畢竟ひっきょう)” の例文
京都見物の人が土産話の種とすると同様、日常常識として結構であるかもしれぬが畢竟ひっきょうは絵で見た景色と同様で本当の知識ではない。
畢竟ひっきょう、俗物連中は、現在の世界と死後の世界とは、その事情同一なるように考えておるから、かかる誤りたる論を立つるに相違ない。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
畢竟ひっきょう女を苦しめた国はいわゆる因果応報で、そういう国の衰えるのは決して偶然でないということになる。これが我輩の持論である。
女子教育の目的 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ソクラテスは嫣然えんぜん笑って、「さらば罪あって死ぬのは残念でないのか。死ぬる死なぬは畢竟ひっきょう第二義のことだ。心の鍛錬が第一義だ。」
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それも畢竟ひっきょうお由の死に方がはっきりしねえからの事で、確かに蝮に咬まれたのかどうだか、医者にもよく見立てが付かねえようですよ
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを気象が立つというのである。おのずから生の華やぎが作品の表に見えて来ねばならない。それがないのは畢竟ひっきょう飢えた詩である。
うれしかった事も、悲しかった事も、悲しんだ事も、苦しんだ事も、畢竟ひっきょうは水の上に浮いたあわがまたはじけて水に帰るようなものだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かつて「篠深く」の句に興味を感じ、今またこの柿の蔕を取上げたのも、畢竟ひっきょうこの少年の時の事が土台になっているのかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
畢竟ひっきょう、何物にとらわれて、日々新たなる心境を喪失してしまっている証拠で、芸術上の生命は根本的に奪われているといわねばならない。
これからお話ししようとする「新案探偵法」なるものも、畢竟ひっきょう彼のこのプラクチカルの頭脳から割り出されたものなのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
他人の幸福といふのは畢竟ひっきょう自分の両親が承認した男を幸福にして自分の愛した男を不幸にしてやれといふ意に他ならないのである。
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
どんな複雑な趣向で、どんなまとまった道行を作ろうとも畢竟ひっきょうは、雑然たる進水式、紛然たる御花見と異なるところはないじゃないか。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
畢竟ひっきょう子を学校に入るる者の内心を探りてその真実を丸出しにすれば、自分にて子供を教育しこれに注意するは面倒なりというに過ぎず。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「自分を頼み切って居るのに、籠の鳥を殺すようなむごいことは出来ない。天下をとるのは運命であって、畢竟ひっきょう人力の及ぶ所でない」
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
左へ曲るも右へ曲るも畢竟ひっきょう、月の引力を受けていたのだ。故意か偶然か、宇宙艇はついに火星へ飛ぶべき進路をさまたげられてしまった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どう言う破綻はたんを生じますか? 『色や形は正に美しい。が、畢竟ひっきょうそれだけだ』——これでは少しも桜の花をけなしたことにはなりません。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
漣が硯友社の凋落ちょうらくした後までも依然として一方の雄を称しておるは畢竟ひっきょう早くから硯友社埒外らちがいの地歩を開拓するに努めていたからだ。
静子は一生懸命に身をもがいた。然しそれは畢竟ひっきょう猫に捕えられた鼠の悲しい無駄な努力だった。浅田はジリ/\と彼女を羽交締めにした。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
野狐禅やこぜん的に悟り顔をすることで、自ら得意としているのだからたまらない、畢竟ひっきょう彼等は、自然主義の精神をきちがえているのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
晩年近く、全く時代の中枢ちゅうすうを離れ、寂寥せきりょうの日々を送られたという帝は、畢竟ひっきょう生涯を大伽藍のために燃焼しつくし給うたのであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
自分じぶん運命うんめいかんがえましたけれど、わかりませんでした。そして、そんなことをかんがえることの、畢竟ひっきょうむだだということをったのです。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
過去の生活の精算をするというのが主要なことであって、その精算書を作るや否やは畢竟ひっきょう従属的な、いわば方便上のことである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
斯様かような考は、畢竟ひっきょう私が山にのみ拘泥していて、高原を考えるにも山から離れて観察することを知らないからだと非難されても一言もない。
高原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
されば推古天皇の国書に、隋を指して日没処ひいるところとあることは、畢竟ひっきょう古来の伝統によるクレの名を、別の文字を以て表わしたものに他ならぬ。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
畢竟ひっきょう貴族が己れの都合によっては、下級の者と伍することをいとわぬのは、一見平民主義から来ている現象のごとくではあるが
