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天鵞絨
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ふりがな文庫
“
天鵞絨
(
ビロード
)” の例文
けばだった鶏頭の花をかき分けて、一つびとつ小粒の実を拾いとるのは、やがて
天鵞絨
(
ビロード
)
や絨氈の厚ぼったい手ざわりを娯むのである。
艸木虫魚
(新字新仮名)
/
薄田泣菫
(著)
馬車に乗って、
黄鼬
(
テン
)
の大きな長衣を着こみ、頭には
天鵞絨
(
ビロード
)
の帽子を戴き、鳥の羽がさがりて顔もほとんど見えないばかりであった。
ファラデーの伝:電気学の泰斗
(新字新仮名)
/
愛知敬一
(著)
葡萄酒や
天鵞絨
(
ビロード
)
や絹やその他の高価な貨物が五〇%下落しても、労賃率は影響を受けず、従って利潤は引続き変動しないであろう。
経済学及び課税の諸原理
(新字新仮名)
/
デイヴィッド・リカード
(著)
それからその手燭の
鉤
(
かぎ
)
を、自分の寝台の頭のところに垂れている赤い
天鵞絨
(
ビロード
)
へ引っかけておいて、気を鎮めるために寝床の上に坐った。
世界怪談名作集:13 上床
(新字新仮名)
/
フランシス・マリオン・クラウフォード
(著)
あちこち見て歩く内、応接間というような室に、硝子の箱に紫色の
天鵞絨
(
ビロード
)
を敷いて、
根附
(
ねつけ
)
が百ばかり、幾段かに並べてありました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
▼ もっと見る
彼女は橙色がかつた真紅の
天鵞絨
(
ビロード
)
の袍を着てゐた。其
黄鼬
(
てん
)
の毛皮のついた、広い袖口からは、限りなく優しい、上品な手が、覗いてゐる。
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
刺繍をした黒
天鵞絨
(
ビロード
)
の着物などを見ましたが、これは作り上げるのに幾年もかかるので、オタカラと云って大事にしています。
親しく見聞したアイヌの生活
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
空色の薄いセーターに、運動靴、短かく刈り込んだ柔かい毛が春の光を
天鵞絨
(
ビロード
)
のように吸い込んで居るのも美しい限りです。
死の予告
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
壁には名匠の油絵や、
天鵞絨
(
ビロード
)
で
掩
(
おお
)
われた
壁龕
(
へきがん
)
がところどころに設けられて、大食堂も廊下も大舞踏室もことごとく、内庭の芝生に臨んでいる。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
一着の古い黒の背広服、黒
天鵞絨
(
ビロード
)
のソフト帽、その横に白紙をのべて、上に黒眼鏡と、長髪の
鬘
(
かつら
)
と、つけ髭が並べてある。
恐怖王
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
天鵞絨
(
ビロード
)
の襟にふくら雀の紋を
金糸
(
きんし
)
で縫わせたのを着て、見よがしに歩いてみたり——なにしろ藩中では、いや他藩までも
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
墓前を埋めつくした真白な百合の花弁の上に、
天鵞絨
(
ビロード
)
の艶を帯びた大黒揚羽蝶が、
翅
(
はね
)
を休めて、息づいておった。…………
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
上着の模様は唐草で、襟と袖とに銀の糸で、細く
刺繍
(
ぬいとり
)
を施してある。紫色の袴の裾を洩れ、
天鵞絨
(
ビロード
)
に銀糸で鳥獣を繍った、小さな
沓
(
くつ
)
も見えている。
前記天満焼
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
青い
天鵞絨
(
ビロード
)
のコートと、黒狐の襟巻に包まれた彼女が、化粧を
凝
(
こ
)
らした顔と、雪白のマンショーを浮き出さして、チンマリと坐っているのであった。
鉄鎚
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
トオキイの音が、ふっと消えて、サイレントに変った瞬間みたいに、しんとなって、
天鵞絨
(
ビロード
)
のうえを猫が歩いているような不思議な心地にさせられた。
狂言の神
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
夏の午後、畑の中で、
天鵞絨
(
ビロード
)
のごとき牧場の上で、長い
白楊樹
(
はくようじゅ
)
のさらさらと鳴る下で、うっとりとふける夢想……。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
冬の初のことで、白菜と大根の軟い緑の葉が、日の光を浴びて
天鵞絨
(
ビロード
)
のやうに輝き、松の林の間々にこんもりと茂つた樹木の梢は、薄く色づいてゐます。
畦道
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
あたかも私の友人の家で純粋セッター種の
仔
(
こ
)
が生れたので、或る時セッター種の深い長い
艶々
(
つやつや
)
した
天鵞絨
(
ビロード
)
よりも美くしい
毛並
(
けなみ
)
と、性質が
怜悧
(
りこう
)
で
敏捷
(
すばし
)
こく
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
巴里じゃ、窓のそばの
