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縹渺
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ひょうびょう
ふりがな文庫
“
縹渺
(
ひょうびょう
)” の例文
私の趣味から言へば、私は前掲の「心暖き夕」よりも「笑ひ声」の方が、
縹渺
(
ひょうびょう
)
としたメランコリイの波を流してゐて好きである。
谷丹三の静かな小説:――あはせて・人生は甘美であるといふ話――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
全体に
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした詩境であって、英国の詩人イエーツらが
狙
(
ねら
)
ったいわゆる「象徴」の詩境とも、どこか共通のものが感じられる。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
「——竹の孔からながれ出て天界へのぼってゆく尺八の音に乗せて、自分のたましいをも
縹渺
(
ひょうびょう
)
と宇宙に遊ばせるつもりで聴いていればよい」
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
四階へ来た時は
縹渺
(
ひょうびょう
)
として何事とも知らず嬉しかった。嬉しいというよりはどことなく妙であった。ここは屋根裏である。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と声を呑んだのでありましたが、今、さきに行くお豊の馬上の姿を見ると、そこに
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、また人の
香
(
にお
)
いのときめくを感ずるのであります。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
▼ もっと見る
讓の肉体は芳烈にして暖かな
呼吸
(
いき
)
のつまるような圧迫を感じて動くことができなかった。女の体に塗った香料は男の魂を
縹渺
(
ひょうびょう
)
の界へ
伴
(
つ
)
れて往った。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
聖林寺観音の左右には
大安寺
(
だいあんじ
)
の不空羂索観音や
楊柳観音
(
ようりゅうかんのん
)
が立っている。それと背中合わせにわが百済観音が、
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる雰囲気を漂わしてたたずむ。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
わずか数
浬
(
カイリ
)
の遠さに過ぎない水平線を見て、『空と海とのたゆたいに』などと言って
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした無限感を起こしてしまうなんぞはコロンブス以前だ。
海
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
縹渺
(
ひょうびょう
)
としたところがある。裾の辺が朦朧と
暈
(
ぼ
)
け、靄でも踏んでいるのだろうか? と思わせるようなところがある。
神秘昆虫館
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
庭の彼方の糸杉と
山毛欅
(
ぶな
)
と
桃金花
(
てんにんか
)
との森の彼方に隠れて、あたりには夕暗が
縹渺
(
ひょうびょう
)
と垂れ込めて、壁に設けられた燭台の上には灯が煙々と輝き
初
(
そ
)
めていたが
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
しかしこの光景を空中高き処と見て、雁も月も
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる大空の真中、しかも首を十分に
挙
(
あ
)
げて仰ぎ望むべき場合にありとすればこの比喩が適切でなくなる。
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
同じく北国の夏の夜明けの夢をみるのならば、もう少し
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした夢か、桁のはずれた夢を見たいものであるが、もって生れた本性は致し方ないようである。
八月三日の夢
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
ただ、テムズを越えてみえるバタッシー公園の新芽の色が、四月はじめの狭霧にけむり、
縹渺
(
ひょうびょう
)
として美しい。
人外魔境:10 地軸二万哩
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
温泉宿も一軒きり、古ぼけた二階家を青ペンキで塗ってある。
強
(
し
)
いて取り柄をいえば、
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる
響灘
(
ひびきなだ
)
を望む景色のよさと、魚の新しさくらいのものであろう。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
やがて
仄暗
(
ほのぐら
)
い夜の色が、
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした水のうえに
這
(
はい
)
ひろがって来た。そしてそこを離れる頃には、気分の
落著
(
おちつ
)
いて来たお島は、腰の方にまた
劇
(
はげ
)
しい
疼痛
(
とうつう
)
を感じた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
金堂も美術品保存の主旨から面目を新たにされているが、昔のような神秘
縹渺
(
ひょうびょう
)
の趣は無くなった。
冬の法隆寺詣で
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