其後、茂吉は長い万葉調の論を書いた。畢竟ひっきょう其主張は、以前の、気魄強さに力点を置いたのから、転化して来たことを明らかにしている。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
もし藝術が自然の模倣、現象の再現であるとしたら、経験の世界から最もかけ離れて居る音楽は、畢竟ひっきょう藝術でなくなる訳である。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今日意志が自由であると思うているのは、畢竟ひっきょう未だ科学の発達が幼稚であって、一々この原因を説明することができぬ故である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかし畢竟ひっきょうするに、吾人ごじんはくり返して言うが、本戦争のラッパは亀裂のはいった音をしか出さなかった。その全体は曖昧模糊あいまいもことしていた。
マイナイソースや外のソースを一々拵らえるのは大層面倒のようにいう人がありますけれども畢竟ひっきょうれないから面倒に思うので
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
恋は畢竟ひっきょうするにそのちまたつじ彷徨ほうこうする者だけに、かたらしめておいてもよいような、小さなまた簡単な問題ではなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
洋学の知識というものも、畢竟ひっきょうずるに、金を儲けるか儲けないかのために必要なので、それ以外には、てんであの女の頭にない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日のたつうちに、この怪しい子供の身の上が次第にわかって来ました、と言うのは、畢竟ひっきょう私が気をつけて見たり聞いたりしたからでしょう。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それまでのすべての気強さは——畢竟ひっきょう、それはいつかは男に逢えると思っての上での気強さであった。——女はもう以前の女ではなかった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
畢竟ひっきょう両者おのおの理あり、各非理ひりありて、争鬩そうげいすなわち起り、各じょうなく、各真情ありて、戦闘則ち生ぜるもの、今に於てたれく其の是非を判せんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前将軍の早世も畢竟ひっきょうこの人あるがためだとして、慶喜を目するに家茂のかたきであると思うやからは幕府内に少なくないばかりでなく
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おもうに人類とともに旧き霊魂不滅説なども畢竟ひっきょう耳にかそけく、目にも見分かぬ雨の類であろうか。エクート・シル・プルー!
雨の日 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
だから、未来にどうなってゆくかが予知せられないというのは、畢竟ひっきょう、如何に意志してゆくようになるかが予知せられないということである。
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
畢竟ひっきょうそれは小泉氏が真正のヒガンザクラであるべき正統品をヨー認識せずして前にはこれをコヒガンザクラと称えて見たり
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
畢竟ひっきょう、これはみな大塔ノ宮の背後力によるものと人は察した。高氏もそう解した。直義ただよし、師直らは、うすら笑って、歯牙しがにもかけぬ風だった。
句のしも畢竟ひっきょう、作者の心にあるのであります。作者の心が奥床おくゆかしい心であれば自然に奥床しく映じ、奥床しく諷詠するようになります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
畢竟ひっきょう地方分権に基礎をおく幕府的統一——水戸派尊攘の提唱はその主観いかんにかかわらず、新たな革命的内容を転生しなければならなかった。
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
アンセルムスは、るい概念を実在であると見る立場に基づいて、三位さんみ畢竟ひっきょう一体の神であるという正統派の信仰を擁護した。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
実現してのあたり見た上でない以上やはり内心不安であり、空虚である。畢竟ひっきょうだれにでもある単なるうぬぼれ、架空の幻影ではないかと疑う。
現代立法の不備——なんじが頭痛を覚えたのは、畢竟ひっきょうわれ等が、あまりに多量の力を用い、しかもそれが、あまりに急激に行われたことに基因する。
又思うと畢竟ひっきょう秀子の心が清いから打ち明けたのだ、堅く自分の潔白を信じ、縦し疑われても危険はないと全く安心をして居るのだ、イヤ本来が
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
物を隠すというのも畢竟ひっきょう主従しゅうじゅうというへだてがあって、己は旦那様と云われる身分だから、手前の方でも己を主人と思えば、軽卒けいそつの取扱いも出来ず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かかる事をいう人は畢竟ひっきょう「美」を知らぬ人で画家ではなく、うまく行って日本画具使用法改良研究者に属する人である。
天才とは畢竟ひっきょう創造力の意にほかならぬ。世界の歴史はようするに、この自主創造の猛烈な個人的慾望の、変化極りなき消長を語るものであるのだ。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
畢竟ひっきょう「能」は吾人の日常生活のエッセンスである。すべての生きた芸術、技術、修養の行き止まりである。洗練された生命の表現そのものである。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)