天鵞絨
(
ビロード
)
椅子に坐って、足音にばかり耳をたてたっけ。でもそれはこっちの我儘なのよ。子供が大きくなれば母親なんかいらなくなる。
ユモレスク
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
車室の中は、青い
天鵞絨
(
ビロード
)
を
張
(
は
)
った
腰掛
(
こしか
)
けが、まるでがらあきで、
向
(
む
)
こうの
鼠
(
ねずみ
)
いろのワニスを
塗
(
ぬ
)
った
壁
(
かべ
)
には、
真鍮
(
しんちゅう
)
の大きなぼたんが二つ光っているのでした。
銀河鉄道の夜
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
「
寂しき人々
(
アインザーメメンシェン
)
」のブラウン見たいな、まあよく銀座あたりのカフェーで
出会
(
でくわ
)
すような、
天鵞絨
(
ビロード
)
の洋服を着て、髪もやっぱり画家流に刈り込んで(?)あった。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
その翌日、道子は黒い
天鵞絨
(
ビロード
)
の服を着て、龍之介は茶の背広を着て、二人は一つの自動車で駅まで着いた。
謎の女
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
それはまるで美しい
絨氈
(
じゅうたん
)
の飽くことのない深い
天鵞絨
(
ビロード
)
を眺めているような、それでいて、絶えず自由に柔らかい光沢をもって、しきりに、
巫山戯
(
ふざけ
)
ちらしていた。
或る少女の死まで
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
青
(
あお
)
天鵞絨
(
ビロード
)
の海となり、
瑠璃色
(
るりいろ
)
の
絨氈
(
じゅうたん
)
となり、荒くれた自然の中の姫君なる亜麻の畑はやがて
小紋
(
こもん
)
のような
果
(
み
)
をその繊細な茎の先きに結んで美しい狐色に変った。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
應接間
(
おうせつま
)
へ
通
(
とほ
)
ると、
大
(
おほ
)
きな
洋卓
(
テーブル
)
の
周圍
(
まはり
)
に
天鵞絨
(
ビロード
)
で
張
(
は
)
つた
腰掛
(
こしかけ
)
が
并
(
なら
)
んでゐて、
待
(
ま
)
ち
合
(
あは
)
してゐる
三四人
(
さんよにん
)
が、うづくまる
樣
(
やう
)
に
腮
(
あご
)
を
襟
(
えり
)
に
埋
(
うづ
)
めてゐた。それが
皆
(
みんな
)
女
(
をんな
)
であつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
まったく、身も世もないあの烈しい
相剋
(
ひしめき
)
のなかで、静かに
天鵞絨
(
ビロード
)
のうえを滑ってゆく思考の車があったのだ——それに今まで彼は気づかなかったまでのことである。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
そして往き來してゐる人々は大きな
天鵞絨
(
ビロード
)
のやうな眼をしてゐて、それが重い眼瞼の下で閉ぢるやうに思はれた。この雨をもたらした風は、麝香や花の匂ひがした。
氷島の漁夫:01 氷島の漁夫
(旧字旧仮名)
/
ピエール・ロティ
(著)
真中に炉を切って、冬になるとこれへ炭火を盛上げ、すっかり綿
天鵞絨
(
ビロード
)
の磨切れている椅子をまわりへ置いて、みんな無遠慮に炉の上へ足を差出しながら煖をとった。
溜息の部屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
休憩椅子は
海老茶
(
えびちゃ
)
の
天鵞絨
(
ビロード
)
の肌をひろげて、
傍
(
そば
)
へ来る女の腰をしっかり受取ろうと用意していた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
ただコートの折りかえしだけが眼が痛くなるような紫の
天鵞絨
(
ビロード
)
だった。上気した頬と、不安らしくひそめた眉と、決心しているらしい下唇とが私の眼に映じたのであった。
空中墳墓
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そこに集まっているのはいずれも
天鵞絨
(
ビロード
)
や紋織りの衣服を着て、
羽根毛
(
はねげ
)
のついている帽子をかぶって、むかしふうの
佩剣
(
はいけん
)
をつけている人びとばかりであるのに驚かされました。
世界怪談名作集:11 聖餐祭
(新字新仮名)
/
アナトール・フランス
(著)
すると今まで静かに茶褐色の
天鵞絨
(
ビロード
)
に包まれて、寝ていたかと思われる浅間山が、出し抜けに起き出してでも来るように、ドンドンと物を
抛
(
な
)
げ出す響きにつれて、
紫陽花
(
あじさい
)
の大弁を
日本山岳景の特色
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
殆ど一面に美しい
天鵞絨
(
ビロード
)
の様な芝草に覆われ、処々に背の低い灌木の群を
横
(
よこた
)
えたその丘は、
恰度
(
ちょうど
)
木の枝に梟が止った様な形をして、海に面した断崖沿いに一段と
嶮
(
けわ
)
しく突出していた。
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
内には溝状に
橄欖色
(
オリーブいろ
)
の
天鵞絨
(
ビロード
)
の貼つてある、葉卷形のサツクの中の檢温器! 37 といふ字だけを赤く、三十五度から四十二度までの度をこまかに刻んだ、白々と光る薄い錫の板と
