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陰影
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かげ
ふりがな文庫
“
陰影
(
かげ
)” の例文
私はその痛みの
行衛
(
ゆくえ
)
を探すかのように、片手で頭を押えたまま、黄色い光線と、黒い
陰影
(
かげ
)
の
沈黙
(
しじま
)
を作っている部屋の中を見まわした。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
はじめは、メディチのヴィナスのように、片手を乳の上に曲げ、他の伸ばしたほうの
掌
(
て
)
を、ふさふさとした
三角形
(
デルタ
)
の
陰影
(
かげ
)
の上に置いた。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
燭台の灯火が大きく揺れ、壁上の
陰影
(
かげ
)
がその瞬間大
蜘蛛
(
ぐも
)
の形を描き出したのは、月子の
貪慾
(
どんよく
)
な心願を映し出したとも云われるのである。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
夫人は
良人
(
おっと
)
の手を振り離そうともしないで、じっとしていた。その蒼ざめた顔には
些
(
すこ
)
しも恐怖の
陰影
(
かげ
)
がない。彼女はしゃんと顔をあげて
犬舎
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
春は
陰影
(
かげ
)
で煮〆たようなキャフェ・マキシムでもなかろう。堅苦しいフウケでもなかろう。アメリカの石鹸臭いアンパはなおさらのことだ。
巴里のキャフェ
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
▼ もっと見る
本所の南、五本松の
浄巌寺
(
じょうがんじ
)
に、庄太郎の
遺骸
(
なきがら
)
を埋めて、今は
陰影
(
かげ
)
と静寂の深い家に、老夫婦は、こうして、ぼんやりすわって来たのだった。
釘抜藤吉捕物覚書:12 悲願百両
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
そして、これは一時的であるかも知れぬが、少なからぬ「疲労」の憔悴が此大気をして一層「悄然」の趣を深くせしむる
陰影
(
かげ
)
を作して居る。
雲は天才である
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
ホロリとするところへくると充分にしみじみとした
陰影
(
かげ
)
をも漂わせ、「おせつ徳三郎」の心中場など、深川木場あたりの宵闇の景色の描写は
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
その山の左右から月と日の光がさしてあたりを照らしています。私には山の
陰影
(
かげ
)
が落ちて光のさしてくることはないのです。
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
神々しい夜だ! 蠱惑的な夜だ! 闇にとざされた森は霊化したもののやうにさゆらぎもせず、厖大な
陰影
(
かげ
)
を投げてゐる。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:05 五月の夜(または水死女)
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
今回の悲劇の起りをよく了解して頂くためには私の生家にまつわって居る恐しい呪いの
陰影
(
かげ
)
から申し上げねばなりません。
呪われの家
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
彼の少年らしくもない、深い
陰影
(
かげ
)
を持った顔は、何時か熱っぽく上気し、激しく心臓から投出される、血潮は、
顳顬
(
こめかみ
)
をひくひくと波打たせていた。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
一概に田舍言葉と言ひますけれども、鄙びた言葉づかひが
柔軟
(
やはらか
)
に働いて東京言葉では言ひ表はせないやうな微細な
陰影
(
かげ
)
までも言ひ表はせるのが有ります。
幼き日:(ある婦人に与ふる手紙)
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
ともすれば置き忘れたその青玉の
眸
(
ひとみ
)
は
微
(
ほの
)
かなタナグラ人形の
陰影
(
かげ
)
から小さな玉虫の眼のやうに顫へて、絶えず移り気な私の心を気遣はしさうに
熟視
(
みつ
)
める。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
たゞ不思議な光が彼の眼に
閃
(
ひらめ
)
き、怪しい
陰影
(
かげ
)
が彼の顏をよぎつたゞけだつた。とう/\彼は口を切つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
熱帯の陽はそこに
赫々
(
かくかく
)
として輝き、白雲は
眩
(
くら
)
めかしく悠々と白光のうちに
泛
(
うか
