碌々ろく/\)” の例文
生徒も心を沈着おちつけて碌々ろく/\勉強することが出来ないといふ風だ。でも此節はいくらか慣れて、斯の混雑の中で、講義を続けることが出来る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
初対面の挨拶あいさつの時、わたしの義理の子ともならう筈の若者は、いかにもムツツリと構へてゐて、ひと通りの礼儀としての挨拶も碌々ろく/\せぬのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
忠太は、お定に言つたと同じ樣な事を、繰返してお八重にも語つたが、お八重は返事も碌々ろく/\せず、ふくれた顏をしてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひととなれ』とは先生せんせい訓言くんげんでした。ひと碌々ろく/\としてぬべきでない、ちからかぎりつくして、英雄えいゆう豪傑がうけつとなるを本懷ほんくわいとせよとは其倫理そのりんりでした。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かまはんで置くと、好い気にるだア。此奴の為めに、村中大騒を遣つて、夜も碌々ろく/\寝られねえに、酒をくらはせて、勝手な事を言はせて置くつて言ふ法はえだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
友「有難うございます、恐入おそれいります、お茶も碌々ろく/\差上げませんで、明後日は相違なく夕方までに持参いたします、へえ/\有難うございます、左様ならお帰り遊ばせ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くしやりとくびつたなりうちかへつて、そのよるをつとかほさへ碌々ろく/\見上みあげなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ある日のひる過ぎ、いつものやうに慌てて入つて来た。心安立こゝろやすだて碌々ろく/\挨拶もしないで、膝を進めたと思ふと、其処そこに居合はせた娘の伯父の手を取つた。伯父は密源といつて頭をまるめた僧侶ばうさんであつた。
ふものは、碌々ろく/\貝塚かひづか發掘はつくつしてもせずに、たゞちに地中ちちう秘密ひみつつたふりをして、僅少きんせうなる遺物ゐぶつ材料ざいれうに、堂々だう/\たる大議論だいぎろんならべ、うして自個じこ學説がくせつてるのにきふひといでもい。
十二月大晦日おほつごもりに持行けるが四郎右衞門其日は殊の外勘定に取込居とりこみをり三郎兵衞の來りても碌々ろく/\挨拶あいさつもせず帳合ちやうあひ爲居なしゐたりし所へ三郎兵衞右の金百兩を返濟しければ其儘そのまゝ硯筥すゞりばこの上に置て下女に申付さけさかな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何方どなたがお出でになってもお逢いにはなりません、種々いろ/\な名を附けてお出でになります、碌々ろく/\知らんものでも馴々なれ/\しく私は書家でございます、拙筆せっぴつを御覧に入れたいと
何か思出したやうに嘆息して、『近頃の人物を数へると、いづれも年少気鋭の士ですね。我輩なぞは斯の年齢としに成つても、未だ碌々ろく/\として居るやうな訳で、考へて見れば実に御恥しい。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それはほかでもない。ちゝあにが、近来目につ様に、いそがしさうに奔走し始めて、此四五日は碌々ろく/\るひまもない位だと云ふ報知である。全体何がはじまつたんですと、代助は平気なかほで聞いて見た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その根本ねもと(青年の名は根本行輔かうすけと言ふので)の家柄は村では左程重きを置かれて居ないので、今でこそ村第一の富豪かねもちなどと威張つて居るが、親父の代までは人が碌々ろく/\交際もない程の貧しい身分で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
碌々ろく/\耳にも入ず適々たま/\の御無心と云殊には母のことなれば何樣どのやうにも都合して上度あげたきは山々なれども當暮たうくれは未だ掛先かけさきより少も拂ひが集まらず其外そのほか不都合だらけにてとんと金子は手廻り兼ればお氣の毒ながら御ことわり申ます勿々なか/\私し風情ふぜいの身にて人の合力がふりよくなど致す程の器量きりやうはなし外々ほか/\にて御都合成れよと取付端もなきへん答にお菊は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文「やい最前から是ほど申しても分らぬか、いかに言葉が碌々ろく/\通ぜずとも、あれ程手を合わして頼んだじゃないか、いよ/\かずば打殺うちころすぞ、さアうだ、これでもか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝ。我輩の生涯しやうがいなぞは実に碌々ろく/\たるものだ。』と敬之進は更に嘆息した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「本当に因つてしまふですア、夜も碌々ろく/\寝られないのですから」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ひくふして頼けるに三郎兵衞は碌々ろく/\耳にも入ず合力は一向なり申さず勿論もちろんむかしは借用致したれども夫は殘らず返濟したりすれば何も申分有べからずとの返答に四郎右衞門成程なるほど其金は受取たれども仕舞しまひの百兩は大晦日おほみそかの事にてちやうへは付ながら金は見え申さず不思議の事と思へども最早もはやそれむかしの事我等が厄落やくおとしと存じ思切てすましたり夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
重「先達さきだっては御恵おめぐみを受け、碌々ろく/\お礼も申上げやせんでしたが、今日は少々急ぎますから」
またかみに置かせられてもお聞き及びの通り御病中ゆえ、碌々ろく/\お訪ね申さんが、予の病気より梅の御殿の方が案じられると折々おり/\仰せられます、今日こんにちは御病気伺いとして御名代ごみょうだいまかり出ました
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)