天降あまくだ)” の例文
そこへ美しい印度式のライスカレーが一皿分天降あまくだったら、すぐに踊りをやめてしまった。妾はお腹の虫の現金なのに呆れてしまった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここまで来て籌子かずこ夫人から、天降あまくだり案が提出されたのだから、ね廻してしまったものには具合がよかったと、ことが運んだわけだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
朝から晩まで晩から朝まで働き続けに働いてそれから四階のアッチックへ登って寝る。翌日日が出ると四階から天降あまくだってまた働き始める。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
観音様のお腰元か、弁天様のお使姫、当の娘の裁縫というのによれば、そのまま天降あまくだった織姫のよう思われてならない、というのである。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことの金伽羅童子、制多伽童子がこの場へ天降あまくだりして、戯れ遊んでいるのではないかとさえ思われるほどに、世間ばなれがしています。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
身を犠牲にして天降あまくだり式の決定に盲従するより外はなかったが、それにしても父のことをそう無念にも感じていないらしい兄を腑甲斐ふがいなく思った。
橋の上で殺さず、東西両国から死骸を持込まないとしたら、一体どこから娘の死骸が橋の上へ天降あまくだったことでしょう。
それも、自己の地位をおかさない者ならば、容認するが、天降あまくだり式に任命されてくる上官などには、決して、易々として、その下風には従わなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子とはなんの関係もない広い世間から、一人の人が好意をこめて葉子を見舞うためにそこに天降あまくだったとも思われた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これは生き身の天使でございますよ……人間の世界へ天降あまくだりましたんで、……でも、おわかりになりますかしら……
切っかけが天降あまくだったのである。三谷さんと一緒に働くことになった。もう一方、小西君は政治部へ廻って、無暗に出て歩く。社よりも官省かんしょうへ詰めている。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
然様そうなれば然無さなきだに他国者の天降あまくだり武士を憎んで居る地侍の怒り出すのも亦有り内の情状であるから、そこで一揆いっきも起るべき可能性が多かったのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
法庭に天降あまくだってくる、神の光のように、人の運命を秤るときのあのおもかげが……。けれども、それは間もなく消えて、左枝の身体には、痙攣けいれんのようなものが起ってきた。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
天照らす大御神の命もちて、「豐葦原の千秋ちあき長五百秋ながいほあき水穗みづほの國は、我が御子正勝吾勝勝速日まさかあかつかちはやひ天の忍穗耳おしほみみの命の知らさむ國」と、言依ことよさしたまひて、天降あまくだしたまひき。
皇孫日向の高千穂たかちほの峯に天降あまくだり給ひしにかたどるの心ならんと嘿翁いへり。なほせつありしがはぶく。
即ち学問は高台より命令的に天降あまくだる、生徒は威圧されて学問を受ける。それもマア宜いが、そうしてただ窮屈に儀式的に教えているので、面白おかしく智識を与えることがない。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
霊感を天降あまくだらせようと思っているのだ。この子は、なかなか大袈裟である。霊感を得た、と思った。すました顔をして応接室を出て、それから湯殿に行き靴下を脱いで足を洗った。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
東恩納ひがしおんな氏もすでに注意せられたように、『中山世鑑』以下の沖縄の史書には、折角せっかく始めて天降あまくだった男女神が、そのまま島人の元祖とはなってしまわず、改めて天に昇って天帝子をい降し
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は押入れの天井板を取り除き、そこから天降あまくだりで飲み食いするものにありつき、客でも来るごとにその押入れに潜んでいてそれとなく客の話に耳を澄ましたり世間の様子をうかがったりした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その早乙女の退屈男が半年ぶりにふうわりとまた天降あまくだって来たのです。
手甲てっこう脚絆きゃはん、たすきがけで、頭に白い手ぬぐいをかぶった村嬢の売り子も、このウルトラモダーンな現代女性の横行する銀座で見ると、まるで星の世界から天降あまくだった天津乙女あまつおとめのように美しく見られた。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
加之しかのみならず此の天降あまくだりがおとなしく從來のしきたりを踏襲して行かない。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
天美子あまみこ御神みかみ天降あまくだり作り召したる島々や
首里城 (新字旧仮名) / 世礼国男(著)
「二等から天降あまくだつて來た醉ツ拂ひだ。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
神職 や、このよこしまを、このけがれを、おとりいれにあい成りまするか。その御霊ごりょう御魂みたま、御神体は、いかなる、いずれより、天降あまくだらせます。……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに一行の本尊様に祭り上げられている馬上の偶像に向っては、正真しょうしんの大天狗が天降あまくだったものとでも思っているのか知らん。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お前は何のために自分に天降あまくだったのか。何故にかくも無意義に自分から消え去ったのか。おお百万円よ。お前はどこへ行った
