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手垢
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てあか
ふりがな文庫
“
手垢
(
てあか
)” の例文
旅の暇には、彼は
提
(
たずさ
)
えている書物に読み耽るらしく、
手垢
(
てあか
)
で黒くなった四五冊のむずかしい書物が、いつも彼の
座右
(
ざう
)
にあるのでした。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
すると籠屋は煙管を
措
(
お
)
き、茶を一杯ぐっと傾けて、さて、表座敷の神棚から一冊の
手垢
(
てあか
)
に汚れた和本を下ろして来て、無雑作にたずねはじめた。
錦紗
(新字新仮名)
/
犬田卯
(著)
二月ほど前に彼の売った
手垢
(
てあか
)
だらけの「ツアラトストラ」だった。彼は店先きに
佇
(
たたず
)
んだまま、この古い「ツアラトストラ」を所どころ読み返した。
大導寺信輔の半生:――或精神的風景画――
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
幾多の人の血あぶらに飽き剣鬼の
手垢
(
てあか
)
に赤銅のひかりを増した利刀乾雲丸が、今宵からは若年の剣士諏訪栄三郎のかいなに
破邪
(
はじゃ
)
のつるぎと変じて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
もつとも悪性の伝染病の心配だけはまづ無いはずですけれど、
頁
(
ページ
)
のまくれあがつた
手垢
(
てあか
)
だらけの娯楽雑誌なんか、手にとるより先に
虫酸
(
むしず
)
が走ります。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
▼ もっと見る
それを小舟のように
漕
(
こ
)
いで、そうして、胸のところへ、首から、
手垢
(
てあか
)
で汚れた
厚紙
(
ぼうるがみ
)
の広告をぶら下げて、日がな一日、毎日毎日このマカラム街を中心に
ヤトラカン・サミ博士の椅子
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
やがて、かたりと書物を置き
易
(
か
)
える音がする。甲野さんは
手垢
(
てあか
)
の着いた、例の日記帳を取り出して、
誌
(
つ
)
け始める。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
私は、やはり、人生をドラマと
見做
(
みな
)
していた。いや、ドラマを人生と見做していた。もう今は、誰の役にも立たぬ。唯一のHにも、他人の
手垢
(
てあか
)
が附いていた。
東京八景:(苦難の或人に贈る)
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
僕の乗った舟を漕いでいる四十
恰好
(
がっこう
)
の船頭は、
手垢
(
てあか
)
によごれた
根附
(
ねつけ
)
の
牙彫
(
げぼり
)
のような顔に、極めて
真面目
(
まじめ
)
な表情を見せて、器械的に手足を動かして
艣
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
っている。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
ついでながら、切り立ての鋏穴の縁辺は
截然
(
せつぜん
)
として
角立
(
かどだ
)
っているが、
揉
(
も
)
んで拡がった穴の周囲は
毛端立
(
けばだ
)
ってぼやけあるいは捲くれて、多少の
手垢
(
てあか
)
や
脂汗
(
あぶらあせ
)
に汚れている。
雑記(Ⅰ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
老管理者は
途
(
みち
)
で金物屋に寄つて、
金槌
(
かなづち
)
を一
挺
(
ちやう
)
買つて帰つた。そして
図書庫
(
としよぐら
)
に入ると、
手垢
(
てあか
)
と
塵埃
(
ほこり
)
とに
塗
(
まみ
)
れた書物を一冊づつ取り出しては、いやといふ程叩きつけたものだ。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
教授の手にある講義のノートに
手垢
(
てあか
)
が
溜
(
た
)
まるというのは名誉なことじゃない。クラーク、クラークとこの学校の創立者の名を
咒文
(
じゅもん
)
のように
称
(
とな
)
えるのが名誉なことじゃない。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
空々寂々
(
くうくうじゃくじゃく
)
チンプンカンの講釈を
聞
(
きい
)
て、その中で古く
手垢
(
てあか
)
の
附
(
つい
)
てる
奴
(
やつ
)
が塾長だ。こんな奴等が二千年来
垢染
(
あかじ
)
みた
傷寒
(
しょうかん
)
論を土産にして、国に
帰
(
かえっ
)
て人を殺すとは恐ろしいじゃないか。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
さうした私を
僅
(
わづ
)
かに慰めてくれたのはその地下室の将棋倶楽部で、料金は一時間五銭、盤も駒も
手垢
(
てあか
)
と脂で
黝
(
くろず
)
んでゐて、落ちぶれた相場師だとか、歩きくたびれた外交員だとか
聴雨
(新字旧仮名)
/
織田作之助
(著)
さ聞きて
俄
(
にわ
)
かにその本こひしく、お
祖母
(
ばあ
)
様の
手垢
(
てあか
)
父の手垢のうへに私の手垢つきしかず/\、また妹と朱など加へし『
柵草紙
(
しがらみそうし
)
』のたぐひ、都へも引きとらまほしく、母ゆるさば
ひらきぶみ
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
行手の
蒼空
(
あおぞら
)
の裾が一点つねられて
手垢
(
てあか
)
の
痕
(
あと
)
がついたかと思う間もなくたちまちそれが拡がって、何百里の幅は黄黒い闇になってその中に数え切れぬほどの竜巻きが銀色の髭を振り廻した。
百喩経
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
あまりに
籤運
(
くじうん
)
が弱いので、神様にお願ひの心で、酒代だけは
手垢
(
てあか
)
のつかない、きれいなお札を用意して酒場の行列に立つやうにした。お札のないときは銀貨を洗面所の水で洗つて浄化した。
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
悪口をいえば骨董は死人の
手垢
(
てあか
)
の附いた物ということで、余り心持の好いわけの物でもなく、大博物館だって
盗賊
(
どろぼう
)
の手柄くらべを見るようなものだが、そんな
阿房
(
あほ
)
げた論をして見たところで
骨董
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
とそう言って、
手垢
(
てあか
)
のついたその翻訳書を感慨ふかそうに
頁
(
ページ
)
を繰っていた。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
混雑に紛れて、僕は郵便棚へ近づいて二、三枚手に取ってみた。古いのばかりだ。
手垢
(
てあか
)
とごみで薄黒くよごれてる。が、これは一たいどうしたというのだ?——酒場の常連はきまってるはずだ。
踊る地平線:08 しっぷ・あほうい!
