蠅をかつさらふ燕、その燕を捕へる罠(わな)、それから——
彼はいかにも悪い王様だけに、その若者がこうまでたやすく罠(わな)にかかったのを見て、ひどく喜んだのでした。
自分が遇(あ)つた女にはみなこの罠(わな)があつて危くてうつとりできなかつた。また、しやうばい女などはそれとはまるで違ふ種だが、やつぱりかならず持つて居る。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
旧神学に従えば、そこに一人の神があって、絶えず人間の堕落を監視し、又そこに一人の悪魔があって、間断なく人間誘惑の罠(わな)を張って居るというのである。
それこそね、あの、貴老(あなた)が遊ばす、お狂言の罠(わな)にかかるために、私の身体(からだ)を油でいためてでも差上げたいくらいに思うんですが……それはお察しなさいましよ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
懐には偶然捕縄(とりなは)があつた。それを出してほぐして、低い枝に足を蹈(ふ)み締(し)めて、高い枝に投げ掛けた。そして罠(わな)を作つて自分の頸(くび)に掛けて、低い枝から飛び降りた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あどけ無い頬(ほゝ)の薔薇(ばら)の花、末は變心(こゝろがはり)をしさうな少女(をとめ)、あどけ無い頬に無邪氣(むじやき)な紅(あか)い色をみせた薔薇(ばら)の花、ぱつちりした眼の罠(わな)をお張り、僞善(ぎぜん)の花よ、無言(むごん)の花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
寒雀(かんすずめ)と言って、この大寒の雀は、津軽の童児の人気者で、罠(わな)やら何やらさまざまの仕掛けをしてこの人気者をひっとらえては、塩焼きにして骨ごとたべるのである。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はさうしてゐる内にこの中の一人をどうにでもして引き取らねば済まないやうな恐ろしいある魔力の圧迫と切実な愛情の罠(わな)に引き堕されて了つたやうな気がする。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
次には「またその強き歩履(あゆみ)は狭(せば)まり、その計るところは自分を陥しいる、すなわちその足に逐(お)われて網に到り、また陥阱(おとしあな)の上を歩むに索(なわ)その踵(くびす)に纏(まつわ)り罠(わな)これを執(とら)う」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今度のことは自分をはめるための罠(わな)か、でなければばかばかしい茶番に違いないと確信している。
やれ嬉しやと思う間もなく、パッと上から罠(わな)が落ちた。左脇の下から右の肩上に掛ったと思うと、キュッと締められた。と早や一気に釣上げられた。身は宙にぶら下った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それをライオンと狐(きつね)にたとえ、「ライオンには罠(わな)の危険があるし、狐には狼(おおかみ)の危険がある。罠を発見するには狐でなければならず、狼を追払(おっぱら)うにはライオンでなければならぬ」
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
それは搾取者(さくしゆしや)のからくりの罠(わな)に自分から引つ懸かつた中間搾取者共の滑稽な悲劇であつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
こちらに罠(わな)をかけ、あちらに垣(かき)を結び、もって他を陥(おとしい)れんとする、手配り広き悪口もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ヤクの尾で拵(こしら)えたところの紐(ひも)で山間の草の生い繁って居るところに罠(わな)を拵えて置く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
村の人達は、網を張ったり、罠(わな)をこしらえたり、棒を持って待ち構(かま)えたり、いろんなことをしましたが、何の役にも立たないで、毎晩どの家かでごちそうをさらわれてばかりいました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この言葉のウラに含まれている恐るべく、憎むべき罠(わな)が見え透かない私じゃなかった。同時にその裏を掻(か)いて行こうとしている私の方針を考えて、思わず微笑したくなった私であった。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ところがこの贋物では、それよりただちにふたつのメダルを(強く押すべし)となっています。そのために、海賊王(かいぞくおう)デルマが万一の場合の用意につくっておいた、罠(わな)のなかにおちたのです
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
番人のいる唯一の小舎に罠(わな)でとった兎があり、その肉を持参のバタでいため、はこび上げてあったビールで流し込んだ時、リチャーズはこんなに贅沢な山小舎は世界じゅうにないと感激した。
飢えは最善のソースか (新字新仮名) / 石川欣一(著)
彼女は何か罠(わな)でも恐れるかのように注意深く私を見た。それを見て、私は
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すると彼等は、数日前仲間の一人が熊に殺されて喰われたので、大きな毒矢のある熊罠(わな)をしかけたから、私がそこを立ち去らぬと射られるかも知れぬと思って、警告を与えたのだと説明した。
苦しい努力も——苦悶もせず——絹の罠(わな)に陷り、それを隱した花の上に眠り、享樂の別莊の榮華の裡(うち)に南國に醒めて、今ロチスター氏の情婦となつて佛蘭西に住み、持つてゐる時間の半分は