気性きしょう)” の例文
旧字:氣性
白雲は沈黙してしまいましたが、しかし物はわからないながら、この女の気性きしょうには、たしかに面白いところがあると思いましたから
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日頃我儘わがまま気性きしょうの彼女だったが、弟を殺された一郎に同情したものか、快くこのろうをとって支配人の承諾を得させたのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むしろそのあまりに強情かたくな性質せいしつ……一たんうとおもえばあくまでそれをとうそうとする、我侭わがまま気性きしょうめであったようにおもわれました。
お重という女は議論でもやり出すとまるで自分を同輩のように見る、くせだか、親しみだか、猛烈な気性きしょうだか、稚気ちきだかがあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がんらいドノバンはいかなるばあいにおいても、自分が第一人者になろうという、アメリカ人特有のごうまんな気性きしょうがある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
景蔵らの目にはさながら剣を抜いて敵王の衣を刺し貫いたという唐土とうど予譲よじょうおもわせるようなはげしい水戸人の気性きしょうがその紙の上におどっていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京ばかりではない、姫路ひめじ下向げこうすれば姫路の町が秀吉になり、安土あづちへゆけば安土の町がそッくり秀吉の気性きしょうをうつす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平「気性きしょうな奴だ、心配いたすな、かたきの知れた其の時は、此の飯島が助太刀すけだちをして敵を屹度きっと討たせてやるから、心丈夫に身をいとい、随分大切に奉公をしろ」
気性きしょうが単純で、むかっ腹がつよくて、かなり不良で、やせぎすで、背が高くて、しじゅう蒼み走った顔をしていて、すこしどもりで、女なんどはなもひっかけないで
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
書生として使いくれよとの重井の頼みいなみがたく、先ずそのむねを承諾して、さて何故にかかる変性男子へんしょうだんしの真似をなすにやとなじりたるに、貴女あなたは男の如き気性きしょうなりと聞く
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そうすると、例のご気性きしょうの皇后は、たちまちじりじりなすって、せっかくそこまで持っておかえりになった御綱柏みつながしわの葉を、すっかり海へ投げすてておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「りっぱなお気性きしょうですわ。」と王女はいいました。その晩、町じゅうあかりがついて、ドーン、ドーン、とお祝の大砲がなりひびきました。それから兵隊はささつつしました。
その当時のことで、仕事の前にこれだけのことをするはその人の気性きしょうにもよりますが、製作を要求した同氏の心持が察せられますので、私も充分に力を入れようと思ったことであった。
少し陰気過ぎる気性きしょうであったのが、特徴といえばいいる位でありました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つきは、太陽たいようとはまったく気性きしょうがちがっています。そして、万物ばんぶつ運命うんめいをつかさどるちからは、いまこそ太陽たいようのようになくても、むかしは、えらかったものだそうです。そのことをつきかっておはなしなさい。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「どうせもう着る事なんかなかろうとは思うんですが」といって逡巡ためらった彼女は、こんな事に案外やかましい夫の気性きしょうをよく知っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつしかわたくしのことをにもたぐいなき烈婦れっぷ……気性きしょう武芸ぶげい人並ひとなみすぐれた女丈夫じょじょうぶででもあるようにはやてたらしいのでございます。
人としての彼は「エスイタ教徒の愛嬌あいきょうと、ストイック派の樸直ぼくちょくと、直進的な気性きしょう」とを持っていたと言わるるが
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんの薩摩の陪臣ばいしんが、という気性きしょうはドコかに持って生れているはずだから、この際神尾として、西郷如きを眼中に置かぬという風采ふうさいも、ありそうなことです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
オンドリ氏を始めトロ族の委員たちは、会談が始まると、急にはげしい気性きしょうを表に出して、これまでのかずかずの惨害さんがい事件をならべあげて、海底都市側の責任をただした。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天皇はそれ以来、小碓命おうすのみことのきついあらいご気性きしょうおそろしくおぼしめして、どうかしてそれとなく命をおそばから遠ざけようとお考えになりました。それでまもなく命をして
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
江戸ッ児の中でも下谷ッ児の気性きしょうが、あの瞬間ムラッと胸にこみ上げて来て、言わば無意識のうちに、気がついた時は、かの女はもうああした思い切った行動をとっていたのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いったい、明智どのの重くるしい勿体もったい振りが、日頃から上様のお気性きしょうにはちくちくと御不興を刺戟するのです。それがたまたま、御酒宴の中であらわに爆発したというに過ぎません。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
投げの事件があってから、ドノバンの富士男に対する態度たいどは目だって変わってきた。富士男は日本人の気性きしょうとしてあっさりと水に流したのだったが、倣岸ごうがんのドノバンは、心をひらこうとはしない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
平生つつかくしているお延の利かない気性きしょうが、しだいに鋒鋩ほうぼうあらわして来た。おとなしい継子はそのたびに少しずつあと退さがった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うめせいよりかもはるかに威厳いげんがあり、何所どこやらどっしりと、きかぬ気性きしょうそなえているようでございました。
米友の気性きしょうからいえば、道理と実力が許す限り、他人が七十二貫のものをかつげば、自分もそれをやれないとは言わない男ですが、単に、たれそれが材木をかついだから
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これほど敵を攻撃することにかけては身命をもしてかかるような気性きしょうの人たちが、もしその正反対を江戸にある藩主の側にも、郷里なる水戸城の内にも見いだしたとしたら。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日頃から気性きしょうのおもしろい武士なので、常にはよく冗談などもいえたのだが、今夜は恐ろしい姿に見えて、新七は皮膚もそそけ立っている顔つきだった。ある覚悟をすら肚にすえていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ、ぼくは自分の重大な責任をのがれようとした、信頼されたら水火すいかをもせないのが、日本人の気性きしょうだ、困難こんなんがかさなればかさなるほど、それにたえて打ち破ってゆかなければならないのだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
父は例の気性きしょうだから、呵々からからと笑いながら、「それも御土産おみやげの一部分です、どうか一緒に受取っておいて下さい」と云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ご幼時からのご気性きしょう。ましてそれまでのお覚悟とあれば、御意ぎょい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなら魂魄こんぱくだけは御傍おそばへ行って、もう一遍御目にかかりますと云った時に、亭主は軍人で磊落らいらく気性きしょうだから笑いながら、よろしい、いつでも来なさい
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私の気性きしょうとして、そんな恩知らずのまねはできませぬ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和歌の浦行に母がすぐ賛成したのも、実は彼女が兄の気性きしょうをよく呑み込んでいるからだろうと自分は思った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただあの女子気性きしょう一つが、心配ものじゃ。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お延の細い眼から憎悪ぞうおの光が射した。女だと思って馬鹿にするなという気性きしょうがありありと瞳子ひとみうちに宿った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は軍人の妻君さいくんというものはみんなこんなものかと思って感服しました。感服もしたが、驚きもしました。この気性きしょうでどこがさむしいのだろうと疑いもしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の気性きしょうをよく知った私はついに何ともいう事ができなかったのです。その上私から見ると、彼は前にも述べた通り、多少神経衰弱にかかっていたように思われたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そう、あなたは、何でも始から、けなしておしまいなさるから、よくないんです。いくら教育が違うからって、気性きしょうが合わないからって、血を分けた兄弟じゃありませんか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれは気性きしょうの問題ではありませんから、私の内生活に取ってほとんど関係のないのと一般でした。奥さんはまた女だけにそれを私の全体にし広げて、同じ言葉を応用しようとつとめるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)