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勝手口
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かつてぐち
土の
上に
散らばつてゐる
書類を
一纏にして、
文庫の
中へ
入れて、
霜と
泥に
汚れた
儘宗助は
勝手口迄持つて
來た。
腰障子を
開けて、
清に
気候はいやに
肌寒くなつて、
折々勝手口の
破障子から
座敷の中まで吹き込んで来る風が、
薄暗い
釣ランプの火をば吹き消しさうに
揺ると、
其の
度々、黒い
油煙がホヤを
曇らして
行ちがへに三
之助、
此處と
聞きたる
白銀臺町、
相違なく
尋ねあてゝ、
我が
身のみすぼらしきに
姉の
肩身を
思ひやりて、
勝手口より
怕々のぞけば、
誰れぞ
來しかと
竈の
前に
泣き
伏したるお
峯が
夜に
成つて
板の
間の
娘等が
座敷の
方へ
引かれた
頃勝手口に
村落の
若者が五六
人立つた。
彼等は
婚姻の
夜には
屹度極つた
例の
饂飩を
貰ひに
來たのである。
晝の
間に
用意された
饂飩が
彼等に
與へられた。
掛て
上なと言れてハイと答へなし
勝手口より立出るは娘なる
可し
年齡まだ十七か十八
公松の常磐の
色深き緑の髮は
油氣も拔れど
脱ぬ
天然の
美貌は彌生の花にも増り又
中秋の
新月にも
劣ぬ程なる一個の
佳人身には
栲なる
針目衣を
「九
時十五
分で
御座います」と
云ひながら、それなり
勝手口へ
回つて、ごそ/\
下駄を
探してゐる
所へ、
旨い
具合に
外から
小六が
歸つて
來た。
門と玄関の
間が
一間位しかない。
勝手口も其通りである。さうして裏にも、
横にも同じ様な窮屈な
家が
建てられてゐる。
彼はこそ/\
勝手口から
井戸端の
方へ
出た。さうして
冷たい
水を
汲んで
出來る
丈早く
顏を
洗つた。