烈々たる炎の
如
(
ごと
)
き感情の動くまゝに、その短生を、火花の如く散らし去った彼女の勝気な魂は、恐らく何の
悔
(
くい
)
をも
懐
(
いだ
)
くことなく
縹渺
(
ひょうびょう
)
として天外に飛び去ったことだろう。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
と
謂
(
い
)
い棄てつ、おもむろに歩を移して浜辺に到れば、
一碧
(
いっぺき
)
千里
烟帆
(
えんばん
)
山に映じて
縹渺
(
ひょうびょう
)
画
(
え
)
のごとし。
金時計
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
見わたすかぎり
縹渺
(
ひょうびょう
)
とかすむ田圃と森であった早稲田村は学校が創立されて数年経たぬうちに新市街となり、鶴巻町、山吹町というような町名がつぎつぎとあらわれてきた。
早稲田大学
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
「李広」と云う外国人の巻物「山水図」は大作で真に神韻
縹渺
(
ひょうびょう
)
と云う気が全幅に溢れていた。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
またはるかに——
縹渺
(
ひょうびょう
)
のかなたには海上としては高過ぎ、天空としては星の光とも見えぬ
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
蓋
(
けだ
)
し一たん
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる音楽の世界へ放たれて
揺蕩
(
ようとう
)
する彼のリアリズム精神は、再び地上に定着されるや、ほかならぬその形式のもとに安固たる不滅の像をむすんでいるからである。
チェーホフの短篇に就いて
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる大西洋は、けろりんかんとしていた。どこに海底地震があったという風だった。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
「いえ、
縹渺
(
ひょうびょう
)
とほんとに目に現れるのです。私は随分見ました。方々のよい噴水で」
噴水物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
人類生誕の劫初より
縹渺
(
ひょうびょう
)
と湧いて来るような淋しさだった。平一郎はその淋しさを噛みしめながら、天野の「妾宅」であり、冬子の「家」であるところで三日間を過ごしたのである。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
私は今年七十八歳になりましたが、心身とも非常に健康で絶えず山野を
跋渉
(
ばっしょう
)
し、時には雲に
聳
(
そび
)
ゆる高山へも登りますし、また
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる海島へも渡ります。そして何の疲労も感じません。
牧野富太郎自叙伝:02 第二部 混混録
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
いたずらに
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる美辞(?)を連ねるだけであるからせっかくの現実映画の現実性がことごとく抜けてしまって、ただおとぎ話の夢の国の光景のようなものになってしまうだけである。
映画雑感(Ⅳ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「
縹渺
(
ひょうびょう
)
」ここにおいて肉体は寸尺の活動の余地を有しないが、精神は天地宇宙の間にひょうびょうと流れゆくのだ。あと一分の不自由だ。肉の焼ける匂いがする。若い肉体の燃焼する快い匂いだ。
長崎の鐘
(新字新仮名)
/
永井隆
(著)
海
(
うみ
)
の
上
(
うえ
)
では、
波
(
なみ
)
があって、
波
(
なみ
)
はなぎさへおしよせて、
岩
(
いわ
)
にくだけ、しぶきは
玉
(
たま
)
のごとくとびちり、
遠
(
とお
)
い
水平線
(
すいへいせん
)
は、
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、けむるようにかすみ、
白
(
しろ
)
い
鳥
(
とり
)
が、
砂浜
(
すなはま
)
で
群
(
む
)
れをなしてあそんでいるのを
うずめられた鏡
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
これは外遊のみぎり北京で手に入れた八大山人の小品じゃが、
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる静寂、これを孤独というのかね、身にしみる魂の深いものがある。
不連続殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
広茫
(
こうぼう
)
たる一面の麦畑や、またその麦畑が、
上風
(
うわかぜ
)
に吹かれて
浪
(
なみ
)
のように動いている有様やが、詩の
縹渺
(
ひょうびょう
)
するイメージの影で浮き出して来る。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
いずれともつかない
頷
(
うなず
)
きを見せてはいるが、彼自身の意志は、そのあいだ
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、天外に遊んでいるのかもしれない。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
更に相模野を遠く雲煙
縹渺
(
ひょうびょう
)
の
間
(
かん
)
にながめる時には、海上
微
(
かす
)
かに江の島が黒く浮んでいるのを見ることができます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
