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八方
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はつぱう
奥村氏の家は青銅
色に塗られしものにて、
突出されたる
楼上の
間の
八方は支那
簾に囲はれ、一
間二
間それの掲げられたるより
搜さう、
尋ねようと
思ふ
前に、
土塀に
踞んで
砂利所か、
石垣でも
引拔いて、
四邊八方投附けるかも
分らなかつたんです。……
私は
跳上つて
眼を
放つと、
唯見る、
本船々首正面の
海上に、
此時まで
閃々たる
光は
絶えず
海の
八方を
照しつゝ
既に
一海里ばかり
駛り
去つた
海蛇丸は、
此時何故か
探海電燈の
光パツと
消えて
更にパツと
虚空の
八方に
反射する。
凄まじい
霰の
音、
八方から
亂打つや、
大屋根の
石もから/\と
轉げさうで、
雲の
渦く
影が
入つて、
洋燈の
笠が
暗く
成つた。
波の
重るやうな、
幾つも
幾つも、
颯と
吹いて、むら/\と
位置を
亂して、
八方へ
高く
成ります。
淺草寺の
觀世音は
八方の
火の
中に、
幾十萬の
生命を
助けて、
秋の
樹立もみどりにして、
仁王門、
五重の
塔とともに、
柳もしだれて、
露のしたゝるばかり
嚴に
氣高く
燒殘つた。
家あり、
妻あり、
眷屬あり、いろがあつて、
金持で、
大阪を
一のみに、
停車場前を、さつ/\と、
自動車、
俥、
歩行くのさへ
電車より
疾いまで、
猶豫らはず、
十字八方に
捌ける
人數を
月夜の
陰、
銀河の
絶間、
暗夜にも
隈ある
要害で、
途々、
狐狸の
輩に
奪ひ
取られる、と
心着き、
煙草入の
根附が
軋んで
腰の
骨の
痛いまで、
下つ
腹に
力を
籠め、
気を
八方に
配つても、
瞬をすれば