悍馬かんば)” の例文
但し弾機ばね一個不足とか、生後十七年、灰色のぶちある若き悍馬かんばとか、ロンドンより新荷着、かぶおよび大根の種子とか、設備完全の別荘
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
そこで、ピシリッとまた一むち悍馬かんばをあおッた竹屋三位は、菜種なたねの花を蹴ちらして、もうもうと皮肉な砂煙を啓之助に残して行った。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悍馬かんば足曳あしびきに三人鈴なりのてい雑沓ざっとうの護摩堂付近へ馬を乗り入れたとき、ちょうど群集を斬りはらいながらたち現われた左膳と、バッタリ——。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
勇猛な一人の騎士カバレロが槍を持って悍馬かんばまたがり、おなじく勇猛なる牡牛トウロスに単身抗争してこれをたおすのがその常道だった。
やんわりとした髪の毛ので心地、………そしておりおりれて来るほのかなささやき、………長い間悍馬かんばのようなナオミのひづめにかけられていた私には
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
菊之助のために、かなりの金を遺してあることを知ってからは、悍馬かんばのようなお粂をなだめ宥め、越前屋に帰って来て、店の仕事を手伝っていたのです。
それからラウズ訳『仏本生譚ジャータカ』に、仏前生かつてビナレスの梵授王に輔相たり。王の性貪る。悍馬かんばを飼いて大栗と名づく。北国の商人五百馬を伴れ来る。
悍馬かんばの女将軍女軽業興行師のパリパリに乗替えたが、こいつが意外に道草を食いはじめて、自分よりは藤原の伊太夫なにがしという財閥へ附きっきりで
長年のうちに、悍馬かんばのようなエステル夫人をなだめるコツをすっかり会得してしまったらしい。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それらのページのうちには、悍馬かんば、剣、いくさの叫び、勝利の驕慢きょうまん、などが含まれていたのである。
少し位の悍馬かんばでも峠位は差支えなかろうが、あとの三人と来ては、生まれて以来、しみじみ馬背の厄介になった事すらない人間だ。物好き連とはいいながら、多少剣呑けんのんである。
悍馬かんばを慣らす顛末てんまつは、もちろん編集の細工が多分にはいってはいるであろうが、あばれるときのあばれ方はやはりほんとうのあばれ方で寸毫すんごうの芝居はないから実におもしろい。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
間柄助次郎、そのひと声に、刺輪しりんで蹴られた悍馬かんばのように、もう、前後の見境もなく
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
気持が先走りして、あたかもそれは、私がくらから落ちたのにかまわず疾駆しっくする悍馬かんばのようで、私は、それから離れまいと手綱を握ってずるずると地べたをきずり回されている感じであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
巨大な体躯たいくとたくましい健康とを持った一砲兵士官が、悍馬かんばから振りおとされて頭部に重傷を負い、すぐ人事不省に陥った。頭蓋骨ずがいこつが少し破砕されたのであるが、べつにさし迫った危険もなかった。
「いや今日は違うんですよ、剣術もやったし、弓は五寸の的を二十八間まで延ばしたし、馬は木曽産のあおで、まだ乗った者がないという悍馬かんばをこなしましたがね、それはそれとして話はべつなんです」
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
運転手は悍馬かんば乗鎮のりしずめるが如くに腰を切って、昂然こうぜんとして
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悍馬かんばのような鼻息で、女はひきあげた。
備中守から、一通の書付をとると、左近将監は、ふたたび悍馬かんばに鞭を打って、真一文字に、南町奉行所の正面のまえまで走って来た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが邦にも『小栗判官おぐりはんがん』の戯曲じょうるり(『新群書類従』五)に、横山家の悍馬かんば鬼鹿毛おにかげは、いつも人をまぐさとし食うたとある。
鋭い隻眼が雨中の戸外に走っているうちに、しだいに左膳の頬は皮肉自嘲の笑みにくずれて来て、突然かれは、いななく悍馬かんばのごとくふり仰いで哄笑した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここを出て地獄茶屋でひと休みやすんでいると、只事ただごとならぬ叫び声が聞える。スワ何事の出来しゅったいと、四人一度に飛び出す。見れば一頭の悍馬かんば谷川へちて今や押し流されんず有様。
タヌもようやく焦燥気味あせりぎみで、あちらをひねり、こちらを押すが、商会はアリゾナの野における悍馬かんばのように、ただ後足でぴょんぴょん跳ねくるばかり、一向にらちがあく様子もない。
フトした事から、先代の總七が、菊之助の爲に、かなりの金を遺してあることを知つてからは、悍馬かんばのやうなお粂をなだめ/\、越前屋に歸つて來て、店の仕事を手傳つて居たのです。
そして体臭と悍馬かんばと喚声と溌剌はつらつとが原色の大洋のように密集して、そいつが世にも大々的スマッシング上機嫌ハイ・スピリトのもとに一つに団結して跳躍する、動揺する、哄笑する、乱舞する——何のことはない
駈けても駈けてもほのおの林だ。山も焼け水も煮え立っている。それに絶えず灰が雨の如く降ってくるので、悍馬かんばはなおさら暴れ狂う。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悍馬かんばのごとくはやって、こりゃ鞘当てもしかねますまいて。ははははは、いや、どうせのことに、ちょっと拝見せずにはおられぬ。(懐紙を口にくわえ、いずまいを正して播磨守に目礼)