晩年に至っては神仙味を加え、起居動作
縹渺
(
ひょうびょう
)
とし、
規矩
(
きく
)
人界を離れながら、尚乱れなかったということである。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そのうえ、ここはさまざまな屈折が氷のなかで
戯
(
たわむ
)
れて、青に、緑に、
橙色
(
オレンジ
)
に、黄に、それも万華鏡のような悪どさではなく、どこか、
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした、この世ならぬ和らぎ。
人外魔境:03 天母峰
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それでも、
縹渺
(
ひょうびょう
)
と
無辺際
(
むへんざい
)
に広がっている海を、未練にももう一度見直さずにはいられなかった。
俊寛
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
浴びて
馳駆
(
ちく
)
した人間かと疑われるほど、のどかな、むしろ
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる感じでした
石ころ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そしてまた、僕たちの乗っているロケットが
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる大宇宙の中にぽつんと浮んでいる心細さに胸を
衝
(
つ
)
かれた。なるほど、こんな光景を永い間眺めていたら、誰でも頭が変になるであろう。
宇宙尖兵
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
韻と律と腕を組んでいるようで、野も
縹渺
(
ひょうびょう
)
なれば、山も縹渺である。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
何物にも慰まなかつた小さな心が、
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした海の単調へ溶けるやうに同化してしまふのを感じて、爽やかな眩暈を覚えた。
小さな部屋
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうした初夏の野道に、遠く点々とした行路の人の姿を見るのは、とりわけ心の旅愁を呼びおこして、何かの
縹渺
(
ひょうびょう
)
たるあこがれを感じさせる。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
ところで、孔明という人格を、あらゆる角度から観ると、一体、どこに彼の真があるのか、あまり
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、ちょっと捕捉できないものがある。
三国志:12 篇外余録
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
所々
(
しょしょ
)
に
遅桜
(
おそざくら
)
が咲き残り、
山懐
(
やまぶところ
)
の段々畑に、菜の花が黄色く、夏の近づいたのを示して、日に日に潮が青味を帯びてくる相模灘が
縹渺
(
ひょうびょう
)
と霞んで、白雲に
紛
(
まぎ
)
れぬ濃い煙を吐く大島が
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした心持にされていたのが不思議です。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
翌朝目覚めた蒲原氏は、明るい太陽の光の下では、昨夜の
縹渺
(
ひょうびょう
)
と流れた心を殆んど朦朧としか思ひだすことができなかつた。
逃げたい心
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
まして、はるかな歴史のかなたのこととなっては、
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、分からないというのが本当なところである。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼のイデヤは詩的であり、情味の深い影を帯びた、神韻
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる音楽である。これに反してアリストテレスは、気質的の学者であって、古代に於ける典型的の学究である。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
何物にも
慰
(
なぐさ
)
まなかった小さな心が、
縹渺
(
ひょうびょう
)
とした海の単調へ溶けるように同化してしまうのを感じて、
爽
(
さわ
)
やかな
眩暈
(
めまい
)
を覚えた。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
壮図
(
そうと
)
むなしく
曹丕
(
そうひ
)
が引き揚げてから数日の後、
淮河
(
わいが
)
一帯をながめると
縹渺
(
ひょうびょう
)
として見渡すかぎりのものは、焼け野原となった両岸の
芦萱
(
あしかや
)
と、燃え沈んだ巨船や小艇の残骸と
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしながらこのイデヤの中には、概念の定義的に明白している、
極
(
きわ
)
めて抽象的な
観念
(
イデヤ
)
もあるし、反対に概念の
殆
(
ほとん
)
ど言明されないような、或る
縹渺
(
ひょうびょう
)
たる象徴的、具象的な
観念
(
イデヤ
)
もある。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
“縹渺”の意味
《形容動詞》
対象がかすかではっきりしないさま。
見渡すかぎり広々しているさま。
(出典:Wiktionary)
縹
漢検1級
部首:⽷
17画
渺
漢検1級
部首:⽔
12画
“縹渺”で始まる語句
縹渺性
縹渺有趣