頑強がんきょう)” の例文
それでも頑強がんきょうなときわ葉で光線をさえぎり、それらトド松の間に散在する濶葉樹に対してたけだけしい勢いで対峙たいじし、圧迫していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あるものだけに注意が向いて、その他には頑強がんきょうの抵抗があって、気が向けられないというような状態におらない事を指すのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女が楽しみも目的もなしにただ生に執着してることを、彼は驚嘆し、何物にも頼らない彼女の頑強がんきょうな道徳心を、ことに驚嘆した。
サン・メーリーの頑強がんきょうな警鐘の響きは、逡巡しゅんじゅんしてる者らを多少奮い立たした。ポアリエ街とグラヴィリエ街とに防寨が作られた。
なお一里ほど先には、井上有景いのうえありかげが千人をもって、南庭瀬みなみにわせの城を頑強がんきょうにかため、国境の道の喉首のどくびを、後生大事と守備しております
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは壁という壁から立ち上がる、妖気ようきでもあるかのように、最初横蔵に発して、さしも頑強がんきょうな彼も、日に日に衰えていった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さすがの悪魔もあまりにも頑強がんきょうな女性の力にあきれ果てて、愛慕あいぼから逆転して憎悪ぞうおへと、第二の手段に移るほかはなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あたしは乗らないわ、だって登りがもうないんでしょう」と千枝子はまだ頑強がんきょうに一人先に立って雪の中を歩いていった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして反動から、より頑強がんきょうな心を持った、神経の太々ふてぶてしい、大胆無法な勇気をもった、真の英雄的なものに憧憬している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もし培養のしかたによって、頑強がんきょうな抵抗力は保存し、しかも実の充実を遂げる事ができればなおさら都合がいい。そういう事は望まれない事であろうか。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
直衛が頑強がんきょうに反対し、そのため甲斐守教信かいのかみのりのぶうとまれて、御代代実録という、藩史編纂へんさんの頭取に左遷された。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「敵も旅順は頑強がんきょうにやるつもりらしいですな。どうも海軍だけではだめのようですな」などと校長が言った。旅順の陥落かんらくについての日が同僚の間に予想される。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と言って、それを金にかえて目前の窮迫から救われようとする時があると、末摘花は頑強がんきょうにそれを拒む。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
頑強がんきょうにおし黙って駕籠を急がせながら、やがて乗りつけたところはその人形町名どころの十軒店じゅっけんだなです。
X号はこの仕事にかかるとき、谷博士に手つだえと命令したが、博士は首をふって、頑強がんきょうにこばんだ。それでX号はやむなく彼ひとりで仕事をはじめたのであった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はく働くと私はつくづく感心した。それと同時に、彼を駆逐くちくすることは所詮しょせん駄目だめだと、私はあきらめた。わたしはこの頑強がんきょうなる敵と闘うことを中止しようと決心した。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時はまだまだ諏訪勢の陣は堅く、樋橋に踏みとどまって頑強がんきょうに抵抗を続けようとする部隊もあったが、くずれはじめた全軍の足並みをどうすることもできなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういって、問いつめても、女はろくにわけをもいわずただ頑強がんきょうに口をつぐんでいるばかりである。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あのはてしない戦線せんせんで、あるときは、にごったおおきなかわわたり、あるときは、けわしい岩山いわやまをふみこえて、頑強がんきょうにていこうする敵兵てきへいと、すさまじい砲火ほうかをまじえ、これを潰滅かいめつ
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いやだ……帰ろう……。」子供は頑強がんきょうに言い張った。そしてかんの募ったような声を出して泣き叫んだ。終いには腰の立たない体をベッドからね出して、そこらをのた打ちまわった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けれどもかれはなかなか頑強がんきょうで、その強情ごうじょうにいつも打ち勝つことは困難こんなんであった。
そのくせ、靄のようにとりとめもなく、それでいて変に頑強がんきょうな行為がそこにあって、それが苛立いらだたしいほど饒舌じょうぜつなものに感じられ、わずらわしくてならなかった。とにかく酒でも呑もうと思った。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼らのうち頑強がんきょう獰猛どうもうな者は自殺してしまうし、頑固であっても弱い者は互いに滅ぼし合うだろう、その他のいくじのない不仕合わせな者たちは、われわれの足もとへはい寄って、こう叫ぶのだ
私も実際うれしかったのです。あんなに頑強がんきょうに見えたシカゴ軍があんまりもろく粉砕ふんさいされたからです。う云ってはなんだか野球のようですが全くそうでした。そこで電鈴でんれいがずいぶん永く鳴りました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この頑強がんきょうな敵の中にあって、ワグナーの音楽をはばかりなく演奏し、真に芸術を愛するものの享受に待つためには、理想の芸術殿堂とも言うべき、非営利主義の劇場を作るのほかはないと悟ったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
