強請ゆすり)” の例文
強請ゆすりや、押借じゃ無い、人形を返して貰い度い、主人にそう言ってくれ、彫物師の松本鯛六が、あの人形を受け取りに来た——と」
ただ先方はどこまでも下手したでに出る手段を主眼としているらしく見えた。不穏の言葉は無論、強請ゆすりがましい様子はおくびにも出さなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その隠れ家へ時々に押し掛けて行って、云わば一種の強請ゆすりのように、なんとか彼とか名を付けてジョージから金を引き出していました。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舞台の芸に心を刻み、骨を砕き、ひたすら、一流を立て抜こうとする芸人と、押し借り強請ゆすりの悪浪人と、何方どっちが恥ずべき境涯なのだ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
袁紹は、弟の強請ゆすりがましい恩賞の要求に、腹を立てたか、一匹の馬も送ってよこさないばかりか、それについての返辞も与えなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それア僕は乞食には乞食だ、が、普通の乞食とは少々格が違ふ。ナニ、強請ゆすりだんべいツて? ヨシ/\、何でも可いから、兎に角其手紙を
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お澄さん……私は見事に強請ねだったね。——強請ったより強請ゆすりだよ。いや、この時刻だから強盗の所業わざです。しかし難有ありがたい。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔父の定次郎は其後もチョイ/\支倉の家へ強請ゆすりに行ったらしい。小林貞が病院へ行く途中から姿を消したのはそれから間もなくであった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
強請ゆすりかたりに似たようなことを、二、三の悪友と組んでやって、今日まで食いつないで来たのであったが、それも最近いきついてしまった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「御当家の御親類のお娘子むすめごをお連れ申しただけのことで、それを強請ゆすりかなんぞのように銭金ぜにかねで追っ払いなぞは恐れ入ります」
強請ゆすりかな」という一語がつづいた。が、その時女はヒョッコリ肩越しに背後をふりかえってみて、今少しで倒れんばかりに吃驚したのである。
所がお酒と女とで間もなく無一文とおなりになって、文夫様がお生れになった翌年、突然帰っていらして強請ゆすり始めなすったのだそうでございます。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
近ごろ京の町に見た人形という珍妙なる強請ゆすり流行はやっているそうな、人形を使って因縁をつけるのだが、あれは文楽のからくりの仕掛けで口を動かし
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
押借おしがり強請ゆすり美人局つつもたせと、あらゆる無頼の味をめた、そして飽くことを知らぬ女の情慾のために、今では治る望みもない労咳を病む身となっている——。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
悪事がだんだん進歩していった市九郎は、美人局からもっと単純な、手数のいらぬ強請ゆすりをやり、最後には、切取強盗を正当な稼業とさえ心得るようになった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
木之助があけようとして手をかけた入口の格子こうし硝子に「諸芸人、物貰ものもらい、押売り、強請ゆすり、一切おことわり、警察電話一五〇番」と書いた判紙はんしってあった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
湧きかえるような掛け声をあびながら小団次が強請ゆすり啖呵たんかを切っていると、桟敷の下で喧嘩がはじまった。
ややともすれば強請ゆすりがましい凄味すごみな態度を示すに引き比べて昔ながらの脚半きゃはん草鞋わらじ菅笠すげがさをかぶり孫太郎虫まごたろうむし水蝋いぼたむし箱根山はこねやま山椒さんしょうお、または越中富山えっちゅうとやま千金丹せんきんたんと呼ぶ声。
其の車夫は以前長脇差のはてで、死人しびと日数ひかずって腐ったのをぎ附け、んでも死人に相違ないと強請ゆすりがましい事を云い、三十両よこせと云うから、やむを得ず金を渡し
なにがしという赤新聞が強請ゆすりに来て、記者の態度があまりに面白くなかったので断りを言ったら、「政界の狒々爺ひひじじい」という題で、あること無いことを書いて居たが、しかし
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
其様そんなに隠さずとも好いだろう、相見互だもの、己等おいらの付合も為てくれたって、好さそうなもんだ」など、嫌味を言って、強請ゆすりがましいことを、愚図々々言ってますのです。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
その頭分たるものが、大きな神社・寺院や、豪族や、あるいは町方・村方などに付属して、警固の役目を受け持つ。火の番、泥坊の番、強請ゆすりその他暴力団の追っ払い等のことに当たる。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
別に強請ゆすりがましいかどを持ち合せた様子もなし、どうしようかと相談中、そうこうするうち、今度手紙で書いて寄越した文面に依ると、何でもF——学園に一人の体操の女教員があって
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ずいぶんコマゴマしたことで、無駄な殺生をしたり、ケチな強請ゆすりをするために大変な筋書を書く——というような奴が、ゴロゴロしていますから。そこへゆくと、あっしらのは実業ビジネスで……
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ちょうどいい、若旦那も往ってください、今、へんな壮士のような奴が二人来たので、旦那さまから呼びに来て往くところです、貴方あなたも往ってください。きっと強請ゆすりか何かだろうと思います」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