)
んでいるにもかかわらず、密林は妖しげな
陰影
(
かげ
)
をうつろわせて、天日もなんとなく
仄暗
(
ほのぐら
)
く
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
坂口は苦々しげにその様子を眺めているうちに、フト忘れていた黒い
陰影
(
かげ
)
が脳裡に拡がってきた。
P丘の殺人事件
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
伜彌八郎が唐紙の中へ引つ込むと、入れ代つて椽側から、障子を靜かにあけて、滑るやうに入つて來たのは、肉體的な
陰影
(
かげ
)
を持たないやうな、世にも清らかな乙女でした。
銭形平次捕物控:289 美しき人質
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
その後は、私の夢のなかでも一片の雲の
陰影
(
かげ
)
が射したやうに、もうまるで憶えてゐなかつた。
挿頭花
(新字新仮名)
/
津村信夫
(著)
写生帳には
瓶
(
びん
)
の梅花、水仙、学校の門、
大越
(
おおごえ
)
の桜などがあった。
沈丁花
(
じんちょうげ
)
の花はやや
巧
(
たく
)
みにできたが、葉の
陰影
(
かげ
)
にはいつも失敗した。それから
緋縅蝶
(
ひおどしちょう
)
、
紋白蝶
(
もんしろちょう
)
なども採集した。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
さなきだに燭の光りのそこここに
陰影
(
かげ
)
をつくれるが怪しく物怖ろしげに見ゆる中に、今や落ちかからんずる勢して、したたかなる大きさの岩の人の頭の上に臨めるさま、見るものの胆を冷さしむ。
知々夫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
浮雲の
引幕
(
ひきまく
)
から屈折して落ちて来る
薄明
(
うすあかる
)
い光線は
黄昏
(
たそがれ
)
の如く
軟
(
やわらか
)
いので、
眩
(
まばゆ
)
く照り輝く日の光では見る事
味
(
あじわ
)
う事の出来ない物の
陰影
(
かげ
)
と物の
色彩
(
いろ
)
までが、かえって鮮明に
見透
(
みとお
)
されるように思われます。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
親鸞 (しばらく黙然として目を閉じている。やがて目をひらき、何ものかの影に脅かさるるごとくあたりを見まわす)どこからともなく、わしの魂を
掩
(
おお
)
うてくる、この寒い
陰影
(
かげ
)
は何ものであろう。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
日はもう、よっぽど西にかたよって、丘には
陰影
(
かげ
)
もできました。
タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
なんといふさみしい自分の
陰影
(
かげ
)
であらう
風は草木にささやいた:01 風は草木にささやいた
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
唯
(
た
)
だ大いなる
陰影
(
かげ
)
のたなびく国なるか。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
その
陰影
(
かげ
)
をさへとらへんすべもなし
忘春詩集:02 忘春詩集
(新字旧仮名)
/
室生犀星
(著)
風がその
広※
(
ひだ
)
に
陰影
(
かげ
)
を与へた。
傾ける殿堂
(新字旧仮名)
/
上里春生
(著)
何時
(
いつ
)
しか暗い
陰影
(
かげ
)
が
頭腦
(
あたま
)
に
擴
(
はびこ
)
つて來る。私は、
恁
(
か
)
うして何處へといふ確かな
目的
(
あて
)
もなく、外套を
引被
(
ひつか
)
けて外へ飛び出して了ふ。
菊池君
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
ハタハタ、ハタハタと
蝙蝠
(
こうもり
)
が二人の
周囲
(
まわり
)
を飛び廻わる。その羽風に灯火が揺れ、壁上の
陰影
(
かげ
)
が延び縮みする。そうして大河の音が聞こえる。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
画描きでその画面に己が生活の貧苦の
陰影
(
かげ
)
の漂ふやうな、薄志の仁は決して盛名を克ち得るものでないと談られたので、それは宛ち絵画の道許りでなく
滝野川貧寒
(新字旧仮名)
/
正岡容
(著)
日に
翳
(
かざ
)
した薄色の絹は彼女の頬のあたりに柔かな
陰影
(
かげ
)
を作った。山本さんは又、旧いことまで思出したように、彼女と二人で歩くことを楽みにして歩いた。
船
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
憂鬱な心の
蟾蜍
(
かへろ
)
がかやつり草の
陰影
(
かげ
)
から啼き出す季節——而してやや蒸し暑くなつたセルのきものの肌触りさへまだ何となく棄て難い今日此頃の
気惰
(
けだ
)
るい快さに
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