医師いし島本守しまもとまもるは、はじめは頑強がんきょう犯行はんこう否認ひにんした。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
拝啓柳暗花明りゅうあんかめいの好時節と相成候処いよいよ御壮健奉賀がしたてまつりそうろう。小生も不相変あいかわらず頑強がんきょう小夜さよも息災に候えば、乍憚はばかりながら御休神可被下くださるべくそうろう
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして他の者なら死んでしまってるかもしれないほどの放埒ほうらつと不摂生にも、彼の頑強がんきょうな健康は害されないらしかった。
もしイギリスの近衛の四個中隊と勇敢なベルギーのペルポンシェル師団とが頑強がんきょうに陣地を維持し得なかったならば、その計画は成功していたであろう。
するとまた、更に頑強がんきょうな新手が加わって来た。流木は次第に大きく重くなった。ながい間水に浸されてかちかちになり、時を得て猛然と暴れだしたかのようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
同時にその性状が奇矯ききょう頑強がんきょうである場合が多いから、学者と言っても同じく人間であるところの同学や先輩の感情を害することが多いという事実も争われないのである。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ナポレオンの田虫は頑癬がんせんの一種であった。それはあらゆる皮膚病の中で、最も頑強がんきょうかゆさを与えて輪郭的に拡がる性質をもっていた。けば花弁を踏みにじったような汁が出た。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
局舎内には、警備司令部の塩原大尉を首脳として、司令部付の警報班員が数名いて、最後まで頑強がんきょうに抵抗したが、数十倍に達する暴徒を向うに廻しては、勝てよう筈がなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにしろ、てきはトーチカにじこもり、機関銃きかんじゅう乱射らんしゃして、頑強がんきょう抵抗ていこうするのです。ついに、決死隊けっしたいつのられました。我先われさきにともうたので、たちまちのあいだ定員ていいんたっしたのです。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なかなか頑強がんきょうだ!」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いかなる権威を彼は握ることだろう! 頑強がんきょうな批評家は数年のうちに、(と若い専制者クリストフは考えた、)一般趣味のナポレオンとなることもでき
一方に異議があり、一方に頑強がんきょうがあった。見知らぬ男がジャン・ヴァルジャンに投げ与えた「引っ越せ」という突然の忠告は、非常に彼を脅かして頑固ならしめた。
それでも頑強がんきょうに応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉やりだまにあげられる。迷惑な事である。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分はさすが頑強がんきょうの長蔵さんも今度こそ食いに這入はいるに違なかろうと思った。ところが這入らない。その代りぴたりと留った。見ると腰障子の奥の方では何だか赤いものが動いている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まずかじは大丈夫使える。船底はかなりいたんではいるが、水のもれる心配はまずない。帆は完全といってもよい位に保存されている。小船ボート頑強がんきょうな奴が積んであり、難船の時の用意も出来ている。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしこの記事の筆者は、ビスマルクよりもいっそう頑強がんきょうで、尊敬や恋愛にとらわれない強い人物の一人だった。
熱狂的な頑強がんきょうな政府党であって、時機がこないのに早くも射撃をしたくてたまらなくなり、自分ひとりですなわち自分の中隊で防寨ぼうさいを占領しようという野心に駆られた。
長い間人間の目のかたきにされて虐待されながら頑強がんきょうな抵抗力で生存を続けて来た猫草ねこぐさ相撲取草すもうとりぐさなどを急に温室内の沃土よくどに移してあらゆる有効な肥料を施したらその結果はどうなるであろう。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
案に相違して健三は頑強がんきょうであった。同時に細君の膠着力こうちゃくりょくも固かった。二人は二人同志で軽蔑けいべつし合った。自分の父を何かにつけて標準に置きたがる細君は、ややともすると心の中で夫に反抗した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たえず自制していたので、また頑強がんきょうな力が鬱積うっせきして少しも費やされなかったので、そのためにいらだってきた。するともうどんな馬鹿げた事でもやりかねなかった。
も一人の男は頑強がんきょうに反対の方向をさし示したらしかった。第一の男が向き直った瞬間に、月の光がその顔をすっかり照らし出した。ジャン・ヴァルジャンは十分にジャヴェルの顔を認めた。
しかし単にいろいろの優秀な楽器が寄り集まっただけでは音楽にはならないと同様に、単にいろいろな個性が他と没交渉に各自の個性を頑強がんきょうに主張しているだけでは連句は決して成立しない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
教師の細君たちは皆、多少の料理法を心得ていて、頑強がんきょうに学者ぶってしゃべりたてていた。男たちの方もその問題には同じく趣味を覚えていて、ほとんど劣らないくらいの脳力を示していた。
彼が信じていたことはすべて消散した。自分の欲しない真実が頑強がんきょうにつきまとってきた。今後彼は別の人間とならなければならなかった。突然内障眼そこひの手術を受けた本心の異様な苦痛に悩んだ。
しかしながら事実は曲げ難いものであり、頑強がんきょうなるものである。