あん)” の例文
「菓子は、あんこの入つた大きい打物ですよ。その裏に穴でもあけて、石見銀山を仕込んだひにや、ちよいとわかりませんよ、親分」
いしくもまをされた。……のこらずつけやきのおあつらへは有難ありがたい、とおもふと、はうのふちをあかくしながら、あんこばかりはちつくすぐつたい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水は黄色く濁った全くの泥水で、揚子江ようすこうのそれによく似ている。黄色い水の中に折々あんのような色をした黒いどろどろのものも交っている。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はその五拾銭で、ある週刊雑誌の増刊号とあんパンを買った。その週刊雑誌に載っていたある小説が、そのときの私の気持を随分柔げてくれた。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
れがあんこのたねなしにつていまからはなにらう、直樣すぐさまかけてはいたけれど中途なかたびきやくことはれない、うしような、と相談そうだんけられて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それから長命寺の桜餅は、——勿論今でも昔のやうに評判のいことは確かである。しかしあんや皮にあつた野趣やしゆだけはいつか失はれてしまつた。……
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
牛部屋のかげで、山茶花が白く咲くころに、松吉、杉作のうちでは、あんころ餅をつくりました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「おつたは本當ほんたうしうとくしなかつたさうだな、自分等じぶんらはうあんへは砂糖さたうれてもしうとはうへは砂糖さたうれなかつたなんてしばらまへいたつけが」内儀かみさんはひとり低聲こごゑにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小供の食いこぼした麺麭パンも食うし、餅菓子のあんもなめる。こうものはすこぶるまずいが経験のため沢庵たくあんを二切ばかりやった事がある。食って見ると妙なもので、大抵のものは食える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまりそれがへそなのである、束髪パンというのは、イギリス巻のまげの形をしているのに所々にやはり干葡萄が入っている、大パンというのはあんパンの形の大きいので饀ぬきである。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
土器色かわらけいろになった、お祖母ばあさんの時代に買ったのを取出してチョク/\しめるんでしょう、実に面白うげす……此のうちあんころ餅が旨いからわたくしは七つ食べましたら少し溜飲りゅういんこたえました
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三日の夕食に食べたあんころ餅はたまらなかった。饀は甘く、餅は出来たてでやわらかく、歯で噛む感触あじはたまらなかった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
あんずるに、團子だんご附燒つけやきもつ美味うまいとしてある。鹽煎餅しほせんべい以來このかた江戸兒えどつこあまあまいのをかぬ。が、なにかくさう、わたし團子だんごあんはう得意とくいとする。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その頃ようやく一般に用ひられたと言つても、まだ寶玉の屑のやうに貴かつた白砂糖で作つた打物うちもので、中にあるあんはねつとりして、良い香氣が食慾をそゝります。
おそろしい智惠者ちゑしやだとめるに、なん此樣こんこと智惠者ちゑしやものか、いま横町よこちやう潮吹しほふきのとこあんりないッて此樣こうやつたをたのでれの發明はつめいではい、とてゝ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしあんや皮にあった野趣だけはいつか失われてしまった。……
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これから土産みやげつてく、西片町にしかたまち友染いうぜんたちには、どちらがいかわからぬが、しかず、おのこのところつてせんには、と其處そこあんのをあつらへた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
銅と鉛のあんこに、巧に金を着せたもので、たがねの味も眞物そつくり、裏の後藤の花押かきはんも、墨色が少し惡いかと思ふだけ、素人には眞贋の見當もつきません。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「いまならば、敢て辞さないね。それにいま僕は無性にあんパンが食べたいんだ。」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
だまつて生意氣なまいきくなと何時いつになくらいことつて、れどころではいとてふさぐに、なんなん喧嘩けんくわかとべかけのあんぱんを懷中ふところんで、相手あいてれだ、龍華寺りうげじか、長吉ちようきち
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
本草ほんざうにはまいが、あんずるに燒芋やきいもあんパンは浮氣うはきをとめるものとえる……が浮氣うはきがとまつたかうかは沙汰さたなし。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大丈夫さ、毒は菓子のあんの中だ。これは菓子の上へ目印につけた菓子種だもの」