住居ずまい)” の例文
ともかくその村落都邑の場末の空地にでも小屋住居ずまいをして、土着の人々に仕事をさせてもらって、生活せねばならぬことになります。
この二人は、母の父母で、同家ひとついえに二階住居ずまいで、むつまじく暮したが、民也のもの心を覚えて後、母に先だって、前後して亡くなられた……
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お坊さん、左様なら、おまえさんが、島にしんぼうできなかったとおなじこと、あたくしも、あなぐら住居ずまいは、いや、いや、いや。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
お父さまはお父さまで、アパート住居ずまいなんかなすっておしまいになる。他の親類の人だってむろん、前を通っても声もかけない。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
その手紙には、自分は今旅舎やどや住居ずまいの境遇であるから、式に出ることだけは見合せる、万事兄上の方で宜敷よろしく、三吉にも宜敷、としてあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「等持院寓居」というのは、召波がその等持院の一間か、あるいは境内けいだいの小庵か何かを借りて、其処そこ住居ずまいとしておったのであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
婚礼の事は延ばせても君が家だけ早く持っておかんと中川君の両親が郷里くにから来た時下宿屋住居ずまいの人に嫁に遣るとも言いにくし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それに、もう、あの人も相当年輩、世間的の地位も立派にあるのに、今日といえども、まだ微々たる借家住居ずまいをしているようでは気の毒だ。
折からちょうど、よろいの渡しの附近に、手頃な借家があいたので、そこへ移って、一軒構えるという程でもないが——一人住居ずまいがしてみたい。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんな窮屈な二階住居ずまいで、お産が軽ければようござんすけれど、何しろ初産のことですから、どんな間違いがないとも限りませんもの。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……たしか只今は江戸住居ずまいで。どうともしてお探しし、お逢いしたいのでございますの。……ようございますわね、泥棒は。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
渋谷のさびしい奥に住んでいる詩人夫妻の住居ずまいのことなどをも想像してみた。なんだか悲しいようにもあれば、うらやましいようにもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
宗助と御米は一週ばかり宿屋住居ずまいをして、それから今の所に引き移った。その時は叔父夫婦がいろいろ世話を焼いてくれた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母が再縁いたしますと、養父が自儘じままな町住居ずまいをしているような、道楽者の武家でして、私は十六の年、小石川水道町で踊の師匠をはじめました。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは、祖母が一人住居ずまいしている東北の田舎だ。そこなら、佃も承知するに違いなかった。彼女は、仕事をしたいという理由で、佃の承諾を得た。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此の事は山家ではあるし、事なく済みましたが、此方こっちは急ぐ旅でないからきずなおる間逗留して下さいと云われ、おやま山之助二人暮しの田舎住居ずまい
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
舞台は、上手かみて障子内に蚊帳かやを吊り、六枚屏風を立てて、一体の作りが浪人住居ずまいの体。演技はすでに幕切れに近かった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
箱根の湯本で湯治とうじしている時にかれた二人の縁が、本郷の妻恋坂の雨やどりで芽ぐみ、その後、自分は京の島原の生活から花園のわび住居ずまい、京都
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
関白家のさむらい織部清治おりべきよはるはあくる日すぐに山科郷へゆき向かって、坂部行綱の侘び住居ずまいをたずねた。思いも寄らぬ使者をうけて、行綱もおどろいた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
田舎住居ずまいの富人が、一人子をオックスフォードへ教育にやって、二、三年して学校休みに帰宅した、一夜食事前に、その子、我日常専攻した論理学で
雲雀ひばりは鳴いて居たが、初めて田舎のあばら住居ずまいをする彼等は、大穴のあいた荒壁あらかべ、吹通しの床下ゆかした建具たてぐは不足し
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
五十ばかりになって一人住居ずまいをしている後家ごけさんが、ひる過ぎに近所まで用足しに行って帰って来ると、開け放しにしておいた自分のうちの座敷のまん中に
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
住居ずまいがようやく整った形式を備えるようになったころは、もう五月雨さみだれの季節になっていて、源氏は京の事がしきりに思い出された。恋しい人が多かった。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今まで借家住居ずまいをしていた人が、自分の住宅を新築でもしようということは、その家庭の物質的のみならず精神的生活の眼立った時期を劃する一つの目標である。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女子衆をんなしゆ達にあとあとまでうらやまれしも必竟ひつきやうは姉さまの威光ぞかし、我れ寮住居ずまいに人の留守居はしたりとも姉は大黒屋の大巻、長吉風情ふぜいけを取るべき身にもあらず
