手巾ハンケチ)” の例文
男でも日曜は新しい青いワイシャツの胸に真白な手巾ハンケチのぞかせている。教会は彼らにとって誠に楽しい倶楽部クラブ、ないし演芸場である。
手巾ハンケチが落ちました、)と知らせたそうでありますが、くだん土器殿かわらけどのも、えさ振舞ふるまう気で、いきな後姿を見送っていたものと見えますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さい手巾ハンケチとか、婦人用の襟飾、絹のブラウズと云うようなものは、皆、家で洗い、それが、乾くまで、必要な箇所を訪問します。
男女交際より家庭生活へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その顔を隠した人は、手巾ハンケチで傷を結えながら、あべこべに赤帽にあやまって——その間も、神戸行の急行に目を離さなかったんですって
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「いくら然るべき事情があったって、ちょいと国府津こうづまで行くだけなら、何も手巾ハンケチまで振らなくったって好さそうなもんじゃないか。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白い砂埃が濛濛としてゐるのと、いろいろの物から混成された一種の臭気とが、手巾ハンケチで顔を掩うて私達の早足に去る事を促した。
路が横堀に出ると、爺さんは後に手を伸ばして手巾ハンケチの包を取り上げるなり、堀の水を目がけてぽいとそれを投げおろしました。
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
手を引くときに、自分でカフスの奥を腕までのぞいて見る。やがて背広せびろ表隠袋おもてかくしから、真白な手巾ハンケチつまみ出して丁寧に指頭ゆびさきの油を拭き取った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
数番の舞踏済みて、ひたひに加ふる白手巾ハンケチ、胸のあたりにひらめく扇、出でゝラムネを飲むあれば、彼方此方と巡廻へめぐりて、次の番組の相手を求むあり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
愚図々している場合でないので、悲壮な決心をして立ち上り、ズボンに手を突込んで手巾ハンケチを出そうとした拍子に、ぱらりと落ちた紙片があった。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
手巾ハンケチで覆面をした労働者風の背の高い男に襲われて、この時は、奪われるものを奪われた丈けで生命には別条なかった。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
季吉さんはあの日の風邪はとうに治りましたよと、新しい手巾ハンケチで口元を拭かれた。この前のときの手巾も真白であった。
私は恐ろしさに、きびすを返して逃げ出そうとしたが、その時彼女は顔をあげて、私の方を見ながら別に驚いた様子もなく、手巾ハンケチで口を拭って言った。
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたくしはおろおろ声で、「そうばかりでもないんだけれど、今度の場合は」と言って、なおも手巾ハンケチを眼に運んでいた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と無口な學士にしては、滅多と無い叮嚀な説明をして、ガチヤン、肉叉フオークナイフを皿の上に投出し、カナキンの手巾ハンケチあわただしく口のまはりを拭くのであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「いいわねそんなこと……私は叔父さんにまた拵えてもらうから。」お庄は日焼けのしたような顔を手巾ハンケチで拭いた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
千代子は小さい薬瓶を手巾ハンケチに包んでそれに大槻の描いた水彩画であろう半紙を巻いたものをげている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
それから手巾ハンケチで鼻をかんだ。それから手提かばんの中を何か音させていたが、しまいにそれを閉じた。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
富江が不平を言ひ出して、三人に更めて附けようと騷いだが、それは信吾がなだめた。そして富江は遂に消さなかつた。森川は上衣のボタンをかけて、乾いた手巾ハンケチで顏を拭いた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お葉は汚れた手を手巾ハンケチで拭いて、天風の飲みさしのビールを飲んだ。そこへ婢が入って来た。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
アメリア嬢は眼の赤くなるほど、手巾ハンケチでこすると、黙って姉のいる部屋から出て行きました。
岸でも船でも長い間互ひに手巾ハンケチを振つてゐたが、それもいつか遠く小さくなつて行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
はげしくゆすりうごかし、靜にせずば打擲ちやうちやくせむ、といひしが、急に手巾ハンケチを引き出して、我腕を縛りて、しかと其端を取り、さて俯してあまたゝび我に接吻し、かはゆき子なり、そちも聖母に願へ
実枝はさう云ひながら平たい石の腰かけを手巾ハンケチではたいた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
失った妻子のことをいう指先が手巾ハンケチをさぐってふるえていた
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
