まゆずみ)” の例文
吉原江戸町三丁目佐野槌屋のかかえ遊女まゆずみ、美貌無双孝心篤く、父母の年忌に廓中そのほか出入りの者まで行平鍋ゆきひらなべを一つずつ施したり
一色いっしきの海岸にうち寄せる夕浪がやや耳に音高く響いて来て、潮煙のうちに、鎌倉の海岸線から江の島がまゆずみのように霞んでいる。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眉ニまゆずみまぶたニアイ・シャドウヲ着ケ、フォールス・アイラッシュデ附ケ睫ヲ着ケ、ソレデモ足リナイデマスカラーデ睫ヲ長ク見セヨウトスル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、仮死したままうごかないまゆずみと、いつぎぬにつつまれた高貴さとに、女性美の極致を見たように茫然と打たれながら
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに休んでから、それとなく、五人目の姫の顔を差覗さしのぞくものもあった。けれども端然としていた。まゆずみの他に玲瓏れいろうとして顔に一点の雲もなかった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車は情なくして走り、一たいの緑を成せるブレンタの側を過ぎ、垂楊の列と美しき別業べつげふとを見、又遠山のまゆずみの如きを望みて、夕暮にパヅアに着きぬ。
顔も今では格段に、美しい器量とは思われない。頬紅やまゆずみを粧っていても、往年の麗色を思わせるのは、細い眼の中に漂った、さすがにあでやかな光だけである。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
湖の左手には、まゆずみをグッとひきのばしたように、蘇提そてい延々えんえんと続いていた。ややその右によって宝石山ほうせきざんの姿がくっきりと盛上り、保叔塔ほしゅくとうらしい影が、天をしていた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
打見うちみところ年齢とし二十歳余はたちあまり、かお丸顔まるがおほうで、緻致きりょうはさしてよいともわれませぬが、何所どことなく品位ひんいそなわり、ゆきなす富士額ふしびたいにくっきりとまゆずみえがかれてります。
三平は鏡をのぞきながらそこにあるお白粉しろいを真白に塗り付けた。まゆずみで眉と生え際を塗った。お神さんの着物を着て帯を締めた。次にスキ毛を頭に載せて手拭いを冠った。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
公子のほうは、平安季世の自信と自尊心を身につけた藤原一門の才女の典型で、膚の色は深く沈んでまゆずみが黒々と際立ち、眼は淀まぬ色をたたえて従容と見ひらかれている。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まゆずみを施し、紅粉を用い、盛んによそおいを凝らして後、始めて美人と見られるのはそれはほんとうの美人ではない、飾らず装わず天真のままで、それで美しいのが真の美人だ。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
吉原に火災があると、貞固は妓楼ぎろう佐野槌さのづちへ、百両に熨斗のしを附けて持たせて遣らなくてはならなかった。また相方まゆずみのむしんをも、折々は聴いて遣らなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「嘘よ、お正月の歌がるたをした時、負けたんで額に墨でまゆずみを描かれたからよ。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
カ氏はごうを煮やして大きなまゆずみこしらえた印度女優のブロマイドを持ち出してきた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それはまゆずみで画いた眉の細長く曲っていて美しい、そして小さな足に鳳凰頭ほうおうとうの靴を穿いていたが、その美しいことは嬌娜に劣らなかった。孔生は大いに悦んで公子に媒妁ばいしゃくをしてくれと頼んだ。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しばらくして東の空金色こんじきに染まり、かの星の光おのずから消えて、地平線の上に現われし連山の影まゆずみのごとく峰々に戴く雪の色は夢よりも淡し、詩人が心は恍惚こうこつの境にけ、その目には涙あふれぬ。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
右に青い海を隔てて、まゆずみのようにかすむ山を主従がながめて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日向ひゅうがの連山のいくつかが、断続してそのまゆずみを描く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
一色の海岸にうち寄せる夕浪ゆうなみがやや耳に音高く響いて来て、潮煙のうちに、鎌倉の海岸線から江の島がまゆずみのやうにかすんでゐる。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
金揉きんもみ烏帽子にまゆずみの白拍子化粧がまたなく似合って哀しい胸を、そのまま脂粉で顔に描き現したもののように見えた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひそみもやらぬまゆずみを、きよろりとながら、乱髪抜刀の武士さむらいも向きかはつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鏡を覗きながら眉と、ぎわを念入りにまゆずみき上げた。手首と足首を爪先まで白くする事も忘れなかった。それからお神さんの下着を着て昼夜帯を胸高に締め白い襟を思い切り突越した。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ、そこまではまず好いとして、おさげ髪、額にまゆずみ
まゆずみ夢子 歌劇女優
眉は、まゆずみで描いたように、濃く強く見えるほど、凄まじいその相好そうごうの皮膚は、冴えて、血の気も見えなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふツくりあをく、つゆにじんだやうに、手巾ハンケチしろいのをとほして、土手どてくさ淺緑あさみどりうつくしくいたとおもふと、いつツ、上﨟じやうらふひたひゑがいたまゆずみのやうな姿すがたうつつて、すら/\と彼方此方かなたこなたひかりいた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まゆずみ、粉白粉なぞを代る代る取上げて、身体各部の極く細かい色の変化を似せて、大小の黒子ほくろまでを一つ残らずモデルの通りに染め付けた上に、全身の局部局部の毛を床の上の少女と比較しつつ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三位さんみつぼね、阿野廉子やすこは、仰せと聞くと、いま夕化粧もすましたばかりなのに、もいちど櫛笥くしげへ入って、鏡をとりあげ、入念にまゆずみ臙脂べにをあらためてから立った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、﨟丈ろうたけたまゆずみ恍惚うっとりと、多一の顔をみまもりながら
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稚子輪ちごわに結った髪も、曙染あけぼのぞめたもとも、金糸きんしぬいも、紫濃むらごはかまも、みんなおそろいであったが、元より山家の生ればかりなので、その袂で汗は拭く鼻くそはこする、せっかく化粧して貰った白粉も、まゆずみ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
墨もてまゆずみを描く、と聞く。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)