引返ひつかへ)” の例文
るにまた畳を摺来すりく跫音あしおときこえて、物あり、予が枕頭ちんとうに近寄る気勢けはひす、はてなと思ふ内に引返ひつかへせり。少時しばらくしてまたきたる、再び引返せり、三たびせり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あまりの間拔まぬけさに自分で自分にきまりわるく、すぐ引返ひつかへさうかと思つたけれど、どうせもうおくれたのだから、いつそ文法ぶんぽふ時間じかんをすましてからにしようと
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
日曜の鐘を聞いて白いレエスの帽をかぶつた田舎ゐなか娘が幾人も聖書を手にしなが坂路さかみちを伏目がち寺へ急ぐ姿も野趣に富んで居た。帰りには十分間に一度通る単線の電車に乗つて市内へ引返ひつかへして来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あんまりですから、主人あるじ引返ひつかへさうとしたときです……藥賣くすりうり坊主ばうずは、のない提灯ちやうちん高々たか/″\げて、しひ梢越こずゑごしに、大屋根おほやねでもるらしく、仰向あをむいて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかも、若旦那わかだんな短銃ピストルつて引返ひつかへしたのをると、莞爾くわんじとして微笑ほゝゑんで、一層いつそうまた、婦人ふじんかた片手かたていだいた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だい腕車わんしやにん車夫しやふは、茶店ちやみせとゞまつて、人々ひと/″\とともに手當てあてをし、ちつとでもあがきがいたら、早速さつそく武生たけふまでも其日そのひうち引返ひつかへすことにしたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おなじとしふゆのはじめ、しも緋葉もみぢみちを、さわやか故郷こきやうから引返ひつかへして、ふたゝ上京じやうきやうしたのでありますが、福井ふくゐまでにはおよびません、わたし故郷こきやうからはそれから七さきの
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
下坂くだりざかは、うごきれると、一めい車夫しやふ空車からいて、ぐに引返ひつかへことになり、梶棒かぢぼうつてたのが、旅鞄たびかばん一個ひとつ背負しよつて、これ路案内みちあんないたうげまでともをすることになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一寸ちよつと苗屋さんと、窓から呼べば引返ひつかへすを、小さき木戸を開けて庭に通せば、くゞる時、笠を脱ぎ、若き男の目つき鋭からず、頬のまろきが莞爾莞爾にこにこして、へい/\召しましと荷を下ろし、穎割葉かひわりば
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
にじつた中年増ちうどしまくもなか見失みうしなつたやうな、蒋生しやうせいとき顏色がんしよくで、黄昏たそがれかゝるもんそとに、とぼんとしてつてたり、くびだけしてのぞいたり、ひよいととびらかくれたり、しやつきりとつて引返ひつかへしたり
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)