旅客は洋杖ステッキを持った手を拡げて、案外、とみまもったが、露に濡れたら清めてやろう、と心で支度をするていに、片手を衣兜かくしに、手巾ハンケチを。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとそこへ通りかかったのは髪の長い詩人のトックです。トックは僕らの顔を見ると、腹の袋から手巾ハンケチを出し、何度も額をぬぐいました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
佐伯博士は、立って、安楽椅子の上に楽々と掛けた形になって居る、小粟桂三郎の死体の顔から、手巾ハンケチを取って見せました。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
答のない口元が結んだまましゃくんで、見るうちにまた二雫ふたしずく落ちた。宗近君は親譲の背広せびろ隠袋かくしから、くちゃくちゃの手巾ハンケチをするりと出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母親の優しい小さい目にも、一時に涙がき立った。そして何にも言わずに、手巾ハンケチで面をおさえた。お庄も傍で目をうるませながら、くすぐッたいような気がした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この時、留守にして居た色眼鏡の人が手巾ハンケチで手を拭き拭き帰って来て、車掌の姿を見るなり怪訝けげんな顔をして立ちどまった。車掌は早くもその人の足に眼を注ぎ
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたくしは逸作のこんなに泣いたのを見るのは始めてだった。わたくしはそでから手巾ハンケチを出してやりながら
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
婦人はやがて腰をかがめて、取り出した手巾ハンケチのなかに小さな黒猫の死骸を包みました。そしてそばに立つて不思議さうにそれに見とれてゐる三、四人の子供たちに呼びかけました。
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
思いなしか千代子は小走りに急ぐ、「高谷さん!」と呼ぶと、こんどは中壇に立ち止って私の方を向いたが、怪訝けげんな顔をして口もとを手巾ハンケチでおおいながら、鮮やかな眉根をちょいとひそめている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
鞄の隅には小さな箱があり、その中に小さな手巾ハンケチが一ダース入っていました。
また暫らくして、リグレイ印のチュウイング・ガムの包み紙一枚と、男持ちの血染めの手巾ハンケチが、附近の残雪にまみれて発見された。ハンケチは、白地に青い線で縁取った大版の、木綿の安物だった。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
医看徽章の白羽箭しろいはねを後ろにはねた制帽と、白衣に白い靴にいたるまで凡て白ずくめの彼女らは、唯一つの装飾である手巾ハンケチだけが胸のポケットにたたまれ、うすい藍や、うすい黄色を見せているだけで
女教師はあわてて首をすくめて、手巾ハンケチで口を抑へた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手水鉢ちょうずばちで、おおいの下を、柄杓ひしゃくさぐりながら、しずくを払うと、さきへ手をきよめて、べにの口にくわえつつ待った、手巾ハンケチ真中まんなかをお絹が貸す……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが今朝けさ、宿直室の寝台ベッドの上で、クロロホルム臭い手巾ハンケチを顔へ当てられて、死んだまぐろのようになって眠りこけて居たんだ。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それと共に、頭の中の大井の姿は、いよいよその振っている手巾ハンケチから、濃厚に若い女性のにおいを放散せずにはすまさなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええ好いのを一人周旋しましょう」と小野さんは、手巾ハンケチを出して、薄い口髭くちひげをちょっとでる。かすかなにおいがぷんとする。強いのは下品だと云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親たちが横浜の叔父の方へ引き寄せられて、そこで襯衣シャツ手巾ハンケチショールのような物を商うことになってから、東京にはお庄の帰って行くところもなくなった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は一時ぼんやりしたように立って居たが、やがて気を取りなおしてとりあえず、ポケットから手巾ハンケチを取り出して、傷口を繃帯ほうたいし、びっこをひき乍ら家に帰った。
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
婦人は強ひて気を落ちつけようとして、たもとから手巾ハンケチを取り出して鼻先の汗を拭きました。
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
アアミンガアドは丸々とした背を向けて、手巾ハンケチおもてをかくしました。
盆の上の代物しろものに私は手巾ハンケチをかぶせて視界から遠ざけた。
お信たちのいうのでは、玉子色の絹の手巾ハンケチで顔を隠した、その手巾が、もう附着くッついていて離れないんですって。……帯をしめるのにも。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「焼け焦のある手巾ハンケチなどは、持って居なかったでしょう、——あの通り直ぐ警官が来て、部屋も身体からだしらべたが——」
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おい、君はまだ覚えているだろう、僕があの七時の急行の窓で、女の見送り人に手巾ハンケチを振っていた事があるのを。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)