トップ
>
静謐
>
せいひつ
ふりがな文庫
“
静謐
(
せいひつ
)” の例文
旧字:
靜謐
恋の灼熱が通って、徳の調和に——さらに湖のような英知と、青空のような
静謐
(
せいひつ
)
とに向かって行くことは最も望ましい恋の上昇である。
女性の諸問題
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
客同志見知り越しのものもある。お互いに目礼はするが言葉に出して期待の時間の
静謐
(
せいひつ
)
を破りはしない。ただ腹の中で互いに想う。
食魔に贈る
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
東国の逆乱もすみやかな
静謐
(
せいひつ
)
を見、相共によろこばしい。さっそく将士の軍功の
施与
(
せよ
)
は、
綸旨
(
りんじ
)
の下に、朝廷で
宛
(
あ
)
て
行
(
おこな
)
うであろう。
私本太平記:10 風花帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ひよつとしたらこの
静謐
(
せいひつ
)
は、ふたたび間近に迫らうとしてゐる
暴風
(
あらし
)
の準備をしてゐるのかも知れぬ。そのひまの片時の安らぎなのかも知れぬ。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
否
(
い
)
なその品行の方正謹直にして、世事に政談にもっとも着実の名を博し、塾中、つねに
静謐
(
せいひつ
)
なるは、あるいは他に比類を見ること
稀
(
まれ
)
なるべし。
慶応義塾学生諸氏に告ぐ
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
▼ もっと見る
「物」のみがもつ無心の
静謐
(
せいひつ
)
、
確乎
(
かっこ
)
たる不動の感覚、言葉のない、しかし有限な一つの暗い
充溢
(
じゅういつ
)
、無責任な物質の充溢だけに任しているのだ。……
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
しかし粛然たる
静謐
(
せいひつ
)
な空気が全
堂宇
(
どうう
)
に
充
(
み
)
ちわたり、これこそ彼が願望したすべてであったと
云
(
い
)
う印象を消し難く残した
ロード・ラザフォード
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
ただ、このひととき、せめて、このひとときのみ、
静謐
(
せいひつ
)
であれ、と念じながら、ふたり、ひっそりからだを洗った。
秋風記
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
これはまるで
嘘
(
うそ
)
のような景色であった。もう空襲のおそれもなかったし、今こそ大空は深い
静謐
(
せいひつ
)
を
湛
(
たた
)
えているのだ。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
聖恩の隆盛なる、実に感激に
勝
(
た
)
えず。我もまた信義を以てこの変替無き恩義に答え
奉
(
たてまつ
)
り、貴国の封内をして
静謐
(
せいひつ
)
に、庶民をして安全ならしめんと欲す。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
諸口さんの
嫋々
(
じょうじょう
)
とした、いってみれば古典的
静謐
(
せいひつ
)
の美に対して、マダム丘子のそれは烈々としてすべてを焼きつくす情獄の美鬼を思わせるものであった。
蝱の囁き:――肺病の唄――
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
だがまあ宜しいと僕は思う所あって云ったのです。ボードレールも詩の言葉で、おー
静謐
(
せいひつ
)
よ静謐よと憬れました
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
突然、その深い
静謐
(
せいひつ
)
のうちに、新しい音響が起こった。天来の
聖
(
きよ
)
い名状すべからざる響きで、前の音が恐ろしかったのに比べて実に
歓
(
よろこ
)
ばしい響きであった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
先生はこれを老人の遊びなどと笑つて居られたが、実に
静謐
(
せいひつ
)
な精到な学風のやうな感じを得て帰り帰りした。
露伴先生
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
言いたいことは山ほどありながら、父様の研究の
静謐
(
せいひつ
)
を乱すのは差し控えておこうとする心が、じきに頭を
擡
(
もた
)
げてこの頃ではどんなことにもすぐ我慢ができる。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
かれの眼底にはなお紙片は去らずに、その青い窓のある家々の扉を開いて、扉の内部にあるあの世の平和と
静謐
(
せいひつ
)
と規律と、そうして
其処
(
そこ
)
にある人物を描いて見せた。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
今までの
静謐
(
せいひつ
)
とは打って変わって、足音、
号令
(
ごうれい
)
の音、散らばった生徒の
騒
(
さわ
)