夫人探索 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、さすが向う見ずな、山手組もせいたかも、天降あまくだった天女の高飛車たかびしゃに度胆を抜かれて、退くともなく御方の駕の左右にさっと引分けられてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
造物主である以上は評家の予期するものばかりはこしらえぬ。突然として破天荒はてんこうの作物を天降あまくだらせて評家の脳を奪う事がある。中学の課目は文部省できめてある。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、それよりも驚いたのは、こんな汚い木賃宿に、特別上等の洋装美人が天降あまくだった事です。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
『おお、主なる神よ、とくわれらに現われたまえ』と祈念したため、広大無辺の慈悲をもたれたキリストは、ついに祈れる人々のところへ天降あまくだってやろう、という御心になったのだ。
しかり、明星の天降あまくだって、うつばりを輝かしつつ、丹碧青藍たんぺきせいらん相彩る、格子に、縁に、床に、高欄に、天井一部の荘厳を映すらしい。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いよう、思いがけない美人がこのあたりへ匂って来たぞ。猪鍋に天女が天降あまくだって来るとは、むかしばなしにもない」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるばると人間世界に天降あまくだる事になったが、それに就ては昌夫の秀麿が、思い出深い石狩川の上流から、エサウシ山下の別荘まで、人に知れないように連れ込むべく
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
役人というものは、上役に対しては頭の上らないものだから、天降あまくだりである以上は否も応もない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吾の人を人と思うとき、ひとの吾を吾と思わぬ時、不平家は発作的ほっさてき天降あまくだる。此発作的活動を名づけて革命という。革命は不平家の所為にあらず。権貴栄達の士が好んで産する所なり。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、姿は天より天降あまくだったたええんなる乙女のごとく、国を囲める、その赤く黄にただれたる峰岳みねたけを貫いて、高く柳の間にかかった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鍛冶かじ屋の鉄鎚ハンマー天降あまくだらせるか何かしたら、私は差し詰め悪魔以上の人間になれる訳だけど、しかし、一方から見ると、それは立派な親孝行にもなるのだから何にもならない。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と彼は何気なく窓から半身を見せて庭面にわもを眺めた、と思いがけない人——天降あまくだったかという疑いはこんな時にであろう、こうがい島田しまだに春の陽を浴びて、瑠璃紺地るりこんじに金糸の千草を染め浮かした振袖へ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人は失恋の結果だなどと騒ぐが、近眼者のるところは実に憐れなほど浅薄なものだ。それはとにかく、未来記の続きを話すとこうさ。その時一人の哲学者が天降あまくだって破天荒はてんこうの真理を唱道する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、姿は天より天降あまくだつたたええんなる乙女おとめの如く、国を囲める、其の赤く黄にただれたるみねたけつらぬいて、高く柳のあいだかかつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
天井裏に隠れていた何千貫かわからない巨大おおき硬炭ボタの盤が、鉄工場の器械のようにジワジワと天降あまくだって来て、次第次第に速度を増しつつ、福太郎の頭の上に近付いて来るのが見えた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おい、すてきもねえ美女たぼが通るぜ。天降あまくだりでなくて、駕降りの天女だ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小笹の葉がくれに、茨の実の、紅玉を拾わんとして、瑠璃るりよそおいを凝らした星の貴女が、日中を天降あまくだったように。——
橋がかりに近い、二の松の蔭あたりに、雪代の見えたのが、ひとえ天降あまくだる天人を待つ間の人間の花かと思う。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さればこの時の風采ふうさいは、悪魔の手に捕えられた、一体の善女ぜんにょを救うべく、ここに天降あまくだった菩薩ぼさつに似ず、仙家のしもべの誤ってを破って、下界に追いおろされた哀れな趣。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地獄の絵に、天女が天降あまくだったところを描いてあって御覧なさい。餓鬼がきが救われるようでとうとかろ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あ、あ、あ、あんなものが、ああ、運五郎、せがれ、運五郎、山の銅像に天人が天降あまくだった、天降った。おお、あれは、あれは。やあ、大きな縞蛇しまへびだ。運五郎、運五郎。——いや、鳥だ、鳥だ。
名代みょうだい部屋の天井から忽然こつねんとして剃刀が天降あまくだります、生命いのちにかかわるからの。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天降あまくだったように見えた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)