かわき)” の例文
そうしてそのつど人に知れないように、そっと含嗽の水を幾分かずつ胃の中に飲み下して、やっとりつくようなかわきまぎらしていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼斯く我等にいへり、しかしてかわき劇しければ飮むの喜び亦從ひて大いなるごとく、彼の言は我にいひがたき滿足を與へき 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
日光のかわき……楽しい朝露……思わず嬉しさのあまりに、白い足袋跣足たびはだしで草の中を飛び廻った。三吉がくれた巻煙草まきたばこも一息に吸い尽した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は昨日から非常なかわきをおぼえ、どんな悪水でも一滴得られたらと、それこそ、渇くような思いで地上の清洌せいれつな流れを瞼に思い浮かべた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
空気が湿っていて純粋な「かわき」を感じないために、余裕のできた舌の感覚が特別繊細になっているためかもしれないと思われる。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いくらかわきを覚えても、氷塊を破って馬に喰わせるわけには行かない。支那人は一回、銅片一文を取って馬に水を飲ませるのだ。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
少しく体を前へかがめると、飜筋斗もんどり打って転げちるであろう。う思うと、飲料のみものを用意していない彼はいよいかわきを覚えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
疲れた旅人はここに会して芸術鑑賞という共同の泉からかわきをいやすことができた。茶の湯は、茶、花卉かき、絵画等を主題に仕組まれた即興劇であった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
彼のかわきはますます激しく、くるしみはますますその度を高めるのみである。十六億あまりの人類のうち吾が胸を聴いてくれる人はなきかと彼は歎声を吐いた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
そこには情熱のかわきがあり、遠く音楽のようにきこえてくる、或る倫理感への陶酔がある。しかり、詩は人間性の命令者で、情慾の底に燃えているヒューマニチイだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
キット思付いた、イヤ憶出おもいいだした事が有る。今初まッた事では無いが、先刻から酔醒めの気味で咽喉のどが渇く。水を飲めばかわきまるが、シカシ水は台所より外には無い。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さればにや氷売る店など涼しげによろずを取りなして都めかしたるもあり。とある店に入り、氷にのんどかわきいやして、この氷いずくより来るぞと問えば、荒川にて作るなりという。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこには必ず彼の求むる水があると思った。しかるにいよいよ近づきて彼らの態度を見、またその語に接するや期待は全然裏切られて、わがかわきいやすべき水は一滴も見当らないのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
弓杖ゆんづゑ炎天えんてんいはほいて、たまなす清水しみづをほとばしらせて、かわきあへぐ一ぐんすくつたとふのは、けだ名将めいしやうことだから、いま所謂いはゆる軍事衛生ぐんじゑいせい心得こゝろえて、悪水あくすゐきんじた反対はんたい意味いみ相違さうゐない。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
目のかわきは口の渇を忘れさせる。女は酒を飲まないのである。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かわきをとめぬ鹽海しほうみの水にも似たり。ひとむきに
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
流轉るてんさうばうぜむと、心のかわきいとせち
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ときくちは『楽欲げうよく』のかわきこがれ、しんざう
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
されどこは汝のことばによりてわれらの知識の増さん爲ならず、汝がかわきを告ぐるにれ、人をして汝に飮ますをえしめん爲なり。 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
れた町々の屋根はわずかに白い。雪は彼女の足許あしもとへも来て溶けた。この快感は、湯気で蒸された眼ばかりでなく、彼女の肌膚はだかわきをもいやした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何か狭い器に監禁せられて、ただわずかのたまり水によって、命の衰え行くのを警告する狂わんばかりのかわきを止めているのもお前の運命なのかもしれぬ。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
目前の敵をたおし得た忠一は、ずほッと一息くと共に、にわかかわきを覚えたので、顔に浴びたる血の飛沫しぶきぬぐいもあえず、軒の外へひらりと駈け出して、吹溜ふきだまりの雪を手一杯にすくって飲んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
流転るてんそうぼうぜむと、心のかわきいとせち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かわきはやまず、うしほのみ、——
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
楽欲げうよくかわきたちまち
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こはほかの凡てのあぢはひにまさる、我またさらに汝に教ふることをせずとも、汝のかわきはや全くやみたるならむ、されど 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それが沈着おちついて、すこしウトウトしたかと思うと、今度はまた激しいかわきの為に、枕元にある金盥かなだらいの水までも飲もうとした。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
せんずるところ人間享楽の茶碗ちゃわんは、いかにも狭いものではないか、いかにも早く涙であふれるではないか、無辺を求むるかわきのとまらぬあまり、一息に飲みほされるではないか。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
我はすでに新しきかわきに責められたれば、そともだせるもうちに曰ふ。恐らくは問ふこと多きに過ぎて我彼をわづらはすならむ。 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
己が壜子とくりの酒を與へて汝のかわきをとゞむることをせざる者は、その自由ならざること、海にそゝがざる水に等し 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われらは天上の君達と圓を一にし、𢌞轉めぐりを一にし、かわきを一にしてまはる、汝かつて世にて彼等にいひけらく 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ギリシアの者曰ふ、汝はまた舌を燒くそのかわきと腹を目の前のまがきとなすその腐水くさりみづのために苦しめ 一二一—一二三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)