滑稽こっけい)” の例文
そこで、私が最初に言いたいことは、特に日本の古典には、Cに該当がいとうする勝れた滑稽こっけい文学が存外多く残されている、このことである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
猫の幽霊という言葉がひどく滑稽こっけいに思われたのである。だが丁度、その時皆の坐っている椅子の前へ、いつもの黒猫が現われて来た。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
王さまの資格がないんだ。山羊の王さまなんて、僕には滑稽こっけいで仕方が無い。でも、叔父さんは、油断がならん。見抜いていやがった。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
私にはそれがどうも滑稽こっけいで今まではカ氏の口から、国王陛下マハラージャ太子殿下ラジクマールが出てくると、眼の前に坐っている黒い氏の顔から想像して
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
内面の羞耻と、外面の堂々さと、———此の矛盾を抱いた子供が肩を怒らして武張ぶばって立っている様子は、幾分滑稽こっけいだったであろう。
そして自分のいらだちを少しも隠し得なかった。ことにユダヤ人らの滑稽こっけいな点には、彼らをよく知ってるだけになおさら敏感だった。
夫人は大きな音を立てて尻餅しりもちをついたのだ。京子の左手を握ったまま。非常に滑稽こっけいな図であった。それ故に一層物凄く恐ろしかった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おれの位置はいま滑稽こっけいちゅうぶらりんを描いているが、しかし秋夜の大気をこうしてひとりめしてみたのは悪い気持でもないと思う。
私が小田原で兄さんに同じ話を繰返したのは、それから何年目になりますか、話は同じ話でも、もう滑稽こっけいのためではなかったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれを読むと自分は妙に滑稽こっけいを感じる。絶体絶命の苦悶くもんでついに自殺を思うまでに立ち至る記事が何ゆえにおかしいのか不思議である。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうしてそういう漠とした杞憂きゆうのために、面倒な引越しや書物の置き換えなどをすることが、なんとなく滑稽こっけいに思えたからである。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
外国人等がしばしば日本の人は農民までが勇敢である、忠誠であると批評するのは、吾々の目から観れば滑稽こっけい千万なることである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
医師はちょっと滑稽こっけいに感じて、癲癇てんかんといっても、軽兆候が見える程度のものだから、そんなに用心する必要はないと言い残して帰った。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
藁人形も、念入に粗末なもので、手際の悪さは、まさに滑稽こっけいに近いものですが、その中から平次は、フト、妙なものを発見したのです。
我我は処女を妻とする為にどの位妻の選択に滑稽こっけいなる失敗を重ねて来たか、もうそろそろ処女崇拝には背中を向けても好い時分である。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
声を縮めるようにしてかしこまって話す男に、時方は宮への御遠慮で返辞もよくすることができず心で滑稽こっけいのことだと思っていた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
突き放され、突き放され、またのたりつく有様は他目よそめには滑稽こっけいでもあるけれども、その当人は名状し難い苦しみにもがいているのです。
いわんや姉と妻は、セグリ出て来る涙を隠すべく、慌てて洗面所へ逃げ込んだと言うのだから、滑稽こっけいを通り越して何の事だかわからない。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、万やむをえざる場合には、土人形六個を棺桶かんおけの中に入れて葬式すれば、友を引かぬと信ぜられておる。実に滑稽こっけい的迷信である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
後に枳園の自ら選んだ寿蔵碑じゅぞうひには「有故失禄」と書してあるが、その故は何かというと、実に悲惨でもあり、また滑稽こっけいでもあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
厳粛なる支那日本の古典よりその意匠を借来かりきたりてこれをきわめて卑俗なるものに応用する時はここおのずか滑稽こっけい機智の妙を感ぜしむべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「まあ、今後いっそうのご成功をお祈りする、とでも申しましょうか。だが、なんですね、あなた方の職務も実に滑稽こっけいなもんですね!」
士族と断わってあるのが変に滑稽こっけいに思われたり、学校への奉職という字が急に憎々しくなったりした。田舎のことがちらと頭をかすめた。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
毎度このモデル問題では大真面目おおまじめでありながら滑稽こっけいに近い話などがいて、家のものなども大笑いをしたことが度々たびたびありました。
ある言葉、たとえば rabouin のごときは、滑稽こっけいであると共にまた恐ろしいもので、巨人の渋面を見るがような感を起こさせる。
思いがけないような滑稽こっけいがこの老翁の優しい口もとから飛び出す。郷里に盆踊りでもある晩は、にわか芸づくし拝見と出かける。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だのに、人間にんげん死体したいのことではなくて、んだ金魚きんぎょのことをきにいつたから、いかにもそれは滑稽こっけいかんじがしたのであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
