うち)” の例文
旧字:
紺屋こうやじゃあねえから明後日あさってとはわせねえよ。うち妓衆おいらんたちから三ちょうばかり来てるはずだ、もうとっくに出来てるだろう、大急ぎだ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百歳はその晩、警察で制服を和服に着換へて女のうちに行った。女達は暴風雨の来る前の不安で、何かしら慌だしい気分になって居た。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
四、五人の禿新造に取り巻かれて、奥のとあるうちから今しがた出て来た兜町らしい男を見ると、伝二郎は素早く逃げ出そうとした。
机の抽斗ひきだしを開けてみると、学校のノートらしいものは一つもなかった。その代りに手帳に吉原のうちの名や娼妓しょうぎの名が列記されてあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
店へも出られないので流し元を働いておりましたが子供の時分から此のうちにおりますので、馴染なじんでは居るし、人情ですから駈出して来て
うちのものも皆注意しぬいていたんだがな、ナニその男は商売も何もありゃあしないんだ、先に牛乳配達なんかした事のある男だって話だが……
「私たちは今そこで偶然富井さんに行きあったのです。そしてずいぶんそこらのうちたずねたのです。」とフェレラはいった。
「二三度一座なすつたでせう。あのうちではお職株しよくかぶですの。もう本気になつて、松田さん松田さんつて、しよつちうのろけちらして居るんです。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
私しゃ花魁買いということを知ッたのは、お前さんとこが始めてなんだ。私しは他のうちの味は知らない。遊び納めもまたお前さんのとこなんだ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
不図ふと自分の部屋の障子がスーといて、廊下から遊女おいらんが一人入って来た、見ると自分の敵娼あいかたでもなく、またこのうちの者でも、ついぞ見た事のない女なのだ。
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「あ、因業いんごう佐野喜の親爺おやじか、この春の火事で、女を三人も焼き殺したうちだ。下手人げしゅにんが多すぎて困るんだろう」
茜染あかねぞめの暖簾や、紋を染めぬいた浅黄の暖簾などもある。或るうちの暖簾には、鈴がついて、客が割って入ると、すずを聞いて、遊女たちが、窓格子まで寄って来た。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
様子を聞いていると、どうやらこのうち直接談判じかだんぱんをして、この一隊が登楼しようとする。店ではなんとか言葉を設けて、それを謝絶しようとしているものらしく聞えます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでも此方こちどものつむりの上らぬはあの物の御威光、さりとは欲しや、廓内なかの大きいうちにも大分の貸付があるらしう聞きましたと、大路に立ちて二三人の女房よその財産たからを数へぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
心中があったうちの前には、所轄署の巡査が立っていたので、すぐそれと分かりました。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うちへ帰ってからその主人は、三月みつきほどわずらいました。わずらったなり死んでしまいました。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
或るうちへ遊びに行ったら、正太夫という人が度々遊びに来る、今晩も来ていますというゆえ、その正太夫という人を是非見せてくれと頼んで、廊下鳶ろうかとんびをして障子のすきからそっのぞいて見たら
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
うちか、楼は、ええと笹屋だ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その金銭だけは持って行ってやらなければと考へて、その月の俸給を貰った晩、彼はそっと一人で、その女の居るうちに行った。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
お庄は叔母から、叔父の上るうちまで行って突き留めなければ駄目だと言われたことをおもい出して、しばらく押し問答していた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その抱え主のうちでは、死者の借金が無になるばかりでなく、連想を忌んで、当分その家へ遊びにゆくものがなくなり、ぱったり客足が絶えてしまうので、一家の浮沈
その日も一挺紛失さ、しかしそりゃ浮舟さんのうちのじゃあねえ、確か喜怒川きぬがわの緑さんのだ、どこへどう間違ってくのだか知れねえけれども、いやじゃあねえか、恐しい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さア。貴様はおとなしくうちへ帰れ。な。親方は心配してら。大事な玉がげちやつたつて。」
「初めて来たと仰っしゃいましたが、今、はいったうちの遊女の中で、先生の姿を見ると、声を出して屏風びょうぶの陰へ、顔をかくした女があった。もう泥を吐いておしまいなせえ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜もなまけものの癖として品川へ素見ひやかしにまいり、元より恵比寿講をいたす気であるうちあがりましたは宵の口、散々さんざぱら遊んでグッスリ遣るとあの火事騒ぎ、宿中しゅくじゅうかなえくような塩梅しき
そのうちは、この通りに立ち並んでいる粗末な二階家の一つでした。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
冷遇ふッて冷遇て冷遇ふり抜いている客がすぐ前のうちあがッても、他の花魁に見立て替えをされても、冷遇ふッていれば結局けッく喜ぶべきであるのに、外聞の意地ばかりでなく、真心しんしん修羅しゅらもやすのは遊女の常情つねである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
始終遊びつけた家では、相手の女が二月も以前にそこを出て、根岸ねぎしの方に世帯を持っていた。笹村はがらんとしたそのうち段梯子だんばしごを踏むのがものうげであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おい、奥間巡査、その妹を参考人として訊問の必要があるから、君、そのうちへ行って同行して来給へ。」
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
「さア。貴様はおとなしくうちへ帰れ。な。親方は心配してら。大事な玉がにげちゃったって。」
けれども、うちなり、場所柄なり、……余り綺麗なので、初手は物凄ものすごかったのでございます。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで安直みせと来ていますから滅法な流行りかた、このうち小主水こもんどと呼ばれて全盛な娼妓がある、生れはなんでも京阪けいはん地方だと申すことで、お客を大切だいじにするが一つのよびものになっています。
「ここのうちに、宮本武蔵様が来てるだろ。武蔵様は、おいらのお師匠さまだから、城太郎が来たっていえば分るんだけれど、取次いでくれないか。それでなければ、ここへ呼んでくれないか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕府の時分旗本であった人のむすめで、とあるうちに身を沈めたのが、この近所に長屋を持たせくるわ近くへ引取って、病身な母親と、長煩いで腰の立たぬ父親とを貢いでいるのがあった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでもその当座、あずけてあった氷屋の神さんに、二度ばかりあのうちへつれて来てもらったことがあったよ。私も一度行きましたよ。もちろん母親だなんてことは、おくびにも出しゃしなかったの。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あんなうちに、泊れるか。……おい、もういちど、角屋へ行ってみよう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泥々に酔って二階へ押上って、つい蹌踉よろけなりに梯子段はしごだんの欄干へつかまると、ぐらぐらします。屋台根こそぎ波を打って、下土間へ真逆まっさかに落ちようとしました……と云ったうちで。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
抱え主は十八、九になる子息むすこと年上の醜い内儀さんとを置去りにして、二人で相当なあきないに取り着けるほどの金をさらって、女をつれて逃げて来た。そのころにはそのうちも大分左前になっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「これで、あそこのうち内緒ないしよも、知れたもんだ……」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぱっとしちゃあ、お客にまで気を悪くさせるから伏せてはあろうが、お前さんだ、今日は剃刀をつかわねえことを知っていそうなもんだと思うが、うちでも気がつかねえでいるのかしら。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも持って来いという意気づくりだけれども、この門札かどふだは、さるたぐいの者の看板ではない、とみというのは方違いの北のくるわ、京町とやらのさるうちに、博多はかたの男帯をうしろから廻して、前で挟んで
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折から洲崎のどのうちぞ、二階よりか三階よりか、海へさっと打込む太鼓。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)