おと)” の例文
旧字:
ただこれあるがゆえに、攻城の士気はゆるまなかった。そしてなお半歳もかかったが、よく三木城の堅守けんしゅおとし得たともいえると思う。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先んぜられたり、心外、と二人も駈入りて手痛く戦う。氏郷本陣の小姓馬廻りまで、ただ瞬く間におとせ、と手柄を競って揉立もみたつる。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに対して即座に信長が打った手は、柴田明智等の部将を派遣して石山や今堅田の城をおとし、京都への通路を確保することだけであった。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その上、雪子に化けて、大宅君のアリバイを否定し、いや応なしに罪におとしてしまう必要もあったのだからね。実にすばらしい思いつきだよ
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
火がなくては暗くて判らない。火があっては相手が出て来ない。まことに始末が悪いので、かれらは相談して一種のおとあなを作ることにした。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お国の策動はいよいよ烈しくて今度は自分の屋敷の若党源助をおだてて、孝助をおとし入れようとする。この源助の性格もまたよく描かれている。
僕におとされたんだ。恨め! 恨め! 僕も地獄に行く! こういう決意をしてから僕はたびたび死ぬ時をねらった。そうしてついに決行したのだ。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
もとよりお秀を教唆そそのかして死地におとしたは貴女という推量ばかりで証拠は無いが、私は検事でもなく、判事でもございません、罪の軽重は論じない。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古典の註釈を業とする者の、是は一つのおとし穴であるが、我々だけは用心しまたそれを防ぐ策を講じなければならぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「陸軍はもう平壌へいじょうおとしたかもしれないね」と短小精悍せいかんとも言いつべき一少尉は頬杖ほおづえつきたるまま一座を見回したり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「お前は伊勢屋を賀奈女殺しの罪におとしたら死んだ娘のお今が歎くだろうと気が付かなかったのか。——お前の娘ながら、伊勢屋の女房は貞女だった」
もしなんじの右の眼、なんじを罪におとさば、えぐり出してこれを棄てよ……もし右の手、なんじを罪に陥さばこれをり棄てよ。そは、五体の一つを失うは、全身を
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兄を深淵しんえんへ突きおとした後で、その肉親の弟をも、同じところへ突き陥すような残酷なことはなさるまいとは思いますけれども、念のためにお願して置くのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とにかく外見は友人のために時間や手数てすうをつぶしている、しかし事実は友人のためにおとあなを掘る手伝いをしている、——あたしもずいぶん奮闘主義ですが
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに、そんなものを書くことは、自分で自分を一層どうしようもない破目はめおとし入れるようなものであることにも気がついたのだ。「アドルフ」の例が考えられた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
だんだん暗くなってゆく視野は、八十助の心臓をだんだん不安におとしいれてゆくのであった。……
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
伊沢の会社では「ラバウルをおとすな」とか「飛行機をラバウルへ!」とか企画をたてコンテを作っているうちに米軍はもうラバウルを通りこしてサイパンに上陸していた。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
勝四郎は雀部ささべに従ひて京にゆき、絹ども残りなく交易せしほどに、当時このごろ都は四三花美くわびを好むときなれば、四四よき徳とりてあづまに帰る用意はかりごとをなすに、今度このたび上杉のつはもの鎌倉の御所をおと
が、それ等は要するに私のノート、私の書類に外ならぬので——即ち私の偏頗へんぱな感情と、囚われた野心と、遮二無二彼を罪におとそうとする私の必要からつくり上げたものなのです。
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
とうにもう主水之介をおとし入れて、あと片附けまでが済んだようにも思えるのです。
姦淫の恐るべきも亦之がためである、「若し汝の眼汝を罪におとさば抉出ぬきいだして之をすてよ、そは五体の一を失うは全身を地獄に投入れらるるよりは勝ればなり」とある(同五章二十九節)
仮令たとえ悪人でも殿様のお側近くへまいる役柄を勤める大藏を、かたきと云って無闇に討つことは出来んから、暇を取ったら、すぐに討て……梅三郎貴様は大藏のため既に罪におとされしかどもあり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この余裕ある私の学生生活が私を思いも寄らない境遇におとし入れたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諸君の前にいろいろなおとしあなが口をあいて待っているのだ、諸君は右を見ても左を見ても諸君を誘惑するものが並び立っているとき、自らの理性に訴えて悪をしりぞけ善を採用せねばならぬ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