ところが規則はそれほどまでに厳重なものではないということが後で判り、また今迄のを取消して仕事を始めたりなど、実に滑稽こっけいであった。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
その恰好は話にも絵にもならない。滑稽こっけいと悲惨とが隣り合わせにんでいたことにはじめて気がつくような異常な光景だった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だから皆さんが勝手なあて推量ずいりょうなぞをしているのが少しはしゃくにさわったけれども、滑稽こっけいに見えてしかたがなかったんですのよ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
武田信玄が曾我五郎の生れ代りなどとは余り作意が奇抜でむし滑稽こっけいだが、宋の蘇東坡そとうばは戒禅師の生れ代り、明の王陽明は入定僧にゅうじょうそうの生れ代り
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だがこの洒々落々しゃしゃらくらくとした禅の坊さまと、自分の母とはいえ、一人のおんなとを結びつけて考えるのは、滑稽こっけいなようにも思えた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と。かかる滑稽こっけいな事を聞いた私は我知らず吹き出して大いに笑いましたが、かの主僧はその大笑におかしな顔をして居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いずれも皆な暢気のんきそうに、無駄口を叩いて歩く様子が、滑稽こっけいでもあれば凄くもあり、鳥羽僧正の百鬼夜行図が動き出したような有様である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ともかく、滑稽こっけいだった。勿論おれはそんな請求には応じなかった。黙って放って置くと、それきりお前はうんともすんとも言って来なかった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
珍客ちんかくに驚きて、お通はあれと身を退きしが、事の余りに滑稽こっけいなるにぞ、老婆も叱言こごといういとまなく、同時に吻々ほほと吹き出しける。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
... 持って来てくれたそうだ。随分滑稽こっけいさね。大原君だって別段に悪い点もないがにしろあの大食では恐れる」小山「大食だけがあの男のきずだ。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そして互いに相手をよく知っていても、知らない人としてつきあっていなきゃならんとしたらずいぶん滑稽こっけいなもんだろうね
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
清君は、一晩ぐっすり寝たので、もうすっかりつかれがなくなっている。ただ服がないので、艦長のだぶだぶの大きな軍服を着ているのが、滑稽こっけいだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「ところが、それがね、しょってしまったって、一さいの事ではないのですよ。滑稽こっけいなことにはおばさんの棺桶かんおけをしょってしまったんでさあね。」
この男が歩きながら始終滑稽こっけいを言ッていたので、途中は少しも退屈せず、いつの間にか境駅のこちらの渡し場まで来た。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
それが千恵にはもちろん満足でもあり、と同時にHさんの人の好い気負きおつた様子が、なんだか少し滑稽こっけいでもありました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そうした丸万の姿がいかにも悲壮なようで、滑稽こっけいに見えた。喜劇的で、しかも惨めに感じられた。まるで道化みたいだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
但し、滑稽こっけいなことに、初めは戦争どころか、両軍の将士が相擁してカヴァを酌みかわし、盛んな交驩こうかんが行われたらしい。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
陸軍省でその新聞社の所在地をかれても、御本人はハッキリと答えることが出来ないと云うような滑稽こっけいもありました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今にもまんずるはいの断えず口もとにさまよえるとは、いうべからざる愛嬌あいきょう滑稽こっけい嗜味しみをば著しく描きいだしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
父はげらげらわらっていた、母もわらっていた、伯父さんが憤慨すればするほど女中達や店の者共に滑稽こっけいに聞こえた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ぼうぼうとらないままにのびたひげ、うすぎたないシャツと半ズボンで立っている姿があたりの景色にそぐわない、ひどく滑稽こっけいなものに見えたので
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
遊人などをちかづけていた母親の過去を見せられて来た房吉の目には、彼女の苦しみが、滑稽こっけいにも莫迦々々ばかばかしくも見えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
イギリス国民が得意とする滑稽こっけいのうちで、彼らがもっとも長じているのは、ものごとを漫画化したり、道化た名称やあだ名をつけたりすることである。