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一人で下宿住居ずまいをしていて、百五十円の月給を貰っていたのですから、私の生活は可成り楽でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただ私は、大阪生れの、東京住居ずまいである為に、或は、公平にも見えるし、或は偏頗へんぱになれもする。都合によっては、一方へ偏したり——多分、誰よりも、偏頗になりえられる。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
或人が、さぞ不自由でしょうといたら、何にも不自由はないが毎朝虎子おかわを棄てに行くのが苦労だといったそうだ。有繋さすがの椿岳も山門住居ずまいでは夜は虎子の厄介になったものと見える。
じょうに六じょうの二は、せまいようでも道具どうぐがないので、ひと住居ずまいにはひろかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
楽隠居らくいんきょにしてもらつたところで、また、がたんと貧乏住居ずまいちたのだつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
長い間情趣のないひと住居ずまいに飽きていた私は、しばらくの間でも女の家にいた間のしっとりした生活の味が忘られず、出来ることならばすぐまた女のところへ行きたかったのだが、女は九月の初めに
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
彼が親の家を出て、アパート住居ずまいをしているのも、女出入に都合が好いためだと聞いていたが、実際はそればかりではなかったのかも知れない。考えれば疑わしい点はいくらでも出て来るのだろうが。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
梶の留守の間初めて村住居ずまいをすることになったこの子供が、ある日村の大きな学校通いの子供たちから取り包まれ、皆から石を持って迫られても逃げないでじっとしていた話を芳江から聞かされると
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
橋の下の小屋住居ずまいに、朝夕眼をはなしたことのない壺。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
算用さんようにうき世を立つる京住居ずまい 芭蕉
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうして町住居ずまいをいたします。あなたと一緒に世帯を持って、どのような貧しい生活にでも、投ずることにいたします。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
モデルを職業とする婦人でなしに、あるモジストを相手として楽しく画室住居ずまいするという美術家の噂も出た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここに河原者とは、もと河原に小屋住居ずまいした落伍者のことであります。ゆえにあるいは小屋者ともいいました。田舎で喰いつめた者は、自然都会に流れて来る。
甲府住居ずまい覚束おぼつかなくなっていたところへ、兵馬に説かれたものか、兵馬を説きつけたものか、この人の伴となって江戸へ脱け出そうとするものらしくあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
煩悩ぼんのうほむら、その中での業苦ごうくのがれ難い人間の三界住居ずまい。——それが仏典でいう「火宅」と彼は承知している。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
応用化学の本場である仏蘭西フランス巴里パリードーフィン街四十番地の古ぼけた裏屋敷の二階に下宿住居ずまいをして
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人住居ずまいの相手なしに毎日毎夜まいやさびしくつて暮しているなれば手すきの時には遊びにも来て下され、私はこんながらがらした気なればきつちやんの様な暴れさんが大好き
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二階住居ずまいをして居て、流れの質や両替の方でどうか工夫をして、穴を埋めるようにして上げますと安兵衞が親切に云ってくれたから、親父の方の首尾はおっ着いたが
一時的に仮り住居ずまいとなされたまま年月をお過ごしになった、あまりにも簡単な建物についても
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
母親の富とは大違いな殊勝な心懸こころがけ、自分の望みで大学病院で仕上げ、今では町住居ずまいの看護婦、身綺麗みぎれいで、容色きりょうくって、ものが出来て、深切で、おとなしいので、寸暇のない処を
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、妙なもので、一時に纏まったものを出して強いても私を家持ちにさせて下すった平尾氏の御親切がなければ、私はその後幾年経っても借家住居ずまいでいたかも知れません。
下宿屋住居ずまいも不自由とて去年あらたに家を借り下女を雇いて世帯を任せしがこれも何かに不便多く、国元より妹を呼寄せて女房の出来るまで家事を任せき口あらば東京にて嫁入よめいりさせん下心。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それでいまだに一人で下宿住居ずまいをして停車場へ通勤している。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仏蘭西フランスの婦人と結婚して六七年も巴里に住むという彫刻家にも逢った。亜米利加アメリカの方から渡って来て画室住居ずまいするという小柄な同胞の婦人の画家にも逢った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たださえさびしい女住居ずまいな上に、宵には、あんないまわしい乱暴をされ、その後で、慰めてくれる立場のお米がこんどは地位をかえて、妙にすねてしまったので
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)