雖然けれども)” の例文
雖然けれども顏の寄麗きれいなのと、體格の完全くわんぜんしてゐるのと、おつとりした姿と、うつくしいはだとに心をチヤームせられて、賤しいといふ考をわすれて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれども心覺こゝろおぼえで足許あしもと覺束おぼつかなさに、さむければとて、三尺さんじやく前結まへむすびにたゞくばかりにしたればとて、ばた/\駈出かけだすなんどおもひもらない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雖然けれどもどう考えても、例えば此間盗賊に白刃はくじんを持て追掛けられて怖かったと云う時にゃ、其人は真実ほんとに怖くはないのだ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
雖然けれども風早學士は、カラ平氣で、まるで子供がまゝ事でもするやうに、臟器をいぢくツたり摘出したりして、そして更に其の臟器を解剖して見せる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれども曳惱ひきなやんで、ともすれば向風むかひかぜ押戻おしもどされさうにる。暗闇やみおほいなるふちごとし。……前途ゆくさき覺束おぼつかなさ。うやら九時くじのにひさうにおもはれぬ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雖然けれども僕等はピュリタンで無いことを承知して貰ひたい。僕は人間なんで、人間には矛盾の多いものだから、從ツて矛盾の行爲もあへてするのさ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
てよ。雖然けれども自分じぶん製作こしらへたざうだ、これが、もし価値ねうちつもつて、あの、おうらより、はるかおとつてたらうする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いさ、おれもそりや何方どつちだツていさ。雖然けれどもこれだけは自白じはくして置く。俺はお前のにく吟味ぎんみしたが、心は吟味ぎんみしなかツた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれどもつぼね立停たちどまると、刀とともに奥の方へ突返つっかえらうとしたから、其処そこで、うちぎそでを掛けて、くせものの手を取つた。それが刀を持たぬ方の手なのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雖然けれども何んとなく物靜な、しんめりとした景色の中に、流の音が、ちよろ/\と響いてゐて、數の知れぬ螢が飛んでゐるところは實に幽邃ゆうえんであつた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれどもおどろくぢやありませんか。突然いきなり、ばら/\と擲附ぶつかつたんですからね。なにをする……もなんにもありはしない。狂人きちがひだつてこと初手しよてかられてるんですから。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雖然けれども其等の物の一つとして、風早學士の心に何んの刺戟も與へなかツた。風に搖れるフラフ、または空を飛ぶ鳥を見るやうな心地こゝちで、冷々として看過した。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
音信おとづれして、恩人おんじんれいをいたすのに仔細しさいはないはず雖然けれども下世話げせわにさへひます。慈悲じひすれば、なんとかする。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おれの方が怜悧れいりになると、お前は涙といふ武器で俺を苦しめるんだからな。雖然けれどもちかことはツて置くが、陰欝いんうつなのは俺の性分で、しよを讀むのと考へるのが俺の生命だ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれども、いざ、わかれるとれば、各自てんでこゝろさびしく、なつかしく、他人たにんのやうにはおもはなかつたほど列車れつしやなかひとまれで、……まれふより、ほとんたれないのであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いゝえ雖然けれども不意ふいだつたら、おげなすつてもんだんでせう。お怪我けがほどもなかつたんでせうのに。」
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雖然けれども妻に對して一種の反抗心を持ツてゐるのは事實だ………此反抗心は弱者が強者に對する嫉妬しつとなんだから、いきほひ憎惡ぞうをの念が起る………所詮つまりおれは妻が憎いのでなくツて、妻の強壯な體を憎むでゐるのだ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雖然けれども襦袢じゆばんばかりに羽織はおりけてたびをすべき所説いはれはない。……駈落かけおちおもふ、が、頭巾づきんかぶらぬ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雖然けれども野路のみち行暮ゆきくれて、まへながれのおとくほど、うらさびしいものはい。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)