ぐ音が校内に満ち渡った。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
先日中は
静謐
(
せいひつ
)
な別館で殊の他御世話様になりました。お仕事も順調に進行いたしましたことは一重に吉田様、奥様の御力尽くしのゆえと存じ、厚く御礼申し上げます。
雨の玉川心中:01 太宰治との愛と死のノート
(新字新仮名)
/
山崎富栄
(著)
静謐
(
せいひつ
)
な、実に活々とした自然に対する憧れは、都会の貧弱な貸家に住って一層痛烈なものとなる。
日記:09 一九二三年(大正十二年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
この思いやりの心、むずかしく言えば博愛心、慈悲心、相愛心があれば世の中は必ず
静謐
(
せいひつ
)
で、その人々は
確
(
たし
)
かに無上の幸福に
浴
(
よく
)
せんこと、ゆめゆめ疑いあるべからずだ。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
当時世の中もまだ充分に
静謐
(
せいひつ
)
になったというではなく明治新政の手の附け初めで、何となく騒々しい時で、前から多少とも物持ちの家でも財産を減らさぬようにと心掛け
幕末維新懐古談:51 大隈綾子刀自の思い出
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
太子の強烈な信念が、わずかに時の
静謐
(
せいひつ
)
を保っていたのであったろう。威徳の前には諸王はむろんのこと外戚たる馬子達もひたすら
畏
(
おそ
)
れ慎しみ、常に翼賛申していたという。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
午後四時過ぎの涼しい
静謐
(
せいひつ
)
が其処にはあった。帆綱や
欄干
(
てすり
)
やケビンの何かの影も映っていた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
声は再、
寂
(
しず
)
かになって行った。独り言する其声は、彼の人の耳にばかり聞えて居るのであろう。
丑刻
(
うし
)
に、
静謐
(
せいひつ
)
の頂上に達した現し世は、其が過ぎると共に、
俄
(
にわ
)
かに物音が起る。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
戦殃
(
せんおう
)
の最盛時でさえ、三千人の学徒が在学していたというが、国中が斬りつ斬られつ、血みどろな奔走をしているとき、上州の片隅に勉学に沈潜する
静謐
(
せいひつ
)
な世界が存在したとは
うすゆき抄
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
天下
静謐
(
せいひつ
)
の折柄、そのためにどんな騒ぎが持上がり、諸人の迷惑になろうも知れぬ——
銭形平次捕物控:062 城の絵図面
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
到頭
(
たうとう
)
私はソシアル・ダンスと
紅
(
あか
)
い文字で出てゐる、横に長い電燈を見つけることが出来た。往来に面した
磨硝子
(
すりガラス
)
に踊つてゐる人影が
仄
(
ほの
)
かに差して、ヂャヅの音が、町の
静謐
(
せいひつ
)
を
掻乱
(
かきみだ
)
してゐた。
町の踊り場
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
自然界に於て
猶
(
なほ
)
此事あり、人間の心界何ぞ常に
静謐
(
せいひつ
)
なるものならんや。
「桂川」(吊歌)を評して情死に及ぶ
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
一日のあらゆる心の
静謐
(
せいひつ
)
を
希
(
ねが
)
って、『古今集』『源氏物語』へのおだやかな共感を、桜花や月光の織りなす情緒的な自然へ、そのまま流れこませ、想いうるかぎり甘美な気分の
羅
(
うすもの
)
を織りなすために
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
枯消しつくして、木像かミイラのように
静謐
(
せいひつ
)
である。
胎内
(新字新仮名)
/
三好十郎
(著)
老いたる者をして
静謐
(
せいひつ
)
の
裡
(
うち
)
にあらしめよ
在りし日の歌:亡き児文也の霊に捧ぐ
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
絶えず/\壮観と、
静謐
(
せいひつ
)
に渇する彼は
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
それが天下
静謐
(
せいひつ
)
の前提です。北条氏にも百年安泰の大計です。……その上で、どんな政治的な
御折衝
(
ごせっしょう
)
も可能ではありませんか。
私本太平記:06 八荒帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
無限に繊細で微妙な器と、それを置くことの出来る一つの絶対境を彼は夢みた。
静謐
(
せいひつ
)
が、心をかき乱されることのない安静が何よりも今は慕わしかった。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
人はあるいは彼はたましいの
静謐
(
せいひつ
)
なき荒々しき狂僧となすかも知れない。しかし彼のやさしき、美しき、礼ある心情はわれわれのすでに見てきた通りである。