零下何度の大寒地獄じゃ。それに引換え表の通りは。光り輝やく玄関構えに。並ぶ自動車その数知れない。しかも富豪や名士の家庭の。秘密握っているのが強味じゃ。強請ゆすり次第にお金が取れます。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(註五)「」はこのあいだに伝吉の枡屋の娘を誘拐ゆうかいしたり、長窪ながくぼ本陣ほんじん何某へ強請ゆすりに行ったりしたことを伝えている。これも他の諸書に載せてないのを見れば、軽々けいけい真偽しんぎを決することは出来ない。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おっぱらわれたなんて、私は『強請ゆすり』に行ったんやあらへんよ
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは懇願といふものではなく、むしろ強請ゆすりの激しさだつた。
二朱や一貫の強請ゆすりを大きい事にして居る貝六に取って、七万両の世界は、何んと言う途方もない——想像を絶した境地だったでしょう。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それア僕は乞食には乞食だ、が、普通の乞食とは少々格が違ふ。ナニ、強請ゆすりだんべいツて? ヨシ/\、何でも可いから、兎に角其手紙を
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さ、お客様たちは、どうぞあちらへ。……いや何でもありません、コソ泥です。かんかん虫のトムという小僧で、まいど、強請ゆすり
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこの時代としては、これも強請ゆすりの材料になる。主人が家来に殺された上に、その家に相続人が無いとすれば、福田の屋数は当然滅亡である。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは悪い奴でございます、甲府の御勤番衆ごきんばんしゅうの名をかたって、ここの望月様という旧家へ強請ゆすりに来たのでございます。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不穏の言説を注ぎ込むかと思うと、他方田舎や農村へ入っては、一揆を起こさせたり指揮したりし、もっと下がったやからになると押し借り強請ゆすり誘拐かどわかしまでやる
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女房は年紀としの功、先刻さっきから愛吉が、お夏に対する挙動を察して、非ず。この壮佼わかもの強請ゆすりでも、緡売さしうりでも。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……恥を申さねばなりませんが、手前には、長一郎という長男がございましたが、これがいかにも放蕩無頼ほうとうぶらい。いかがわしいものをかたらって町家へ押借おしかり強請ゆすりに出かけます。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
雨後うごたけのこに似て立ち並び始めたバラック飲食店の場銭ばせんと、強請ゆすりとで酒と小遣こづかいに不自由しなかった習慣は一朝いっちょうにして脱することが出来ず、飲食店の閉鎖、恐喝きょうかつ行為の強力な取締りと
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「帰ってくれというのに帰らないのは穏かでない。それではまるで強請ゆすりも同様だ。お前さんがいくら何と云っても僕の方では金を出すべき義務も理由もないのだから。駄目だよ。」
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われ不届ふとゞきものだ、手前の亭主はお構い者で、聞けば商人あきんどや豪家へ入り、強請ゆすりかたりをして衆人を苦しめると云う事はかねて聞いてったが、此の文治郎が本所にうち捨置すておく訳にはいかん
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
予審廷へも度々呼び出されて、判事から辛辣な訊問をせられるし、附近の人々には嘲笑の眼で見られるし、それに弱味につけ込んで、親切ごかしにかたりに来る者や、強請ゆすりに来る者があった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「作る田がないから、東京へ来て強請ゆすりをやってるだろう」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
押借り強請ゆすりはやらないが、貸金の催促は名人で、刀をひねくり廻して、無理な金でもむしり取って来るという、大変な二本差ですよ
御禁制の布令ふれが出ても出ても、岡場所にかく売女ばいたは減らないし、富興行はひそかに流行はやるし、万年青おもと狂いはふえるし、強請ゆすり詐欺かたりは横行するし
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなると普通のかたりりや強請ゆすりではない。ともかくも其の片袖は本物である。十両の礼金は鍋久が勝手にくれたのである。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
津軽侯の浪人司馬又助——などというやからと押し廻り、賭場とばへ行ってはさいをころがし、女郎屋や小料理屋へ出かけて行っては、強請ゆすりがましく只で遊んだりした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことに尾籠下品びろうげひんなのは、ある時、七人の手下と共に、ある商家を強請ゆすりに行った時、金を貸さなければ店前みせさきを汚すよといって、七人が七人、店前で尻をまくった。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが為に斯ういう窮命をして居りますのに、そんな強請ゆすりかたり見たような、へ…変な事を云っても三文も出来ませんへえ、手前が此処に居りますのは、吉原から左様な事を申してくるかと思って
強請ゆすりじゃが。きさま、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ときどき強請ゆすりがましい事を申して来るため、家中の若侍は、こんど参ったら一刀両断にしてやると意気込んでいる有様じゃ。