たん)” の例文
椿岳の泥画というは絵馬や一文人形いちもんにんぎょうを彩色するに用ゆる下等絵具の紅殻べにがら黄土おうどたん群青ぐんじょう胡粉ごふん緑青ろくしょう等に少量の墨を交ぜて描いた画である。
白いあぎとたんの如き唇——もっと深くさし覗くとりんとした明眸めいぼうが、海をへだてた江戸の空を、じっとみつめているのであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お照、お前がおいらの娘でなくって、もしかこれが色女いろおんなだったら生命いのちも何もいらないな。昔だったらたんさんという役廻りだぜ。ははははは。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もと倉庫か何かであつたむさい地下室を、すつかり白とたんと緑の配色で美しく塗直し、舞台の電灯の装置から卓や椅子までがすべて新しく出来て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
生壁色なまかべいろの地へ、げたたんと、薄いで、絵だか、模様だか、鬼の面の模様になりかかったところか、ちょっと見当のつかないものが、べたにいてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
詩人しじんこれでは、鍛冶屋かじや職人しよくにん宛如さながらだ。が、そにる、る、りつゝあるはなんであらう。没薬もつやくたんしゆかうぎよく砂金さきんるゐではない。蝦蟇がまあぶらでもない。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けだし天女ここに嘆き、清躯せいく鶴のごとき黄巾こうきんの道士がきたって、ひそかにたんを練り金を練る、その深妙境しんみょうきょうをしてここに夢み、あるい遊仙ゆうせんおかと名づけられたものであろう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
すなわち半蔵門外の貝塚かいづかに鎮座ましましていたのですが、時代は徳川お三代の名君家光公のご時世であり、島原以来の切支きりしたん宗徒しゅうとも、長いこと気にかかっていた豊臣とよとみの残党も
この声と共にたんとうを主に凡そ五百騎が岸にくつわを並べて今にも躍りこもうとした。
あっしゃァ質屋しちやしちと、万金丹まんきんたんたんだけしきゃけやせんが、おせんは若旦那わかだんなのお名前なまえまで、ちゃァんと四かくけようという、水茶屋女みずぢゃやおんなにゃしいくらいの立派りっぱ手書てがき。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
たけなす髪を二つに分けてつのに作り、顔に朱をさし、身にたんを塗り、鉄輪かなわをいただいてその三つの足に松をともし、松明たいまつをこしらえて、両方に火をつけ、口にくわえて、夜更け人定まって後
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といいながら門の中へ這入って見ると、木連格子きつれごうしに成っている庵室で、村方の者が奉納したものか、たんで塗った提灯が幾つも掛けてあります。正面には正観世音しょうかんぜおんと書いた額が掛けてあります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
沙漠はたんの色にして、波漫々まん/\たるわだつみの
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たんのごとき口を開いた。振り込んだ錫杖の下、白衣はあけと思いこんだ。ところが男は、ついと、横に移っていた。静かに腰の戒刀かいとうへ手をかけて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常に春信の色彩軟かき調和を慕ひて不透明なる間色かんしょくを用ひまた時として湖龍斎こりゅうさいに見るが如き淡き透明なるたんを点ず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「私の家は日本中サとえば豪気だが、どことさだまって屋根は持たぬ。差当り四谷よつや近辺の橋の下で犬と寝ている女乞食。」「え!」「たんと申す、お転婆さ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓が多い所為せゐで堂内の明るいのは難有ありがたさを減じる様に思はれた。塔の正面のたんを塗つた三ヶ所の汚れた扉は薄ぐろく時代の附いた全体の石づくりと調和して沈静の感を与へた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「それからお前さん方、熊谷様はしの党だか、たんの党だか御存じか」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
沙漠はたんの色にして、波漫々まんまんたるわだつみの
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
あたりをみると、いつか夕暮ゆうぐれらしい色が、森や草にはっていた。こずえにすいてみえる空の色も、たん刷毛はけでたたいたように、まだらなべにまっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然れども当時の板画はことごとく単色の墨摺すみずりにして黒色こくしょく白色はくしょくとの対照を主とし、これにたん及び黄色おうしょく褐色かっしょく等を添付したれども、こは墨摺のあとに筆を以て補色したるものなるが故に
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
広額こうがく濶面かつめん、唇はたんのようで、眉は峨眉山がびさんの半月のごとく高くして鋭い。熊腰ゆうようにして虎態こたい、いわゆる威あってたけからず、見るからに大人の風を備えている。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、髪は、冠をとばし、髯はさかしまに分かれて、たんの如き口を歯の奥まで見せた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょくがあったら、その顔はたんのように燃えていたろう。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)