病室より
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
白と金の
羽目框
(
パネル
)
、室内を晴やかに広く見せる四方の鏡壁、
窓脇腰掛
(
バンタケット
)
と向き合う椅子は
薔薇
(
ばら
)
いろの
天鵞絨
(
ビロード
)
張りで深々としている。静で派手な電光。それは一通り世の中を知ったマダムだ。
食魔に贈る
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
附近には
岩高蘭
(
がんこうらん
)
、
苔桃
(
こけもも
)
、蔓苔桃が一面に緑の毛氈——そのすっきりした柔い感じは寧ろ
天鵞絨
(
ビロード
)
を想わせる——を敷き詰めて、秋十月頃には紅色紫黒色の小果が玉累々たる有様を呈する。
秩父の奥山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
野暮くさい束髪頭の
黒羅紗
(
くろラシャ
)
のコオトに
裹
(
くる
)
まって、
天鵞絨
(
ビロード
)
の肩掛けをした、四十二三のでぶでぶした婦人の
赭
(
あか
)
ら顔が照らし出されていたが、
細面
(
ほそおも
)
の、ちょっときりりとした顔立ちの洋服の紳士が
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
応接室だろうか、日当りはいいが、
窓掛
(
カーテン
)
も何もない、頗る殺風景な部屋で、粗末な
卓子
(
テーブル
)
と椅子が二三脚あるばかりだ。その一つの椅子の上に
天鵞絨
(
ビロード
)
のような毛をした黒猫が丸くなって眠っていた。
黒猫十三
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
彼女の純白の、
天鵞絨
(
ビロード
)
の乗馬服の肩さえが、なんとなく寂しかった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
この昇降機は
天鵞絨
(
ビロード
)
の腰掛や化粧鏡のついた生やさしいものでない。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
労働者が必要としない所の絹や
天鵞絨
(
ビロード
)
や什器やその他の貨物が、それにより多くの労働が投ぜられる結果騰貴すると仮定すれば
経済学及び課税の諸原理
(新字新仮名)
/
デイヴィッド・リカード
(著)
天鵞絨
(
ビロード
)
の声と言われた、柔かい感触と、情緒の豊かな歌が、人間離れのした巨大な声量で、場の隅々まで
凜々
(
りんりん
)
と響き渡った。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
天鵞絨
(
ビロード
)
のやうな贅沢な花びらをかざり立てて、てんでにこつてりしたお
化粧
(
めかし
)
をした上に、高い香をそこら中にぷんぷんと
撒
(
ま
)
き散らし、木は木で
春の賦
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
勢のいい幅のある声とともに土間へ入って来たのは、相変らず年代も分らぬ古
天鵞絨
(
ビロード
)
の丸帽子をかぶった重蔵であった。
猫車
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
静かな昼間、人のいない官舎の裏に
南瓜
(
カボチャ
)
の
蔓
(
つる
)
が伸び、その黄色い花に、
天鵞絨
(
ビロード
)
めいた濃紺色の蝶々どもが群がっている。
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄――
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
レンコオトも帽子もなく、
天鵞絨
(
ビロード
)
のズボンに水色の毛糸のジャケツを着けたきりで、顔は雨に濡れて、月のように青く光った不思議な頬の色であった。
ダス・ゲマイネ
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
溜りというよりも、小窓を切ってカーテンをかけ、油絵を飾って植木を並べて、
天鵞絨
(
ビロード
)
張りの腰掛けがあるから、
壁龕
(
へきがん
)
というのが当っているであろう。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
更に異様なのは、この部屋には到るところに厚い
天鵞絨
(
ビロード
)
の垂幕が下って、一箇の大地下室を幾つもに
区劃
(
くかく
)
し、迷路のような感じを与えていることであった。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
さればこの仲間の弟子には自ら特別の風俗あり、頭髪を長くのばし衣服は
天鵞絨
(
ビロード
)
の仕事服にて、襟かざりの長きを風になびかし、帽子は大黒頭巾の如きを冠る。
洋服論
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
英国製らしい最上等の黒
羅紗
(
らしゃ
)
に、青
天鵞絨
(
ビロード
)
の
折襟
(
おりえり
)
を付けた
鉄釦
(
てつぼたん
)
の上衣を、エナメル皮に銀金具の帯皮で
露西亜
(
ロシア
)
人のように締めて、
緑色柔皮
(
グリーンレザー
)
の乗馬ズボンを
股高
(
ももだか
)
に着けて
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
天
常用漢字
小1
部首:⼤
4画
鵞
漢検1級
部首:⿃
18画
絨
漢検1級
部首:⽷
12画
“天鵞絨”で始まる語句
天鵞絨張
天鵞絨服
天鵞絨葵
天鵞絨巻網代黒