双方そうほう)” の例文
旧字:雙方
私は年の若い上に、馬鹿の肝癪持かんしゃくもちですから、いっそ双方そうほうとも断ってしまったら好いだろうと考えて、その手続きをやり始めたのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのような押し問答が二三回続いたあとで、ついに双方そうほうの間に、一つの解決案がまとまった。それはどんな案かというのに
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを双方そうほう心得こころえちがいをして、かくべつべつに取りちがえてきた以上いじょう、この遠駆とおが試合じあいは、やりなおしか、互角ごかくとするよりほかはありますまい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
双方そうほうとも死力しりょくをつくしてたたかいましたから、容易ようい勝敗しょうはいはつきませんでしたが、おおくの犠牲ぎせいをはらって最後さいごに、ふじのはなくにったのでした。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この点は実は双方そうほうともに、従来あまり注意しようとしなかったが、手がかりは幸いにまだ残っている。そうして互いに有力な暗示を与え合っている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
積極的に争うなら、源三郎お手のもので、間髪を入れず処理がつくのですけれど、今の言葉でいう、いわばまア占拠……双方そうほうじっとしてねばるだけだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だいたい、この話は、双方そうほうの老人たちの軽い茶話の間から生まれたことで、もともと道江の気持ちにもぼくの気持ちにも全くかかわりのないことだったのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かく現世げんせ見舞者みまいてよりはずっとにぎやかでございました。だい一、双方そうほう気分きぶんがすっかりちがいます。
氏はまた蒲公英たんぽぽ少しと、ふきおくとを採ってくれた。双方そうほう共に苦いが、蕗の芽はことに苦い。しかしいずれもごく少許しょうきょを味噌と共に味わえば、酒客好しゅかくごのみのものであった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
要するに、双方そうほう全く同じ註文です。そこで私達は何事があっても夫婦同時に憤らないという家憲かけんこしらえました。これを今日に至るまで忠実に守っています。独り相撲は取れません。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その地方の細かい双方そうほうの話題がしばらく高田と梶とを捨ててにぎやかになっていくうちに、とうとう栖方は自分のことを、田舎言葉まる出しで、「おれのう。」と梶の妻に云い出したりした。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「おなごか鯉魚かわしが見んことには判らん。これは一つ昭公と大衆だいしゅ法戦ほっせんをして、その対決の上で裁くことにしよう。早速さっそく、鐘を打つがよろしい。双方そうほう、法堂へ行って支度をしなさい」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして双方そうほうとも、どろだらけになり、やがてまでがだらだらながしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「もしそうだとすると」とゴルドンは、双方そうほうあらそいをなだめながら
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
もともと二人でする事を一人で兼ねるむりな芸だからしまいには「偉大なる暗闇」も講義の筆記も双方そうほうともに関係がわからなくなった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなようなことで、つねに時間じかんから、双方そうほうあらそいがえませんでした。そのうちに、ふとしたことから、おつのほうの時計とけいこわれてしまいました。
時計のない村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「米連と欧弗同盟とは、宿敵です。ここへ来て双方そうほう刃物をふり上げているのに、今更、どうして手を握れましょう」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ただいまのこと、一同評議ひょうぎ結果けっか、これはやはり御岳みたけ神慮しんりょにおまかせいたすのがとうぜんであろうという意見いけんに一けつしたが、双方そうほうごいぞんはないであろうか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば一つのかめかもした酒、一つのこしきした強飯こわめし、一つのうすもちや一畠のうり大根だいこんを、分けて双方そうほうの腹中に入れることは、そこに眼に見えぬ力の連鎖を作るという
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、泰軒は忠相のびんに、忠相は泰軒のひげに、初霜に似た白いものをみとめて、何がなしにこころわびしく感じたのであろう。双方そうほうふっと黙りこんで燭台の灯影に眼をそらした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と堀口内藤、双方そうほうこわい顔をして身をもがいている中に授業のかねが鳴ってしまった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たがいに塾そのものの内容をいっそう充実じゅうじつさせるためにも、また、双方そうほうの塾生が地方に帰ってから気持ちよく提携ができるようにするためにも、今後は二つの塾がもっと連絡を密にする必要がある
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これには双方そうほうともたいへんにこまき、なんとか工夫くふうはないものかと、いろいろ相談そうだんかさねましたが、もともとおとこほうでもおんなってり、またおんなほうでもおとこきだったものでございますので
二人は双方そうほうで互に認識したように、しだいに双方から近づいて来る。余が視界はだんだんちぢまって、原の真中で一点のせまき間にたたまれてしまう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
博士の方にも、また各村の住民諸君の方にも、今回の事件についてそれぞれ言い分はあると思うが、ここで水に流して、双方そうほう仲よくやってもらいましょう。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、長安のほうに渡すのが至当しとうか、五菩薩ぼさつ仮名けみょうをつかってでてきた者にわたしたほうがいいものか、双方そうほうのあいだにはさまって、まったくとうわくの顔色だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
双方そうほうともよけいな話にならないであろうと、磯五もいっしょに捜しに出て来たのだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夫婦仲ふうふなかいたって円満えんまんで、双方そうほう親達おやたちたいそうよろこびました。
双方そうほういがみあったが、皆に止められてしまった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こうして、時計とけいによって双方そうほうあらそったのです。
時計のない村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで次郎は双方そうほうの中間に進み出て言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
もう少しで双方そうほうがぴたりと出合って一つに収まるというところで、時の流れが急に向きを換えて永久の中に注いでしまう。原口さんの画筆ブラッシはそれより先には進めない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて双方そうほうの引力の絶対値が等しくなるところへ本艇がはいり込むのだ。そのときは、本を上へ放り上げても、下へおちてこないで、空間の或るところにじっと停ってしまう。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
双方そうほう不動。あごをひいた左膳がかすかに左剣にたるみをくれて、隻眼をはすに棒のように静止したままペッペッと唾を吐きちらしているのは、いつもの癖で、満身の闘志が洩れて出るのだ……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「これが広田先生。高等学校の……」とわけもなく双方そうほうを紹介してしまった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつの間にか、船長ノルマンは、双方そうほうの間へとびだしていた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここの夫婦はいか銀とは違って、もとが士族だけに双方そうほう共上品だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)