頭髪
(
かみ
)
を
金色
(
こんじき
)
に染め、その蒼白い頬を生々した薔薇色に見せ、彼女の
周囲
(
まわり
)
をちょろちょろとダンスをやりながら、額や、
眼瞼
(
まぶた
)
や、唇のあたりに気まぐれな
陰影
(
かげ
)
を投げかけた。
犬舎
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
夜が明けて日が出ると、その姿は見えなくなる。ただ時たま、山の住民どもは、山腹に何か長い
陰影
(
かげ
)
がチラチラ映るのに気づくけれど、空は晴れ渡つて、雨雲ひとつ無い。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:03 怖ろしき復讐
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
ミケロアンゼロの
憂鬱
(
いううつ
)
はわれを去らずけり
桜花
(
さくら
)
の
陰影
(
かげ
)
は疲れてぞ見ゆれ
桜
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
そのあしもとから曳くたよりない
陰影
(
かげ
)
風は草木にささやいた:01 風は草木にささやいた
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
………けがらわしい地球の
陰影
(
かげ
)
が
月蝕
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
甲板に立てる人皆
陰影
(
かげ
)
を曳かず。
晶子詩篇全集拾遺
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
はしらの
陰影
(
かげ
)
を地に落し
春と修羅 第二集
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
何時しか暗い
陰影
(
かげ
)
が
頭脳
(
あたま
)
に
拡
(
はびこ
)
つて来る。私は、
恁
(
か
)
うして何処へといふ確かな
目的
(
あて
)
もなく、外套を
引被
(
ひつか
)
けて外へ飛び出して了ふ。
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
肩の辺に月光が射し、長い
陰影
(
かげ
)
が地に落ちた。有髪の僧は階段を下の方へ下りて行った。世にも寂し気の姿であった。罪人のような姿であった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ランプの笠の
陰影
(
かげ
)
で半分から上を薄暗く見せているその部屋には、燻っている蚊燻しの傍で七つになるもらい娘のお六が、クリクリした目を余計大きくさせて
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
その頭が煙突や屋根にまでとどくやうな厖大な
陰影
(
かげ
)
が壁面にゆらゆらと映つてゐる。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
昼の蝋燭が鼻の
真向
(
まつかう
)
にしんみりと光り輝く、眼と眼とが
凝
(
ぢつ
)
とその底から吸ひ付くやうに差覗く……つくづくと
陰影
(
かげ
)
と霊魂と睨み会つたまま底の底から自愛と憐憫の心とが切々と滲み出る。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
霧雨は相変らず細々と降りつづいて、すべてのものが灰色の
陰影
(
かげ
)
のなかにぼかされかけていた。彼女の痩せた顔の輪廓もおぼろになって、熱に燃える大きな二つの眼玉ばかりが人目をひいた。
碧眼
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
尚よく見ると、言ふに言はれぬ
恐怖
(
おそれ
)
と
悲愁
(
うれひ
)
とが女らしい愛らしさに交つて、
陰影
(
かげ
)
のやうに
顕
(
あらは
)
れたり、隠れたりする。何をお志保は考へたのだらう。何を感じたのだらう。何を思出したのだらう。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
節
(
せつ
)
と
節
(
せつ
)
との
間
(
あひだ
)
に
陰影
(
かげ
)
がある。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
薔薇の
陰影
(
かげ
)
のじふてりあ
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
一点の
陰影
(
かげ
)
も濁りもない、そういう人間に——それも女に——そうです女に限るんで、特に私には限るんですが——そういう女にぶつかりますと
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
“陰影”の意味
《名詞》
陰影(いんえい :「陰翳」の「同音の漢字による書きかえ」)
薄暗いかげ。
ニュアンス。
(出典:Wiktionary)
陰
常用漢字
中学
部首:⾩
11画
影
常用漢字
中学
部首:⼺
15画
“陰”で始まる語句
陰
陰鬱
陰気
陰翳
陰陽師
陰氣
陰陽
陰欝
陰々
陰謀