書物ほん)” の例文
「あ、忘れていた。あの……いつか持って来て貸して上げたお父様の書物ほんを、いちど戻して貰わないと、私が困ることがあるんですよ」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尤もあの男の事だから、書物ほんといつたつてたんと読んでゐる訳でもあるまいが、源平盛衰記と太平記とだけはが悉皆すつかり暗記してゐる。
よいお考えでございますこと、大方おおかたその通りでございましょう。ではその壁の。……その書棚の……書棚の中の書物ほんのどこかに、唐寺の謎を
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「フム学問々々とお言いだけれども、立身出世すればこそ学問だ。居所いど立所たちど迷惑まごつくようじゃア、ちっとばかし書物ほんが読めたッてねっから難有味ありがたみがない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ヘエ……先生はソンナ書物ほんの事をお聞きにならない。ヘエ。そうですか。著者の名前はたしかデュッコ・シュレーカーと読むんだろうと思いましたがね。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日来て見ると、Kさんの書卓デスクの上に、ついぞ見なれぬ褐色のきたない三六版ほどの厚い書物ほんが載っていた。
聖書 (新字新仮名) / 生田春月(著)
その間音なしく此処で書物ほんを見ているようにと言付けられたから、乃公は従順すなおに書物を読み始めた。空は青い。日はく照っている。家にいるのは勿体ない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このうまりしが大將たいしやう説明はなせば、雀躍こをどりしてよろこび、ぼく成長おほきくならば素晴すばらしき大將たいしやうり、ぞくなどはなんでもなくち、そして此樣このやう書物ほんかれるひとりて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
秋の日は銀杏の葉を通して、部屋の内へ射しこんで居たので、変色した壁紙、掛けてある軸、床の間に置並べた書物ほんと雑誌のたぐひまで、すべて黄に反射して見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
故に未だ存在しないことをも、既に存在したものとして語る。彼に取ては未来は即ち現在だ。彼は書物ほんも読まない。新聞も読まない。只だ一心に「人」ばかり考えて居る。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし、ジョンが、書物ほんをひつ掴んで、投げつけやうとするのを見ると、本能的に恐怖の叫びを上げて身をかはした。が、もう遲かつた。書物ほんは飛んで、私に打ちあたつた。
あいちやんは、『もなければ會話はなしもない書物ほんなんやくつだらうか?』とおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「とても惡いのよ。——朝つから書物ほんに喰ひ付いて、ろくに口も利きやしません」
それからといふもの聖母ははや書物ほんの中の聖母でしかなかつた
従妹いとこ書物ほんなんか教えている婦人が来て立っていました。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、余り紙の値段が昂つて、成るべく皆に読ませたい、読ませなければならぬ筈の書物ほんまでが、出せなくなるのは困つたものだ。
寝台のそばに卓があり、その上に書物ほんが載せてある。羊皮紙で作った厚い書物で、表紙には漢文字で「明智篇」と記されてある。
「おまえは、きょうはどうかしているんでしょう。また機嫌のよい時に話しますから、書物ほんだけ戻して貰いますよ」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
龍華寺の坊さまにいぢめられんは心外と、これより學校へ通ふ事おもしろからず、我まゝの本性あなどられしが口惜しさに、石筆を折り墨をすて、書物ほん十露盤そろばんも入らぬ物にして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「どうでした、吾家うちの蔵には三吉の見るような書物ほんが有りましたか」とお種が聞いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どういう間違で先生が机の中の南京豆や林檎を見付けないとも限らぬ。此んな事に心を配るから書物ほんを見る時間が少くて困る。けれども寄宿舎に較べればんなにいか知れない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あいちやんは、ねえさんとどてうへにもすわつかれ、そのうへることはなし、所在しよざいなさにれず、再三さいさんねえさんのんでる書物ほんのぞいてましたが、もなければ會話はなしもありませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
手つ取早く言つたら、博士の今のうち書物ほんを入れる為めに借りたうちで、博士自身や家族達はやつ室借まがりをしてゐるに過ぎない有様だ。
「はてな」と呟くと紋太夫はまず寝台へ腰を下ろし、それから書物ほんを取り上げた。書かれてあるのは漢文であった。
龍華寺の坊さまにいぢめられんは心外と、これより学校へ通ふ事おもしろからず、我ままの本性あなどられしが口惜しさに、石筆せきひつを折り墨をすて、書物ほん十露盤そろばんも入らぬ物にして
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人間にんげん望遠鏡ばうゑんきやうのやうになに規則きそく書物ほんでもありはしないかと。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
森久保氏は一度読んだ書物ほんなら滅多に忘れない。何枚の何行目にどんな文句があるといふ事まで、ちやんとそらんじてゐる。
これがきわめて簡単な、銅銭会の縁起であって、今日に至るまでの紆余曲折が詳しく書物ほんには記されてあった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
龍華寺りうげじぼうさまにいぢめられんは心外しんぐわいと、これより學校がくかうかよことおもしろからず、わがまゝの本性ほんせうあなどられしが口惜くやしさに、石筆せきひつすみをすて、書物ほん十露盤そろばんらぬものにして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これではとても遣切やりきれないといふので資本もとでの手薄な書肆ほんやはつい出版を絶念あきらめて了ふ。お蔭で下らない書物ほんが影を隠して世の中が至極暢気のんきになつた。
いろいろの書物ほんを読んでくれたよ。間々あいだあいだ間々には越中めが、世間話をしてくれたっけ。わしはすっかり吃驚びっくりしてしまった。ひどく浮世はセチ辛いそうだな。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人の知らるべき事は百人に、百人に知らるべき事は萬人の目の前に顯はして、不出來も失敗しつぱいも功名も手柄も、對手あいて多數おほくに取りて晴れの塲所にて爲すぞよき、衆人ひとの讀むべき書物ほんをよみ
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
薄暗い書庫のなかには、色々な書物ほんがさつと一度に猫のやうな金色な眼を光らせて、この昵懇なじみの薄いお客を見つめた。
帙入ちついれ書物ほんに記されてあった、『くぐつ、てんせい、しとう、きようだ』……この謎語の意味解ってござる! 人形の眼を指の先で、強く打てという意味なのでござる。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私の書物ほんを出版したい?」徳富氏はこの頃髭を剃り落したばかりのあごを撫でながら、子供のやうなくりくりした顔をして言つた。「何故ですか。」
「おれはうんと書物ほんを読んだよ。実際浮世にはいい書物ほんがあるなあ。はじめておれは眼が覚めたよ。さてこれからは改革だ。政治の改革、社会の改革、暮しいい浮世にしなければならない」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その博士や土方にまじつて毎朝大学の構内を通る十歳とをばかりの子供がある。子供に似気にげなくいつも歩きながらも書物ほんを読んでゐるので、よくそれを見掛みかける男が
「支那の昔の賢人の逸話を書き集めた書物ほんと見える。昔の人は利口であった。……老婆の話しの聖典とは恐らくこの書物のことであろう。この書物をさえ手に入れればここに止どまる必要はない」
中橋氏は実業家(氏は今ではもう政治家の積りかも知れない、ちやう水蠆やご塩辛蜻蛉しほからとんぼになつたやうに)には珍しく書物ほんを読むが、狸にしても文字をよく知つてゐるのがある。
……妾だって京都は大好きなのだよ。ね、帰って行きましょう。そうしておちついた邸に住んで、お前さんは好きなご書物ほんを読んで、みやびやかな公卿方のお邸へ参ってご講義などをなさるがよいよ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蔦屋ここへ来て何より嬉しいのは自由に書物ほんが読まれることだ」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)