気質きしつ)” の例文
旧字:氣質
同時に長吉ちやうきち芝居道しばゐだう這入はいらうといふ希望のぞみもまたわるいとは思はれない。一寸いつすんの虫にも五分ごぶたましひで、人にはそれ/″\の気質きしつがある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
こうしたのがいわゆる露西亜気質きしつというものかと私は感嘆した。全く何と好きな国民だろうと。彼女の中にもイワンの莫迦ばかは光っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いくさがあっても貧相でなく、新鋳しんちゅう小判こばんがザラザラ町にあらわれ、はでで、厳粛げんしゅくで、陽気で、活動する人気にんきは秀吉の気質きしつどおりだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、いいだしたうえは、なんでもそのことをとお主人しゅじん気質きしつをよくっていましたので、かれは、きゅう返事へんじをせずに思案しあんをしていました。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしたちはずいぶん性質せいしつがちがっていた。たぶんそれでかえってしょうが合うのかもしれなかった。かれはやさしい、明るい気質きしつを持っていた。
彼の言葉は咄嗟とっさあいだにいつか僕の忘れていた彼の職業を思い出させた。僕はいつも彼のことをただ芸術的な気質きしつを持った僕等の一人ひとりに考えていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ドノバンはいわゆるアマノジャクで、そのごうまんな米国ふうの気質きしつから、いつも富士男を圧迫あっぱくして自分が連盟の大将たいしょうになろうとするくせがある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
小娘のくせに、よくやったものだと感心した。学校の処置は親切であったに相違そういないが、博雄の消極的な気質きしつが、ここへ追いこんだものと思った。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
が、どつちかとへば、愛嬌あいけうもある、く、趣味しゆみわたし莫迦ばかにするほどでもない。これ長所とりゑ面白味おもしろみもないが、気質きしつ如何いかにもまる出来できてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
光子さんは、涙をこぼして、それをきいていましたが、話しているうちに、ふたりは、顔ばかりでなく、気質きしつまで、よくにていることが、わかってきました。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いったん言い出したらあとへは戻らない主人の気質きしつを呑み込んでいるので、治六もあきらめて階下したへ降りた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
アンドレイ、エヒミチはれい気質きしつで、それでもとはね、ついにまた嫌々いやいやながらワルシャワにもった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
見ているようなのね、……そういう気質きしつはあぶなくってよ、気をおつけにならないと、本当にあぶないわ
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以前は気質きしつの相違であつたが、今は信仰しんかうまでが斯うちがつたので、和上は益々奥方が面白く無い。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ただすこし頭の調子ちょうしが人なみでないから、どうもこれまで一かしょに長くいられなかったが、ご主人しゅじんのほうで、すこしその気質きしつをのみこんでいて使ってくだされば、それはそれはりっぱな乳しぼりだ
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
世間せけんからては、病的びやうてき頭脳づのう狂人きちがひじみた気質きしつひともないことはなかつた。竹村自身たけむらじしんにしたところで、このてんでは、あま自信じしんのもてるはうではなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
はじめから気質きしつはない家族かぞくとの折合をりあひふにしたがつて円滑ゑんくわつにはかなくなり、なにかにつけておたがひかほあからめ言葉ことばあらくするやうなこと毎日まいにちのやうになつてたので
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その反対にかの女のちえはなみはずれた程度ていど発達はったつした。かの女はなんでもわかるらしかった。でもそのあいらしくって、活発でやさしい気質きしつが、うちじゅうの者にかれていた。
どういうものかわたしは、このいけなかんでいるかわずと気質きしつわないので、つねにくるしめられますけれども、なんといっても、かわずのほうがわたしよりつようございます。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども妹の気質きしつを思えば、一旦篤介を愛し出したが最後、どのくらい情熱に燃えているかはたいてい想像出来るような気がした。辰子は物故ぶっこした父のように、何ごとにも一図いちずになる気質だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
陰気いんきあねは、少時しばしいもうとのことをわすれることができなかった。たとえ気質きしつちがっていても、そして、こうしているところすら、別々べつべつであっても、いもうとのことをわすれることができなかった。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「僕はそんなに単純じゃない。詩人、画家、批評家、新聞記者、……まだある。息子むすこ、兄、独身者どくしんもの愛蘭土アイルランド人、……それから気質きしつ上のロマン主義者、人生観上の現実主義者、政治上の共産主義者……」
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
親切な礼儀れいぎ正しい人は、やはり気質きしつのいい犬を飼っている
「なるほど、おまえの気質きしつではそうでもあろうか。いままで、わたしどもが、なんにでもおまえをさせるものとかんがえていたのがまちがっていた。おまえのきなみちを、おまえはゆくがいい。」
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)