割籠わりご)” の例文
生活の資本もとでを森林に仰ぎ、檜木笠ひのきがさ、めんぱ(割籠わりご)、お六櫛ろくぐしたぐいを造って渡世とするよりほかに今日暮らしようのない山村なぞでは
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
花の蜃気楼しんきろうだ、海市かいしである……雲井桜と、その霞をたたえて、人待石に、せんを敷き、割籠わりごを開いて、町から、特に見物が出るくらい。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人が蜜柑畑の中のあぜに腰を下ろして、割籠わりごを開こうとしたときだった。蜜柑の畑の中に遊んでいたらしい子供が声を上げた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
覺ゆるにいつそ宿にて飮むまいかと割籠わりごの支度を座敷へ取寄せ寺に殘りし二人を呼び飮みかけたるまではよかりしが篁村ゑひの𢌞りに分からぬ事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
若党使僕こもの五人を連れ他に犬を一頭曵き、ひさごには酒、割籠わりごには食物、そして水筒には清水を入れ、弓之進はで立った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マンションともいえるような宏壮な洋館をしめ、伊那の奥から引いてきたまさ葺の山家やまがにひきこもり、メンバという木の割籠わりごからかき餅をだし、それを下物さかなにして酒を飲みながら
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蒲公英たんぽぽの咲く川堤かわどてに並んで腰を打ちかけ、お宮の背後うしろから揚る雲雀ひばりの声を聞きながら、銀之丞が腰のふくべと盃を取出せば、千六は恥かしながら背負うて来た風呂敷包みの割籠わりごを開いて
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ヘイ水揚ものも御座りましたが夫も大略あらかた結了かたづいて少のひまを得ましたより參りしわけも外ならず時も彌生やよひの好時節上野隅田すみだの花も咲出さきいで何處も彼所もにぎはふゆゑ貧富ひんぷを問ず己が隨意まゝ割籠わりごを造り酒器さゝへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
咄嗟とっさあいだに思案をさだめて、腰に提げたる割籠わりごから食残くいのこりの握飯を把出とりだして、「これをるから手伝って担いでれ。」と手真似で示すと、𤢖も合点がてんしたと見えて悠々と材木を担ぎ出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白雲は、どっこいしょと腰を据え直し、持参の割籠わりごを開きにかかりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
歸りは鬼子母神のお樂の茶店へ寄つて、持參の割籠わりごを開いて來たのです。
或一年あるひとゝせはるすゑかた遠乗とほのりかた/″\白岩しらいはたふ見物けんぶつに、割籠わりご吸筒すゐづゝ取持とりもたせ。——で、民情視察みんじやうしさつ巡見じゆんけんでないのがうれしい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
または土足のまま茶屋の囲炉裏いろりばたに踏んんで木曾風きそふうな「めんぱ」(木製割籠わりご)を取り出す人足なぞの話にまで耳を傾けるのを楽しみにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
書いてしまうと、彼はその小さい紙片をくるくると丸めて、真中に置いてあるからになった割籠わりごふたの中に入れた。が、入れた瞬間に、苦い悔悟が胸の中に直ぐ起った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
百人にもあまる武士たちが、焚火を焚いたり割籠わりごをたべたり、武器の手入れなどをやりながら
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帰りは鬼子母神のお楽の茶店へ寄って、持参の割籠わりごを開いてきたのです。
三人この処に、割籠わりごを開きて、且つ飲み且つおおいくらう。その人も無げなる事、あたかも妓をかたわらにしたるがごとし。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
檜木笠、めんぱ(木製割籠わりご)、お六櫛ろくぐし、諸種の塗り物——村民がこの森林に仰いでいる生活の資本もとでもかなり多い。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この頃全軍は木蔭や藪蔭に休み、割籠わりごをあけて腹ごしらえをしていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
書いたやつは、小さく折って、この割籠わりごの中に入れてくれ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三人さんにんところに、割籠わりごひらきて、おほいくらふ。ひとげなることあだかかたはらにしたるがごとし。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
船頭おやぢ辨當べんたう使つかあひだ、しばらくはふね漂蕩へうたうながるゝにまかせて、やがて、かれひまして、ざぶりとふなべりあらさまに、割籠わりごむとてみづが、船脚ふなあしよりはながいて、うごくもののないおも
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)