学生と先哲:――予言僧日蓮――
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
農は粗服を用い粗食を
喰
(
くら
)
い汗を流し耕作を
掙
(
かせ
)
ぎ、工はその職を骨折り、商人は御
静謐
(
せいひつ
)
の
御代
(
みよ
)
どもに正路の働きにて、
辱
(
かたじけな
)
くも御国恩を忘れざるよう致すべきの処
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
もし自分が美貌だったとしても、それは
謂
(
い
)
わば邪淫の美貌だったに違いありませんが、その検事の顔は、正しい美貌、とでも言いたいような、聡明な
静謐
(
せいひつ
)
の気配を
人間失格
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
墓地の空気に交じった冬の
靄
(
もや
)
であり、恐るべき一種の平安さであり、何ものをも
呼吸
(
いき
)
の
音
(
ね
)
をさえも聞き得ない
静謐
(
せいひつ
)
であり、何物をも幻の姿をさえも見得ない暗黒であった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
「一応
尤
(
もっと
)
もだが、天下
静謐
(
せいひつ
)
の折柄、無理な
詮索
(
せんさく
)
をして江戸から切支丹邪教徒を挙げるのは面白くない。原主水一味の刑死以来、久しく
血腥
(
ちなまぐさ
)
い邪宗徒の仕置が絶えているのだから——」
銭形平次捕物控:135 火の呪い
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
それが一日二日で通過してしまうと、町はしんとしてもとの
静謐
(
せいひつ
)
にかえった。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
平和とは内攻した血の創造の日々である。対外的には
静謐
(
せいひつ
)
であろうと、一歩国内の深部に眼をむけると、そこには相変らぬ氏族の
嫉視
(
しっし
)
と陰謀と争闘があり、
煩悩
(
ぼんのう
)
にまみれた人間の
呻吟
(
しんぎん
)
がある。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
そしてあれならば大名などが
静謐
(
せいひつ
)
な部屋に置いて
落著
(
おちつ
)
いて鑑賞することも出来るし、
光琳
(
くわうりん
)
、
抱一
(
はういつ
)
の二家が
臨摸
(
りんぼ
)
して後の世まで伝はつてゐるのもさういふわけ
合
(
あひ
)
で、肉体的に恐ろしくないからである。
雷談義
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
なんという
静謐
(
せいひつ
)
さ! なんというなごやかな天と波……。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
お立てなさらぬよう、
静謐
(
せいひつ
)
にお願いいたします
顎十郎捕物帳:16 菊香水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
七月の
静謐
(
せいひつ
)
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
君側の
奸
(
かん
)
を一掃してのうえでなら、微臣たりとも海内
静謐
(
せいひつ
)
のためどんな御奉公も決していとう者ではない。どうかご推量を仰ぎたい。
恐惶謹言
(
きょうこうきんげん
)
私本太平記:10 風花帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一、世に誉れ高くまします父君の治世久しく多福を
膺受
(
ようじゅ
)
し給いしを
眷顧
(
けんこ
)
せる神徳によりて、殿下もまた多福を受け、大日本に永世
疆
(
かぎ
)
り無き天幸を得て、
静謐
(
せいひつ
)
敦睦
(
とんぼく
)
ならん事を祈る。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
「ヘッ、天下は
静謐
(
せいひつ
)
ですよ、——親分におかせられても御機嫌麗わしいようで」
銭形平次捕物控:321 橋場の人魚
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
あまりの沈黙と
静謐
(
せいひつ
)
、
尨大
(
ぼうだい
)
で奇怪な生命力——それに対すると、私は抱擁せずむしろ
狐疑逡巡
(
こぎしゅんじゅん
)
し警戒するのを常とした。生の
讃歌
(
さんか
)
を否定するのではないか——これが私の仏像への
危惧
(
きぐ
)
であった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
昨日も彼はリュックを肩にして、ある知りあいの農家のところまで
茫々
(
ぼうぼう
)
とした野らを歩いていた。茫々とした草原に細い白い路が走っていて、真昼の
静謐
(
せいひつ
)
はあたりの空気を
麻痺
(
まひ
)
させているようだった。
美しき死の岸に
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
静
常用漢字
小4
部首:⾭
14画
謐
漢検1級
部首:⾔
17画
“静”で始まる語句
静
静寂
静粛
静止
静々
静脈
静岡
静坐
静御前
静心