憂慮きづか)” の例文
とこういうべきいとまあらず、我にかえるとお杉もいたくお若の身を憂慮きづかっていたので、飛立つようにして三人奥のへ飛込んだが、ああ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかりで重そうなつむりを上げて、にわかに黒雲や起ると思う、憂慮きづかわしげに仰いでながめた。空ざまに目も恍惚うっとりひもゆわえたおとがいの震うが見えたり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忠實まめやかつかへたる何某なにがしとかやいへりし近侍きんじ武士ぶしきみおもふことのせつなるより、御身おんみ健康けんかう憂慮きづかひて、一時あるとき御前ごぜん罷出まかりい
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こりゃ途中で暗くならなければいが、と山の陰がちと憂慮きづかわれるような日ざしになった。それから急いで引返したのよ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二三日来、小親われを見ては憂慮きづかいて、かくは問うたりき。心なく言うべきことにあらねば語らでありしが、このかれとわれとのみ、かたわらに人なきおりなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という医学士の声がしたは、お夏が、愛吉を憂慮きづかって、立とうとして、酔ってるからよろけたんだそうでがす。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとつは村里むらざとちかづいたとおもふまゝに、里心さとごころがついて、きふ人懷ひとなつかしさにへないのと、ひとつは、みづのために前途ゆくてたれて、わたるにはしのない憂慮きづかはしさとである。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
全体を通じて思い合さるる事ばかりであるが、し、それもこれも判事がお米に対する心の秘密とともに胸に秘めて何事もわず、ただ憂慮きづかわしいのは女の身の上
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦さえ、憂慮きづかうよりむしろ口惜くやしがって、ヤイヤイ騒ぐから、主税の、とつおいつは一通りではない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いわゆる口説いてねられたと云う恋人に、しかも同じ。突落された丸木橋のながれに逆らって出逢ったのである。葛木は次の瞬間を憂慮きづかって、靴の先から冷くなった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもてを上げて、金之助は今もその音や聞ゆる、と背後うしろ憂慮きづかうもののごとく、不安の色をたたえつつ
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肩のあたりおわれかかりて、茶褐色の犬一頭、飼主の病苦を憂慮きづかいてそを看護みとらんと勤むるごとし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拓の打侘うちわびたることばを聞いて、憂慮きづかわしげにその顔を見上げたが、勇気はおのおもてあふれつつ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火沙汰を憂慮きづかって、行燈で寝るほど、小心な年寄。ことに女主人あるじなり、忘れてもこんな事は、とそこで何か急に恐くなったか、そっとあけて見ると良い月夜、式部小路は一筋あおい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晃 君に背中をたたかれて、僕の夢が覚めた処で、東京に帰るかって憂慮きづかいなんです。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富士河ふじがはふねがたし。はぐくみまゐらす三度さんどのものも、殿との御扶持ごふちたまはりて、つる虚空こくうはこびしかば、いま憂慮きづかことなし? とて、年月としつき夜毎々々よごと/\殿とのうつくしきゆめておはしぬ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はい、屋根も憂慮きづかわれまする……この二三年と申しとうござりまするが、どうでござりましょうぞ。五月も半ば、と申すに、北風ならいのこうはげしい事は、十年以来このかたにも、ついぞ覚えませぬ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陸近くがぢかなれば憂慮きづかいもなく、ただ景色のさに、ああまで恐ろしかったばばの家、巨刹おおでらやぶがそこと思うなだを、いつ漕ぎ抜けたか忘れていたのに、何を考え出して、また今のいなな年寄。……
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔をあげてぞ見たる、何をか思える、小親の、憂慮きづかわしげなる面色おももちなりしよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
室内のこの人々にみまもられ、室外のあのかたがたに憂慮きづかわれて、ちりをも数うべく、明るくして、しかもなんとなくすさまじく侵すべからざるごとき観あるところの外科室の中央に据えられたる
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石沙無人せきさむにんきやうの、いへとなり、みづとなり、となり、むらとなつた、いま不思議ふしぎきやうにのぞみながら、古間木こまきよりしてわづかに五、あとなほ十をひかへた——前途ゆくて天候てんこうのみ憂慮きづかはれて、同伴つれ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お米は——幽霊と聞いたのに——ちょっと眉をひそめて、蛇、蝮を憂慮きづかった。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうでもない、世間じゃ余計な風説うわさをしている折からだから憂慮きづかわしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある者は憂慮きづかわしげに、はたある者はあわただしげに、いずれも顔色穏やかならで、せわしげなる小刻みのくつの音、草履ぞうりの響き、一種寂寞せきばくたる病院の高き天井と、広き建具と、長き廊下との間にて
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の話? と声のはげしいのを憂慮きづかって、階子段の下でそっと聞くと、縁談でございますよ、とお源の答えに、ええ、旦那の、と湯上りのさっと上気した顔の色を変えたが、いいえ、河野様が御自分の
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と促がされても立ちかねる、主税は後を憂慮きづかうのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
附け景気の広言さえ、清葉は真面目まじめ憂慮きづかうらしく
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)