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
そこで彼をここに待たして置いて、約束があるように云って上り込んで、部屋を探したのだ。所が腰羽目の寄木細工に一ヶ所
手垢
(
てあか
)
のついている所がある。ふと思いついたのが
箱根
(
はこね
)
細工の秘密箱さ。
真珠塔の秘密
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
それは使い古したものとみえ、
手垢
(
てあか
)
でよごれ、四隅がめくれていた。
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
手垢
(
てあか
)
つく君が
手鞠
(
てまり
)
のあや糸は赤しとを見えず青しともまた
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
手垢
(
てあか
)
きたなきドイツ語の辞書のみ残る
一握の砂
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
手垢
(
てあか
)
で光った十三匹の木馬と、クッションの
利
(
き
)
かなくなった五台の自動車と、三台の三輪車と、背広服の監督さんと、二人の女
切符
(
きっぷ
)
切りと、それが
木馬は廻る
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
これほど
手垢
(
てあか
)
さえつかずにいたらば、このまま
額縁
(
がくぶち
)
の中へ入れても——いや、
手垢
(
てあか
)
ばかりではない。何か大きい10の上に細かいインクの
楽書
(
らくがき
)
もある。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼女は
手垢
(
てあか
)
の付いた
皺
(
しわ
)
だらけの紙幣を、指の間に挟んで、ちょっと胸のあたりまで上げて見せた。彼女の挙動は自分の勝利に誇るものの如く
微
(
かす
)
かな笑に伴なった。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ナイフで色々ないたずら書きが彫りつけてあって、
手垢
(
てあか
)
で
真黒
(
まっくろ
)
になっているあの
蓋
(
ふた
)
を
揚
(
あ
)
げると、その中に本や雑記帳や
石板
(
せきばん
)
と一緒になって、
飴
(
あめ
)
のような木の色の絵具箱があるんだ。
一房の葡萄
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
人間の歴史の粉飾、と言ったらいいでしょうか。西湖などは、清国政府の庭園です。西湖十景だの三十六
名蹟
(
めいせき
)
だの、七十二勝だのと、人間の
手垢
(
てあか
)
をベタベタ附けて得意がっています。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
その
花
(
はな
)
やかな、情慾的な顔が、時代のために幾分色があせて、唇の
外
(
ほか
)
は妙に青ざめ、
手垢
(
てあか
)
がついたものか、
滑
(
なめら
)
かな肌がヌメヌメと汗ばんで、それゆえに、一層悩ましく
人でなしの恋
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
彼はまたぴかぴかする一匹の
伊勢崎銘仙
(
いせざきめいせん
)
を買うのに十円余りを費やした。友達から受取った原稿料がこう形を変えたあとに、
手垢
(
てあか
)
の付いた五円札がたった一枚残ったのである。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
白暖簾
(
しろのれん
)
の
懸
(
かか
)
った座敷の入口に腰を掛けて、さっきから
手垢
(
てあか
)
のついた薄っぺらな本を見ていた松さんが急に大きな声を出して面白い事がかいてあらあ、よっぽど面白いと一人で笑い出す。
琴のそら音
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
朝夕
内
(
うち
)
がくしに入れたものと見えて茶色の所が黒ずんで、
手垢
(
てあか
)
でぴかぴか光っている。無言のまま日記を受取って中を
見
(
み
)
ようとすると表の戸がからからと
開
(
あ
)
いて、頼みますと云う声がする。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
手
常用漢字
小1
部首:⼿
4画
垢
漢検準1級
部首:⼟
9画
“手”で始まる語句
手
手拭
手前
手巾
手繰
手許
手向
手綱
手際
手燭