一生懸命いわ獅噛しがみ付いて、ようよう命をおとさずに済んだそうである。
それでもなお摂津守がき入れぬ場合は、われらが先鋒となって、きっと尼ヶ崎も花隈もおとして、織田家の軍門に降るでありましょう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鎮江ちんこうたたかいに、とらえられてばくせらるゝや、勇躍して縛を断ち、とうを持てる者を殺して脱帰し、ただちに衆を導いて城をおとしゝことあり。勇力察すし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そんな話じゃない。——俺は口幅ったいようだが、人を無実の罪におとすのは大嫌いさ。近江屋の娘を殺したのは、お前でない事はよく解っているよ」
こんな薄弱な理由で、塩冶高貞ともあるべきものをみだりに謀叛人におとすことは出来ないと彼は思った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
待って下さい。君達の集めた証拠はみんな偶然の暗合に過ぎない。そんなもので罪におとされてたまるものか。第一僕には動機がないのだ。僕が、何の恨みもない許婚の少女を
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ここにあるゆえ仕方がないわ。びっくり致すな。井戸掘人夫を入れて掘らしたはおとし穴じゃ。大工達に造えさせおるは釣天井じゃ。みなこれ悪僧護持院隆光ごじいんりゅうこうめを亡き者に致す手筈じゃわ」
この戦に於て、敗軍に属しながら、かえって不思議に運を開いたのが松平元康、後の徳川家康である。元康は五月十九日の朝、丸根をおとした後大高に居ったが、晩景になって義元の敗報が達した。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつでもおとそうと思う日に陥し得られるこの城だが、目的の珠玉しゅぎょくを、焼けあとの灰のなかに掻き探すようなへたをしてはならない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市兵衛は娘をここまでおとし込んだ、大身の旗本の無情な要求を、娘を殺した下手人よりも憎んでいる様子です。
来世は地獄にちるとも、彼は邪が非でもこの望みを押し通さなければならないといらだった末に、彼は塩冶を謀叛人におとしてその妻を奪い取ろうとたくらんだのであった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いゝえ! わたくしは、そうは思いません。」瑠璃子は、昂然こうぜんとして父の言葉を遮ぎった。「荘田のやりましたような奸計かんけいめぐらしたならば、どんな人間をだって、罪におとすことは容易だと思います。 ...
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は運悪くも、偶然、恐しい間違いにおとされてしまったのです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おれとしたことが、摂津守村重せっつのかみむらしげに計りおとされるとは。……さてさて世道人心は複雑になって来たな。どうも、常道ではいけないようだ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見ると、幽霊は不意に、おとあなに落ち込む人のように、あッと思う間もなく大地にめり込んで、あとは、塔婆と白張と井戸と柳が、ほの暗い中に残るばかり。
もし他言すれば、わたしの口ひとつでお前もきっと同罪におとしてみせるとお定は泣きながら彼をおどした。吉助はもう頭がくらんでしまって、結局お定の指尺さしがね通りに動くことになった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寄手は、予想外の犠牲をはらい、夜に入って、ようやく、おとした。城主の前田治利はるとしは、意志どおり、心おきない討死をとげた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言わない、——どうしても言わない、私達をこんな羽目におとし込んだのはお前だろう。——その代りお前の名前を譫言うわごとに言っているあの娘は、この御殿と一緒に木端微塵こっぱみじんに砕け散るよ。
なんだかおとあなでもありそうに思われて迂濶うかつには歩かれない。
九月四日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ご冗談ではない。何が起ろうと、九紋龍どのがわなおとしたなどと思うわれらではありません。おうっ、待ってください、火をかけるのは」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「石田様、驚いてはいけません、貴方様を罪におとすためでした」
のみならず、附近一帯に、ほりをめぐらし、それへ棚をかけて、また上から土をかぶせ、おとあなを作っておいたのを、西涼勢はそうとも知らず
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「畜生ッ、私を罪におとす気かえ」
「敵は早や本山のとりでを攻めおとしたと見ゆるわ。賤ヶ嶽も危うい、岩崎山も恐らく持つまい。……与右衛門、三郎右、その方どもは何と見るの」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明石景親あかしかげちかは、宇喜多うきた家の被官ひかんで、八幡山の城をかため、たとえ三木城はおとし得ても、次の大敵たることはいうまでもない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あげくに、おとあなへ落ちこみ、からられて、やがて、宋江のいる本陣へ、大熊みたいに、曳きずられて行ったのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)