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
広目こうもく二天が悪鬼毒竜をふみ、小栗おぐり判官はんがん和藤内わとうない悍馬かんば猛虎にまたがるごとく、ガネサに模し作られた大黒天は初め鼠を踏み、次に乗る所を像に作られたが、厨神として台所荒しの鼠を制伏するの義は
悍馬かんばを御して牛の周囲を駈けめぐってる。
何かしらぎょッとしたものを受けたらしく、邢道栄が悍馬かんばの脚を不意に止めると、車上の人は、手の白羽扇をあげてさしまねきながら
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気骨凌々りょうりょうたる眉宇びうと里見無念流の剣法に鍛えた五体とがきりりと締まって、年よりは二つ三つふけても見えようが、病み上がりとはいえ、悍馬かんばのようなはなやかさが身辺にあふれているから
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あげての、人間の悪さ競べにならねばよいが、武者所など、さしずめ、悍馬かんば奔馬ほんば、じゃじゃ馬などの、集まり所。……こわいのう
唖然あぜんとしていた泰軒と栄三郎が耳ちかく悍馬かんばのいななきを聞いたのは。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
戟の光を見ても、悍馬かんばのいななきを聞いても、その眼や耳は、おどろきを失っていた。恐怖する知覚さえ喪失そうしつしている飢民の群れだった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、空をってうろたえた悍馬かんばや猛兵が、むなしく退き戻ろうとするとき、一発の轟音ごうおんを合図に、四面の伏勢ふせぜいがいちどに起って
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼を乗せた悍馬かんばはいくたびとなく歩兵を蹴ちらし、槍ぶすまを突破して、見るまに郊外十里の外まで彗星すいせいのように飛び去ッていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気早の御大将、何かは猶予ゆうよのあるべき。悍馬かんばにまかせて真っ先に進まれ、もうわれらは二里の余もうしろに捨てられている」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後閑ごかんの間道から風戸峠へと、やがて、悍馬かんばは死にもの狂いでのぼってゆく。——一面の鏡のように、やがて遙かに榛名はるなうみが見えてくると
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その駈ける砂塵の中に、留守の衆は、蹄をあげてゆく悍馬かんばと、その上にある老公のすがたとを、もう遠くに去ってから初めて見出している。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてしばらくは参謀室のほうに心をひかれているふうだったが、突然、うまやの手綱を断った悍馬かんばのように、鎮台の丘から下へ向って駈け出した。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清洲の城下から鳴海なるみ街道のほうへ向って、一頭の悍馬かんばが、闇を衝いて駈けていた。重傷を負ったまま、山淵右近は、その鞍の上にしがみついていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門前町の辻まで、向う見ずに飛ばして来た一騎の悍馬かんばは、四つ辻の角を固めていたさむらいの長槍で、いきなり脚を払われて、竿立さおだちになって暴れまわった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あぶなく、悍馬かんばに蹴られるところであった人影は、城下から一散に旅川周馬を追ッかけてきた、お十夜であった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天慶てんぎょうの昔——つくり話にちがいないが——たいら将門まさかどと藤原純友すみともというどっちも野放しの悍馬かんばみたいな野望家が
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまたの若侍と一緒に、徳島城の大手から津田の浜へ、悍馬かんばをとばしてゆく重喜の姿をよく見かける。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大人おとなげない飾り物だ——と日頃からいっていて、戦場に出ると、つねに、路傍の笹の枝を切って、無造作に、よろいの背に差し、悍馬かんば馳駆ちくして働きまわるところから
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蔡瑁は、玄徳が逃げたあとで、番兵から急を聞くと、すぐ悍馬かんばを励まして追いかけてきたが、すでに玄徳の姿は対岸にあって、眼前の檀渓にただ身を寒うするばかりだった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとききょう越吉元帥えつきつげんすいは、手に鉄槌てっついをひっさげ、腰に宝鵰ほうちょうの弓をかけ、悍馬かんばをとばして陣頭にあらわれ、羗の射撃隊は弓をならべて黒鵰くろたかの矢を宙もくらくなるほど射つづけてくる。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悍馬かんばは悍馬とからみあって先を争い、槍隊は槍隊で、穂先一尺を争って駈け出してゆく。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻さきをそろえた悍馬かんばれは、すさまじい武者声を乗せて敵の正面へぶつかってゆく。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)